其処で嘗てあった事、Part14

 改めて整理してみよう。ここまで、色々な人の思いがごちゃごちゃと交錯していたから、非常に分かりにくくなっていた。



【第一陣営:ベータ、エリー、そしてリース】


 この三人の目的は、エリーさんとベータさんの駆け落ちを成功させること。そのために、追跡の魔道具「ジーピーエース」でエリーさんを追跡できないようにすることだった。

 これはリースさんの発言の矛盾点、資料室の本が片付いていたことから推理できた。また、リースに危機感が少なかった事や、彼女が憲兵を追い出そうとしたこととも矛盾しない。(憲兵がいたら、エリーが見つかる可能性が増えるからな)


 すると、「二人分の血を捧げる」という文書が、エリー以外の何者かの手によって置かれた物であると推測できるようになる。なぜなら、エリーが自分の作戦の邪魔になるものを残すとは考えにくいからな。

 そして、偽の文書を設置できるのは憲兵だ。


 だから俺はまず最初に憲兵にカマをかけたのだ。すると王子が「実は自分は真相を知っている」と言ったのだ。



【第二陣営:イアソン王子】


 イアソン王子はエリーさんが自ら学園から逃げ出すところを見ており、今回の事件は誘拐事件ではないと知っていた。(だが、詳しいことは知らず、既に遠くに行ったと思っていた)

 しかし、彼女がわざわざ事件に見せかけて逃走した理由が「親同士の仲を悪くしないため」と分かっていた彼は、それを隠していた。

 これは事前情報だけでは確信できないが、彼がやけに「自分はエリーに嫌われていた」を強調していることから推測はできるかもしれないな。



 そして最後の陣営。憲兵。


【第三陣営:ダスとトレイル + ???】


 この事件はただ「エリーとベータの逃亡劇」で済ませていいものではない。憲兵の怪しい行動に説明を付けないといけないんだ。さあ、いよいよクライマックスだ。



 俺はその場にいる人に向かって問いかける。


「ダスとトレイルが偽の文章を置いた訳。これが『公爵家への侵入』だとすると、説明がつくと思いませんか? 何らかの理由でリース様を誘拐しようと考えたアルゴは『公爵家を守る』という大義名分のもとこの屋敷にダスとトレイルを送り込んだ」


 その言葉にリースさんさんはなるほどと頷く。


「確かに……。そう考えると今までの行動にも説明が付きますわね。やけに騎士団や風兎さん達を邪険にしていたのは、私を誘拐するためだったのかも? 説明してもらえますか?」


 まだ証拠がそろった訳ではないが、とはいえ彼らの黒がかなり濃厚になった。イアソン王子も「かばいきれない……」という表情をしている。


 さて、少しメタい話をしよう。実はダスとトレイルを完全に追い詰めるだけの証拠を集める事は不可能なんだ。

 これが探偵もののゲームや小説ならこの屋敷の外(王都とか)も探索して情報収集して、証拠を集めることができるかもしれない。けど、これはそうじゃない。今俺達がいるこの世界は迷宮が生み出したボスフロアに過ぎない。……そう、これはボスフロアなんだ。王都に行くことは出来ないし、なんなら屋敷の外に出ることさえできないようになっている。

 じゃあ、ダスとトレイルはどうなる? まさか自分から「はいはい~! 正解、僕達が悪役でーす」と言ってくれるのか?


 そのまさかだ。


「はっ! まさかバレるとはな!」

「そうさ、俺たちがアルゴに情報を横流しにしていた人間さ。この事件を機に、公爵家が隠している秘宝を奪おうって考えたのに、お前らのせいで!!」


 二人が俺たちに攻撃してくる。狙われたのは……七瀬さん。小柄だし、弱そうに見えたのかな?


「はあ!」


 しかし、七瀬さんがこんな雑魚に負ける訳がない。腹パンとキックが決まって、二人はその場にうずくまった。


「そ、そんな……。二人が……アルゴ……? そんな馬鹿な! 冗談だろ! 何かの冗談だろ! なあ!」


 イアソン王子は慌てている。幼少期からずっとお世話になっていた人が実は犯罪者だったなんて信じたくないのだろう。


「「「「おいおい、まさかこいつらが……」」」」


 他の人もびっくりしている。そりゃあそうだろう、あまりに唐突な告白だったからな。


 取り押さえられた二人はイアソン王子に対して「にしてもお前ら本当に馬鹿だな~。ずっと一緒にいて気付かないとかwww」と悪態をついている。


「なあ、ダス、トレイル。お前らが求めていたものって『パラダイムコントローラー』だろ? 公爵家の人間を誘拐して得られるアイテム、本当にそんなものがあるのか調べたら、その名前が出てきた」


「そこまで知っていたのか……」

「そうさ、俺たちの手で理想郷を作ってやろうと考えていたのに……!」


 よく分かってなさそうな騎士団の皆さんやイアソン王子にパラダイムコントローラーについて説明すると、「まさか洗脳機が残っていたなんて……」と驚いていた。



「まさか、ずっと騙されていたなんてな……。ダスもトレイルも、僕とぺリアスを実の子供のように大切に育ててくれたんだ。そんな二人が、まさか裏切者だったなんて……」


 イアソン王子はまだショックを受けている。だが、安心してほしい。彼らは裏切者ではないから。


「イアソン王子。先ほども説明した通り、パラダイムコントローラーは王城の秘密部屋に眠っています? つまり、ダスとトレイルは誘拐したリースを王城までもっていく必要がありますよね?」


「だな」


「ですが、先ほど王子も言っていましたよね。『王都への出入りに関しては綿密なチェックを行うように周知されている』と。彼らがそれを突破できると思いますか?」


「それは……厳しいだろうな。僕ならば荷物検査をスルー出来るかもしれないが、それでも彼ら二人は荷物チェックを受けることになるからな」


「だから僕は思ったんです。彼らのバックには誘拐したリースをこっそり王都へ連れていける人物がいたのではないかと」


「まさか僕を疑っているのか!?」


「いいえ。今までの様子を見るに、イアソン王子を疑っている訳ではないですよ。イアソン王子、リースの護衛としてダスとトレイルを連れて行こうと考えたのはあなたですか? 誰かに『ダスとトレイルを連れて行けば、安心だ』みたいに説得されたのでは?」


「……? えっと、確かぺリアスにそう諭されたんだが……。まさか?」


「ダス、トレイル。アルゴの正体って王家の影の部隊だろう?」


「「「「な?!」」」」


「どういう経緯かは知らないが、アルゴの正体に気が付いたぺリアス王子は、王位継承権を放棄する代わりに、アルゴに指示を出す立場になった。そして、今回の作戦を実行に移した。違うか?」


“今回の捜査はイアソン王子やぺリアス王子の直属の特殊部署が行っているからな。裏切りの心配はゼロに近いと思うぞ”

 Part4、アルファのセリフより


 これは真実だったという訳だ。

 そう、彼らは裏切者なんかじゃない。ぺリアス王子という王家に仕える人間なんだ。だから、自分たちの立場が危うくなった時「そうだ、俺たちがアルゴだ!」と素直に認めたんだ。背後にいるぺリアス王子に疑いを向けさせないために。


 これが状況証拠でしかない、ガバガバ推理で彼らが罪を認めた理由だ。



「「ぐああああ!」」


 ダスとトレイルが急に叫び始めた。彼らの体から魔力が抜けていく。騎士団をはじめ、エリーやスコーピオ公爵も二人に向けて魔法を発射した。彼らに魔法がぶっ刺さるも、それは意味がなかった。……むしろ状況を悪化させたかもしれない。


 ダスとトレイルから膨大な魔力と生命力が抜けていく。彼らは一気に老けていき、まるでミイラのように……。おっとこれ以上は残虐描写になりそうだからカットー!! ゲームではここまでリアルじゃなかったのに~!!



 ダスとトレイルから抜き取られた魔力と生命力は一つの魔法を構築し始めた。文字通り二人の犠牲を以って初めて実行できるその魔法はいわゆる転移魔法テレポーテーション

 魔方陣の中から一人の男が現れた。豪華な服に身を包む彼の姿はまさに王族。彼こそがこの物語ボスのラスボス。ぺリアス王子だ。


「まさか全部知られることになるとはなあ! ダスにトレイル、もう少し上手く立ち回れると思っていたのに、残念だ。何はともあれ、知られてしまったからには仕方がねえ! お前ら全員、ぶっ殺してやる!!」




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