其処で嘗てあった事、Part15
ラスボスは強い、がありとあらゆるゲームの鉄則だ。そしてそれは、物語ボスでも言えることである。ぺリアスはかなり強力なボスである。
ぺリアスが腕を振るうと、雷を纏ってバチバチ音を立てている火の玉が四方八方に打ち出された。
「ぐあああ!」
「ひーん」
「うぎゃああ」
騎士団のみなさんは防御が間に合わず、あるいは防御しても貫通してしまい、全員麻痺状態になってしまった。なお、非戦闘員であるリースさんやメイドは七瀬さんやスコーピオ公爵の手によって避難していたから無事である。
「騎士団も大した事ねえな!」
と言ったぺリアスは、自身の周りに火の竜巻を発生させる。正確には火災旋風と言った方がいいのかも? ってそんなことを考えている場合じゃないな。このままでは騎士団の皆さんが丸焼きにされてしまう!
俺と宮杜さんで水魔法をぶつけて火魔法を相殺しようとするも、ぺリアスの魔法を完全に打ち消すことは出来なかった。不味い……! とそこで、暁先輩が土魔法で騎士団の皆さんの前に壁を生成して余波から守った。ナイスだ!
「っち、邪魔しやがって!」
ぎろりと俺たちをにらむぺリアス。ゲームでは戦闘中に会話なんてできなかったが、この世界では出来るのかな。煽ったりできたり?
「ぺリアスって名前、なんか地味だよな。ペットの犬につける名前みたいだ」
「ーー! 死ねやおらああ!」
おお、煽ることに成功した。
「おっと、その程度か? 弱い弱い。仕返しだ!」
火魔法をレーザーが如く放ってくるが俺はそれをシールドの魔法で防ぎ、ついでに得意の無属性魔法で反撃。
「加勢する!」「私も!」
スコーピオ公爵とエリーさん?! え、二人が協力してくれるの? ゲームではこの二人も戦闘不能になってたんだが? マジか、そんなことが?! 二人ってどんな魔法を使うんだろう、見てみたい!
スコーピオ公爵は召喚魔法でサソリっぽい魔物を召喚し、エリーさんは羊っぽい魔物を召喚。なるほど、テイマーか召喚術師だったのか? いや、エリーさんはそれに加えて土属性魔法も使えるみたいだ。
これで一気に俺たちが優勢か? そう思われたが、ぺリアス王子も負けていなかった。
「くっそ! これでどうだあああ!」
ぺリアスが地面に強く足を打ち付けると、バチバチと空間内に雷が走った。なんだこれ、ゲームではなかった挙動だ!
俺はすぐに魔力感知状態に入る。アナライズを発動しその魔法の特性を解析する。なるほど、この魔法は二種類の魔法で構成されているようだ。まず一つ目が彼の足元と、彼の真上の天井に位置している「蓄電」の魔法。二つ目の魔法は空間内に走る雷を構成している「充電」の魔法だ。
つまり、彼は小さな雷を多数発生させることで、上下に位置している魔方陣にエネルギーを蓄えているのだ。魔法で作るコンデンサ、みたいな感じだ。
?!
魔方陣の攻勢が急に変わった! 蓄電されていたエネルギーが彼に向かって流れ込んでいく。そしてそれを……エリーさんに向かって撃ちだそうとしている!
エリーさんなら防げるか? 思考並列化中、引き伸ばされた時間の中で彼女の顔色を伺うと、絶望の表情を浮かべていた。防御魔法を発動しようとしているが、明らかに強度不足だ! これはまずい!
ぺリアス王子は満面の笑みを浮かべている。こいつ、狂ってやがる……。いやまあ、これで良い人だったら倒すのを躊躇してしまうから、いっそこれくらいヤバい奴の方がありがたいけどさ。
ってそんなことを考えている場合じゃない! 俺のシールドで防げるか? ……無理だ。攻撃を逸らすことなら出来るけど、逸らした先に他の人がいたら本末転倒だ。あれ、なんで俺、この攻撃を無効化は出来ないって分かったんだろ?
ならどうする? ああ、不味い。もう雷神の権化のような魔法が彼の手から放たれた。
考えろ、考えろ!
……そもそも雷の弾ってどういう仕組みなんだろう?
雷、というか電流は電子がプラスに移動しようとする現象だ。例えば自然現象の雷なら、雲が負に帯電していて、地面が正に帯電しているよな。
もう一度弾幕をよく観察する。
……見えた
よく見ると、あの弾幕もコンデンサみたいになっているように見える。外側が負、内側が正に帯電している。
じゃあ、ショートさせればエネルギーを失うのでは? ……いや、それも駄目だ。ショートさせた時に出る強力なエネルギーが爆発を引き起こす。そんなことをしたら、エリーさんもろとも俺も吹き飛んでしまう。
なら、穏便にアレをどうにかする方法は……。跳ね返すのは無理そうだし。
ああ、本当に不味い。どんどんエリーさんに近づいている。スコーピオ公爵とその召喚獣が彼女を守ろうとしているが、間に合いそうにない。
ああ、あの弾幕を「ちょっと君たちの対処は後で」って横にどけることができないかなあ? ……出来ないよなあ。
いや、本当に出来ないか?
出来るのでは?
さっきぺリアスが使っていた帯電魔法あれを真似したら、このエネルギーを他所へやることができるのではなかろうか? いや、出来るに違いない。
◆
「え……?」
「な?!」
「マジかよ」
死を覚悟していたであろうエリーさんが、自分がまだ生きていることに驚いている。必殺技がエリーに届かなかった事が信じられないのか、ぺリアスは唖然としている。スコーピオ公爵が俺の手に視線を向けて、あっけにとられている。
弾幕がエリーさんに着弾する前に、俺は右手を弾幕に突っ込んだ。蓄電魔法を発動させながら。結果、それは大成功だった。
バチバチ
バチ!
バチ!
バチバチ!
周囲の人には、俺が雷の弾幕をキャッチしたように見えているに違いない。
石や氷の魔法ならともかく、雷という実態を持たない物を、まるでそれが物体であるかのように受け止めたこの現象。魔力感知を出来ない人が見たら、信じられないだろうな。
「な、なぜだ?! なぜ俺の必殺技を……!」
「なぜと言われても。あ、これ返すぞ」
雷の弾幕をぺリアスに向かって投げつける。
「な?! アバババババババ」
ぺリアス王子はそれを受け止めることができず、感電してしまった。あ、威力は抑えたから死んではいないはずだ。
その後、ボロボロになったぺリアス王子は、再度大規模魔法を使おうとして……失敗した。もう魔力が残っていないらしい。
途中、危ないところもあったが、これでクリアだ!
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