夏休みの予定
「それで、夏休みはどんな予定にするの?」
朝食後、俺の部屋でのんびりしていた俺達だったが、七瀬さんがそう言ったことで少し真面目な空気になる。
「そうだなあ。元々はこれが手に入った時点でいったん休憩かなーなんて思ってたんだけど」
俺は自分の小指に嵌めた「黄金羊の指輪」を指さす。
「これね。いやあ、本当にすごいアイテムだよね……」
「致死ダメージを受けても、一度だけ復活できるんですよね?」
「ああ。ただ、蘇生場所は戦闘場所のすぐ近くらしいから、迷宮で使えるかと聞かれたら微妙だな」
「だね。『死んでしまった。しかし蘇生した。しかし、すぐに死んでしまった』ってなるよね?」
「そういう意味でも、これに頼らず『蘇生はあくまで対不意撃ち』と考えておくべきでしょうか?」
「そうだな。迷宮攻略においては、しっかり安全マージンを取った方がいいな」
「うん、そうだね」
「はい」
「それで? 『
「まあ、な。壊れゆく庭園の物語ボスを攻略している最中、『卒業後が不安』って話をしたじゃん?」
卒業後は、無限迷宮以外の魔物の巣で活動することになる。そこは「戦闘不能=死」であり、例年殉職者が出るような職場である。それこそ、俺の両親が帰らぬ人になった事も、「別に不思議な事じゃない。ただ運が悪かっただけ」と流されてしまうくらいには。
「うん」
「それで、どうしたものかって色々思案しててさ」
ゲームなら絶対にスルーしてたようなアイテム。それらを取りに行くとなると、それ相応の対策をする必要があるからな。
「どうしたものかって、何か凄い案が……? まさか結婚→出産→育児休暇?」
「え?!」
「違うよ?! 普通に強くなる方法を考えてたんだ」
「なんだ、びっくりした~。つまり、今の間に特訓に特訓を重ねて、最強無敵になろうってコト?」
「まあそれに近いかな。ただ、最強無敵って言っても、能力を鍛えるだけじゃあ足りない。アイテムをもっと集めて、身の安全をガッチガチに固めるべきかなあって思って」
「この指輪みたいなアイテムを収集するという訳ですね」
「そういう事」
「じゃあ、早速迷宮に行く?」
「暁先輩が帰ってくるまでに、120層くらいまで行ったら、先輩も驚きそうですね!」
そう、実は暁先輩は帰省している。今朝の朝食会に先輩がいなかったのもその為である。
「じゃあ行こう! ……と言いたいところなんだが、それとは別にしたいこともあってさ。二人の意見も聞きたい」
「「?」」
「属性神とか巫女とかについて詳しく調べたいって思っててさ。今後、光の巫女と戦うことになるかもしれないしさ」
「あー。それもしないとだよね~」
「なるほど。彼を知り己を知れば百戦殆からずって奴ですね!」
「そう」
「でも、情報、集まるかなあ……? だって、紅葉さんも『これは機密だから!』って言うし、詳しく聞こうとしても『あまりこれ以上は分かってないわよ』って誤魔化すし……」
「属性神、いえ本人は自分のことをデーモンって言ってましたが、ともあれっきりコンタクトがとれていませんし……」
「デーモン、なあ……」
「神話における『神の召し使い』、今でいう『パソコンの裏方を担うプログラム』だっけ?」
「はい。そんな風に言ってました」
「うーん。今分かっていることを整理すると」
・デーモン(属性神)には火・水・土・風・光がいる。
・神話によると、これらの属性神と創造神が人に能力を授けた存在である。
・それぞれの属性に対し、一人の「巫女」が選ばれる。巫女は物凄く強くなれる。
・巫女の資格は、基本的には子供に継承される。子供がいない場合、ランダムな人物が巫女になる。
「あと、私が直接聞いたのが」
・人は属性神を神様と呼んだりしていますが、本人は「そんな崇高な存在じゃ無い」と言っていました。
・『第二人格』『心に入っている寄生虫』『デーモン』などと言っていました。
・デーモンさん曰く、赤木君の能力は力の格が違うそうです。また、赤木君には好感を抱いているそうです。
「寄生虫、ねえ。つまり、デーモンは人の心の中でしか存在できない存在、という感じなのかなあ?」
「でも、それなら『属性神が人々に能力を授けた』って部分が変だよね? だって、この言い方だと『属性神は人とは切り離された存在』ってことになるじゃない?」
「要検討だなあ」
「それと。えーっとデーモンさんは、赤木君についてなにやら特殊性を感じていた、と」
「格が違うって言われてもなあ。やっぱり複数属性仕えることか?」
「魔力量とか?」
「確かに、赤木君って魔力の量が尋常じゃないですよね? 底を尽きたこと、ありますか?」
「そういえば無いなあ。確かに、複数属性使えるって点は宮杜さんに見せてなかったし。となると、判断材料はやっぱり魔力量……? 今更だけど、魔力ってなんだよ……」
「確か教科書には『魔力は生命力のようなもの』なんだよね? ただ、エネルギー媒体として空気中にも存在するとか言ってたよね」
「あの授業、結局何を言っているのか分からなかったんですよね……」
「うーん。ま、これについてはゆっくり考えていく感じでいいか」
「そうだね~。じゃあ、今日は取り合えず迷宮に行く?」
「俺は賛成」
「私も賛成です」
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