フォーメーション
紅葉さんのことはいったん忘れて、とりあえず迷宮攻略を進めないと。
さて、今日から攻略を始める階層は非常に楽しみにしていた階層の一つである。というのも、ここでエンカウントする魔物がとてもロマンあふれる生き物だからだ。
「ねえねえ、確か今日から攻略する61~70層って恐竜がいるんだよね?」
「ジュラシックな公園みたいな場所なんですよね?」
「そうだな。ただ、ジュラシックな公園と違って61層以降のエリアは白亜紀をイメージしてて『白亜の森』って名前がついているはずだ」
そう、この階層では恐竜と出会えるのだ。もう一度言う、恐竜と出会えるんだ! 恐竜ですよ恐竜!(何回言うねん)
ちなみに、「ジュラの森」ではなく「白亜の森」という名前が付いているのには理由があって、ここはそこら中に花が咲いているエリアだからである。
「どういう事?」
「ジュラ紀には花がなかったんですか?」
「完全に『無かった』とは言えないけど、少なくとも今俺たちが『花』と聞いて想像するような花が出現したのは白亜紀以降なんだ。生物の授業で被子植物と裸子植物って習っただろ?」
「被子植物がお花を咲かせる樹木ですよね?」
「裸子植物は松とか杉とかだよね? なるほど、ジュラ紀には裸子植物しか存在しなかったの?」
「そう。まあ、実際にはその境界はあいまいらしいけどな」
そんな話をしつつ、俺たちは迷宮へ入った。
◆
「さて、攻略の前に作戦会議って言うかフォーメーションの確認をしたい」
「「フォーメーション?」」
「ああ。今までは、そういうのをあんまり意識せずに戦ってきただろ? ただ、この階層以降は少し事情が異なる」
例えば、このパーティーで攻撃力の強さを比較してみよう。俺が無属性魔法しか使わないとしたら、宮杜さん>俺>七瀬さんである。一方で、防御/回避脳力でいうと俺>七瀬さん>宮杜さんである。宮杜さんも最近は自力でシールドを張れるし、的に狙われてもある程度平気だとは思うが、どでかい恐竜に体当たりを食らえばシールドごと吹き飛ばされるだろう。
よって、俺たちの理想は宮杜さんが攻撃を担当して、俺と七瀬さんがヘイトを集めることだ。
という事を説明すると、二人はそれに頷いた。
「うんうん。元々、私って避けタンクを目指してるんだしね」
「私のシールドは紅葉さんの火魔法並みの攻撃は防げないですものね。となると、シールドを張りつつも、回避するというのが理想ですが、私は運動神経があまり良いほうではないですし……」
なお、一応言っておくと、入学当初こそ宮杜さんの運動神経はあまり宜しくなかったけれども、今となっては彼女はそこらの男子高校生よりも遥かに瞬発力も持久力もある。特に巫女になってからが顕著だと思う。
要は、俺や七瀬さんのような身体強化/思考並列化を持った人と比べてたら「運動神経が悪い」のであって、決して弱いという訳ではない。
「今後の攻略では改めてこの方針を意識して戦いたい。今まで以上に七瀬さんはヘイト集めを、宮杜さんは攻撃を意識した立ち回りをした方がいいと思ってる。理由は恐竜の生命力の高さだ。意外に感じるかもしれないけど、恐竜の攻撃力は大したことないんだ」
「そうなの?」
「すっごく強いってイメージがありますが……」
「ああ、実際、あの顎で噛みつかれたら、すごいダメージになるだろうな」
「だよね? これで『実は甘噛みしてくれる』とか言われたら、私は何も信じられなくなっちゃう」
「じゃあ、強くないってどういうことですか?」
「すでに知っているかもしれないけど、恐竜は遠距離攻撃してこないんだ。体当たりとか噛みつきと言った近接攻撃しかできず、弾幕を放ってくることがない。また、ウナギみたいに地面に潜ることも無ければ、その他面倒なモーションも存在しない」
想像してみてくれ。ティラノサウルスが炎を吐いたらどう思う? もしそんなのを見てしまったら、素直に「恐竜に会えた!」って喜べないだろ?
恐竜は恐竜だからロマンがあるんだよ。ただ強ければいいって訳じゃあない。魔法とかそういったファンタジー要素を使わず、物理的に強いからカッコイイんだ。
ちなみに、すでにお察しかもしれないが、俺は恐竜好きである。
「そうなんだ?! そう聞くと、恐竜ってかなり弱そうだけど……」
「61層にいる以上、そこそこ強いんですよね? ネットに『恐竜はヤバい』みたいな書き込みもありましたし……」
「そこなんだよ。確かに恐竜の攻撃力はそんなに強くない。けど、ずんぐりバードとか帰らぬカエルよりは厄介とされてる。それが意味するところは……」
「防御力が高い、とか?」
「動きが素早いのでしょうか?」
「七瀬さんが正解だな。防御力が高いんだ。攻撃しても攻撃しても倒せず、結局こちらの体力ばかり削られる、なんて事態が起こりうる」
「なるほど。長期戦になることを踏まえて、正しいフォーメーションを意識するべきってことね?」
「ああ。さて、早速魔物が来たぞ」
ザ……
ザ……
ズザ…
ズザ…
ズシン
ズシン
ズシン
「わあ! 立派な角!」
「かっこいいですね!」
「初戦の相手はトリケラトプスだな」
ルロロロロロオオオオオ!
トリケラトプスが咆哮した。
「あれ、トリケラトプスって草食だよね? なんで私たちを襲うの?」
「そこはアレだよ、向こうからしたら俺たちは敵だから。自衛しようとしてるんだよ。多分」
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