其処で嘗てあった事、Epilogue

 ぺリアスが捕まったところで、スコーピオ公爵、リースさん、そしてエリーさんが俺達の前にやってきた。


「事件の真相を暴いてくれてありがとう」


 三人が俺たちに向かってほほ笑んだ、が彼らの顔はすぐに曇ってしまう。


「あなた達が、この場にいてくれたら……。そう思わずにはいられないですわ」


「「「え?」」」


 リースさんが不穏な言葉を口に出したその時、部屋の明かりが急に切れた。

 暗さに目が慣れてくると、そこは廃墟と化した屋敷へと変わり果てていた。


「これは……」

「通常ルートでたどり着く屋敷ですかね?」

「あ! 三人が!」


 先輩の言葉につられて公爵達を見ると、幽霊のように半透明になっていた。消えゆく彼らは、どこか寂しそうに其処そこかつてあった事を語ってくれた。



「君たちがいないと、公爵はエリーの心のうちに気づくこともできず、またダスとトレイルの悪だくみに気付くこともできなかった」


「全員が寝静まった頃、ダスとトレイルはリースの部屋に侵入し、そこで私とエリーを見つけてしまったのです」


「リースは戦闘能力がないし、エリーも魔法を封じていたからすぐには対抗できず、結局眠り薬で昏睡させられてしまったわ」


「そして、二人を誘拐したダスとトレイルはぺリアス王子と合流。ぺリアス王子は二人の魔力と生命力を生贄にパラダイムコントローラーを発動。ぺリアスのぺリアスによるぺリアスの為だけの政治が行われることになる。しかも、強力な洗脳がかかったから、公爵自身、娘二人がいなくなったことにすら気づくことができなかった」


「何が起こったのか分からないまま、ぺリアス王子の策略の生贄にされてしまった私達は、迷宮に取り込まれて挑戦者を攻撃する悪霊になってしまいました」


「それが何年も続き、そして今。事件の真相を知ることができたって訳ね。本当にありがとう」


 徐々に三人が消えていく。消えゆく自分の体を見て、「もう時間がない」と言ったリースさんは、彼女のポケットから指輪を四つ取り出した。


「最後にあなた達にこれを差し上げますわ」


 指輪がぴかりと光り、いつの間にかそれらは俺たちの小指に移動していた。黄金で出来たリングに、一つの宝石が埋め込まれている指輪だ。


「わあ!」

「きれいです……!」

「これって……魔石? いや、これは意思系アイテム?」


「いいんですか? こんな高級そうな物……」


「もう私たちは消えますからね。もう必要ないですわ」

「それは『黄金羊の指輪』と言って、効果は『致死ダメージを受けた時に、少し離れた場所で蘇生する』なの。あ、一戦闘に一度しか発動しないから、ゾンビアタックは出来ないわ」


「黄金羊の指輪……」

「蘇生……? そんなの、物語でしか見たことがないものです……」

「そ、想像以上なんだけど……」


 この世界、実は蘇生アイテムがほとんどない。ゲームでは「戦闘不能=挑戦者の為のチョーカーで迷宮を脱出」という扱いになっていたし。


「それでは皆さん。ごきげんよう」


 三人の姿が完全に消えて、後には60層クリアのチェックポイントだけが残されていたのだった。



「あれ、時間がほとんど経っていない?」

「ほんとだ! もう夜かと思ったのに、まだ明るい!」

「ま、まさか一周回ってしまったとか……」


「いや、そういう訳じゃなさそうですよ。ほら、日付も一緒」


「よかったです……。不思議ですね」

「もしかしたら、物語階層はリースさんたちの夢の中だったとか? だから時の流れがゆっくりだったとか」


 七瀬さんが面白い考察をしている。さあ、どうなんだろうなあ。俺も知らないや。


「時差ボケにならないか心配かも……」


 先輩は全然違った方向性の心配をしている。でも、気持ちは分かる。



「これで宮杜さんの安全がある程度確保されたかな?」

「?! なるほど、確かに!」

「まさかこうなると分かってて……?」


「いやいや、知りませんでしたよ?(大嘘)」


「そうなんですか? てっきり赤木君、全部わかっているのかと……。推理も凄かったですし」

「確かに!」


「ああ、それは元ネタを知っていたからだな」


「「「元ネタ?」」」


「そう。イアソンとかアルゴって聞いたことない?」


 フルフルと顔を横に振る三人。


 まあ、俺自身、最近知ったんだけどさ。羊座にまつわる神話なんだ。

 そもそもゾーディアック家って言ってた『ゾーディアック』は黄道の事。あの家は黄道の星座と関わりがあるんだ。裏ボスへ行くための道中も黄道十二星座にまつわる謎だったし。

 スコーピオ公爵はスコーピオ、さそり座だ。じゃあエリーとリースは?

 あの二人は、二人合わせてエリース、羊座だ。


 羊座のモデルになった『黄金の羊』にまつわる伝説で、イアソンとぺリアスって名前の兄弟が登場するんだ。


 本家ではぺリアスがイアソンに「黄金の羊の毛を持ってこい。そうしたらお前に王位を譲ろう」って言うんだ。で、イアソンはアルゴ号に乗って黄金の羊を取りに行く。

 苦労の末に羊の毛を手に入れたイアソンだが、なんやかんやあってぺリアスには裏切られ、結局王にはなれずにこの世を去る。


「なるほど。エリーとリースという『黄金の羊』はイアソンによって誘拐されて、でもそんなイアソンもぺリアスに騙されていた。今回の事件に近いね。というか船の名前も『アルゴ』なんだ」


「だから、最初はイアソンもアルゴの一味だと思っていたんだが……。違ったみたいだな」


「まあ、アルゴが王家とつながっていた以上、イアソンも本人は自覚していなかったとはいえ、アルゴの仲間だったとも言えますし」


「確かに! あと、黄金の羊にはもう一つ伝説があってな。義母に殺されそうになっていた兄妹を連れて別の土地へ行くって話もあるんだ。その伝説では妹は死んでしまうんだけどさ。これってベータとエリーに似てないか? 男女が国外に脱出しようとして、女性は死んでしまうって所が」


「「「なるほどね~」」」




 そういえばこの後、60層の通常ボス「深窓の亡霊嬢」の攻撃が単調で機械的になったという話を聞いた。ナンノコトダロー? 俺たちは知らないフリをしたのだった。



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