なーんか敵視されてる

 軽く準備を整えてから、俺たちは無現迷宮に向かう。するとタイミングがいいのか悪いのか、ちょうど紅葉さんも寮から出るところだった。


「おはよう。またあなた達はそうやって……。学生なんだからもう少しぴしっとしなさいよ」


「いやいや。今日は普通に迷宮に向かってるだけでは?」


 例の事件直後は「いつも一緒にいるアピール」をしていたが、最近はある程度自重するようになった……はずだ。いや、俺の感覚が麻痺してるだけかもしれないけど。


「どうかしら? 今朝も一緒の部屋から出てきてたし」


「一緒に朝ごはんを食べてただけだぞ?」

「そうそう。もしかして紅葉さん、変な想像してる?」

「! いや、本当に、ただ一緒にご飯を食べてただけですよ?!」


「ち、違うわよ! はあ、そんな態度では立派なフォルテにはなれないわよ。特に宮杜さんは巫女なんだから……」


「そういわれても~」

「むしろ巫女になったから赤木君に守ってもらってるわけですし……」


「……。なんで宮杜さんが巫女でいられるのか本当に納得がいかないわ」


 そう言って紅葉さんは去っていった。

 取り残された俺たちは何とも言えない顔で互いを見つめあった。


「なーんか敵視されてるよな、俺達」

「ほんとなんででしょう……」

「嫉妬じゃないの?」


「嫉妬?」


「ほら、紅葉さんってお嬢様として育てられた結果、異性との関わりとかなさそうじゃない?」


「あーそれで『ちっ、あいつら遊びやがって』みたいな?」


「それもあるかもだけど、魔法杯の時に赤木君の活躍を見て、一目惚れでもしたのかなって」


「いや、それはないだろ。いくら異性に免疫がない人だからって」


 そりゃあ、創作だと「異性に免疫のないお嬢様が、自分に優しくしてくれた男性に一目ぼれ」みたいな展開もあるけどさ。紅葉さんはそんな感じじゃないと思うぞ。


「でも、あの時の紅葉さん、赤木君に憧れのまなざしを向けてたよ。宮杜さんもそう思うよね?」

「はい。それが恋愛感情かどうかはともかく、少なくとも尊敬のまなざしを向けていましたね」


「宮杜さんまで……」


 宮杜さんが同意するなんて思ってなかった。七瀬さんは(身長的にも精神的にも)子供っぽい所があるから、勝手に妄想しているだけだと思っていたが、まさか宮杜さんまで七瀬さんに同意するとは。

 七瀬さんは「ほら、やっぱりー」と言う。しかし、宮杜さんはもう一言付け加えた。


「だた……」


「「?」」


「最初は純粋な尊敬だったのですが、時間が経つにつれてそうじゃなくなってきているように思います」


「? というと?」

「『この不純物め!』みたいな? 確かにそういわれたらそうかも……?」


 え、俺、不純物扱いされてるの?


「えっと、そういう訳ではないと思いますよ? ただ……。いえ、すみません。やっぱり分からないです」




◆ Side 紅葉


 ごう


 私の前にいた魔物が炎に包まれる。魔物は炎を振り払おうと暴れるも、私が操る炎は蛇のような絡みついて、魔物の生命力を削る。やがて、魔物はドロップアイテムに変化して消えた。


「はあ……」


 私は今、とてつもなくイライラしている。理由は、朝から例の三人が仲良さそうにしているのを見たから。

 だけどなぜ? なぜあの三人を見ると、私はイライラするのかしら? それが自分でも分からない。

 はっきりとその理由がわかれば、それについて自分の中で整理をつければいいのだけど、理由がはっきりと分からない以上、私はこのイライラをどうすることもできず、こうして魔物を倒すことでストレスを発散する。


 浮かれている人間を見て「自分は恋愛にかまけることもできないのにあいつらは……」って思っているとか? そんなことはない……と思う。だって、今までもああやって浮かれている人たちを目の当たりにしてきたけど、そんな感情は抱かなかったから。


 自分と同等に、もしかしたらそれ以上に強い人間を見て焦っている? それはあるかもしれないけど、それは焦りであってイライラではない。


 宮杜さんが水の巫女らしからぬことをしていることにイラついている? うーん、そう言う思いが私の中にあることは否めないわ。正直、「なんで努力を重ねている私が」って思ってしまう。「なんでぽっと出の子が私と同等の力を得るのよ」って。

 でも、そんな思いも彼女の境遇を調べて消え失せた。報告によると、彼女はフォルテになった事で相当つらい経験をしたらしい。両親からのネグレクト、村の全員が彼女を避ける、いないものとして扱う。この日本で、いまだにそんな地域があるなんて、正直信じられなかったわ。そんな境遇を経た彼女を「何の努力もせずに力を得た人」なんて一度でも思ってしまった自分を恥じたわ。

 今、彼女が赤木君を慕っているのも、そういった過去があってのことなのかも。愛情や友情に飢えてる、みたいな。もしかしたらそういった境遇を汲んで、属性神は「多少の恋愛も許してやろう」って思ってるとか?


 最後の可能性。私が赤木君に恋心を抱いていて、女の子と仲良くしているのが気に食わない? 流石にそれはない。

 彼は日々能力研究部で修行しているだけあって強いし、魔法杯で見せた勇気は、尊敬に値すると思っている。また、惜しげもなく私にオオクチのドロップアイテムを譲ってくれたし、いい人だろうなと思っている。けど、それだけだ。

 そもそも私は恋愛なんて興味がない。誰かと一緒に過ごすだけでもストレスなのに、ましてや異性と過ごす? 無理無理、ストレスでしかないわ。




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