関係ない話よ

◆ Side 紅葉


 リバイアサン(?)の噂を聞いた翌日、私は噂の真相を確かめるべく、60階層に行くことにした……のだが、またしても寮の前で赤木君一行と鉢合わせてしまった。


「今から迷宮に?」


「ええ、そうよ。そっちも?」


「ああ。何層に行くんだ?」


 別に嘘を吐く必要もないし、私は正直に答える。


「白亜の森へ」


「あ、そうなんだ。奇遇だな、俺達も恐竜相手に新魔法の練習をするつもりなんだよ」


「へえ、そう」


「ねえ、紅葉さん。紅葉さんって確か90層まで攻略してるんだよね? どうして今更白亜の森に?」


 赤木君の恋人(?)の一人、七瀬さんがそう尋ねてくる。厄介ね。


「別に。そういう気分だっただけよ」


「もしかして例の噂関係ですか? 龍が現れるって言う噂がありますよね?」


 水の巫女である宮杜さんがズバリな事を言った。否定するべきかしら? でも、変に誤魔化して、怪しく思われるのは困るわよね。


「ええ、そうよ。噂なんて信用していないけど、もし仮に学生に害をなす存在だったら困るでしょう? だから念のために調査するの」


「なるほど、そうなんですね」

「せっかくだし、私達も一緒について行っていいかな? もし本当に龍がいるなら見てみたいし!」


 それは困る。今回の件でも彼らに手伝ってもらって、その上彼らが解決してしまったら? 私はますます、精神的に追い込まれるだろう。だから……。


「これは私の仕事。あなた達には関係ない話よ」


 私は彼らの申し出を断った。

 ……もう少しやんわり断った方が良かったかしら。でも、なぜかそうする気にはなれなかった。



「確か、噂のあった階層は65層よね。65層でリバイアサンが居そうな場所と言えば……やっぱりあそこかしら?」


 65層は白亜の森の中でも異彩を放っている場所で、フィールド全体が水浸しなの。65層は水深10センチほどの巨大な湖であり、点々と今にも水没しそうな島があるようなエリア。

 白い砂浜、澄んだ水、その上ごみ一つない。そんな場所であるためか、このフィールドはカップルに人気なエリアだそうだ。……赤木君たちもここでデートするのかしら?

 ああ、いくらデートスポットと言っても、ここの本質は魔物の巣。当然魔物が出てくるので、フォルテとしてそこそこの実力を持っていない限りデートは楽しめないわ。ちなみに、よく出くわす魔物はパラサウロロフスとディノスクスね。これ、テストに出るわよ。三年生の範囲だけど。


 話がそれてしまったわね。えーっと、要約すると65層は一面が水深10センチほどの湖なの。だけど、その中央には深めの湖が存在しているわ。水深は1~10メートルで、中では多くのディノスクスが泳いでいる。

 ディノスクスっていうのは体長10メートルくらいのワニよ。ディノスクスは地上(および水深が浅いところ)ではのろまなのだけど、水の中ではすごいスピードで泳ぐわ。つまり、中央の湖は完全に彼らのテリトリーになっている。考えなしに人が入ったら確実に死ぬわね。その性質から、中央の湖は「死の穴」なんて呼ばれているらしいわ。


「もし本当に何か潜んでいるならこの湖の中よね……。まずはディノスクスを減らさないと……」


 水の中でディノスクスと戦っても負けない自信があるけど、それでも面倒だ。できれば数を減らしてから水中を探索したい。

 ここで問題になってくるのは「迷宮内の魔物を倒したとして、総数は減るのか」という事。魔物は一定周期でリポップすることが知られており、それ故に普通は魔物の個体数を減らすことは出来ないとされている。

 とはいえ、だ。リポップするにはある程度の時間がかかるので、個体数を少し減らすくらいはできるはず。そして、ディノスクスのリポップ周期は1時間とされているから、1時間ディノスクスを倒し続ければ個体数はかなり減るはずよ。


「じゃあ、始めようかしら」



◆ Side ???



陽菜はるな様が湖の中に入っていかれます。どうしますか?」


「……はあ。困ったことになりましたね。私が行きます、私なら水の上を歩けますので」


「了解です。まあ正直、陽菜はるな様なら何の問題もないとは思いますが……。万が一という事もありますからね」


「ええ」


 実は紅葉は何者かに尾行されていた。そして、紅葉ほどのフォルテさえも気が付いていないことからも分かるように、この二人は相当の実力者である。一人目は索敵や望遠の魔法に長けた人で、もう一人は忍者のような魔法(隠密、暗殺、水の上を歩くなど)に長けた人物である。


 この二人が紅葉を「陽菜様」と呼んでいることからも分かる通り、この二人は敵ではない。むしろ彼女の味方である。

 二人の役目は火の巫女である紅葉を陰から護衛すること。本人に悟られることなく、けれど彼女に万が一のことがあれば助けに行けるような距離感を保って行動する。

 もっとも、この二人が手伝うまでもなく、紅葉は順調に攻略を進めていた。今回も特に問題は発生しないだろう。



 ……そう思っていた。



 しかしこの後。二人が常時監視していたにも関わらず、紅葉が行方不明になってしまった。




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