其処で嘗てあった事、Part13

「さらに言うと、彼女の居場所を知っている人物も、私達は知っています」


 そう言ったのは暁先輩。王子を含め、全員が驚愕の顔をした。


「! そうなのかい?!」

「! もう一度エリーに会えるというのか?!」


「はい。望めば会えると思いますよ」

「まず私たちが疑問を抱いたのは、リース様の発言でした」


 リースさんがびくりと肩を震わせた。まさか自分が何かボロを出したとは思っていなかったようで。


「リース様は、ここ最近はエリー様と連絡を取っていないと言いました。ですが、あなたの発言の中に、エリー様しか知らないはずの情報を話していたのです。そのことを疑問に感じたので、ベータさんにお話を伺うとエリー様とリース様は時折連絡を取っていたとか」


 ベータさんが目をそらしている。やっちまったー、とでも思っているのだろうか?


「そ、その時から違和感を感じていて『何か隠しているのでは』と疑っていたのですが、まだ確信ではありませんでした。だた、先ほど資料室に行った時にそれは確信に変わりました」

「イアソン様が来る前、散らかしたまま資料室を去った私達ですが、先ほど資料室へ行った時には片付いていました。いつ、誰が片付けたのでしょうか? あの部屋に入れるのは公爵家の人間だけ。しかし、スコーピオ様もリース様もずっと忙しくて入れなかったはず」

「だから私たちはエリー様がこの屋敷にいるのではないか、と考えました」


「ちょっと待ってくれ。エリーは親を騙してまで家出したんだぞ? なのにこの家に隠れている? そんな事があるわけ……」


「イアソン様は知らないかもしれませんが、この家には特定の人物の位置を割り出す機械があります。対象者の魔力を感知する機械です」

「自分の居場所を知られないためには、エリー様は四六時中魔力を抑える魔道具を付けてないといけません。それは非現実的でしょう」


「なるほど、それはそうだな。遠い異国で暮らすとして、魔法を使えないとQOLが下がるだろうな。なるほど、つまりエリーはこの家にきて、その機械を壊そうと考えたわけだな?」


「いい推理ですが、少し違います。魔道具は公爵家の人間が二人以上一緒にいないと入れない部屋に保管されています。そんな場所にある魔道具を壊そうものなら、逆にばれてしまいます」

「だから、エリー様は魔道具と自分のリンクを切る方法を模索しに来たのでしょう。ねえ、リース様? あなたが最近、例の魔道具について調べていたのは、エリーを探すためではなく、エリーを逃がすため。そうでしょう?」


「……」


「おい、そうなのか、リース!」


 無言になるリース。そんな彼女に詰め寄るスコーピオ公爵。

 とそこで舞踏室の扉がガチャリと開いた。全員がそちらの方を見るとそこには。


「降参です、その通りです」


「「エリー?!」」



 この後、スコーピオ公爵がエリーに「気持ちに気づいてやれなくてすまなかった」と謝ったりといろいろあって。少し落ち着いてきたタイミングでエリーさんが俺たちに話してきた。


「流石ですわね。まさか全部バレるなんて……」


(((全部赤木君が誘導してくれたからわかったんだけどね……)))


 なんか三人が何とも言えない顔で俺のほうを見てくる。うむ、少しヒントを出しすぎたかもしれない。まあ、これは初見じゃあ無理だもん。となると、答えを知っている俺がヒントを出すしかないだろう?


「ところでエリー様。間違っていたら申し訳ないのですが……」


「何かしら?」


「あなたが資料室へ行ったのは舞踏室で僕たちが夕食を食べているときですよね? あのタイミングが、一番玄関ホールにいる人間が少なかったので」


「そうですわね」


「という事は、自然とベータさんも協力者という事になりますよね?」


「正解ですわ。今回の計画はベータにも最初から伝えていましたわ」


 マジで、みたいな視線がベータに向けられる。あ、他の騎士団メンバーも知らなかったのか。


「ひょっとして、ひょっとしてですが……。あなたの目的はベータさんとの駆け落ちでした?」


「!! ……ええ、そうですわ」



 イアソン王子は自分のことを「自分が弱かったから、エリーに嫌われていた」なんて言ったが、それは間違いだ。実際、ベータさんはフォルテとしてはそれほど強くない。

 エリーは能力の強弱だけで人の価値を決めるような人じゃない。イアソン王子との結婚を嫌がったのは、ただただ彼女には恋する相手がいたからだ。

 イアソン王子は、長年ぺリアス王子と比較され続けて暮らしていたから「能力・才能=本人の魅力」のように思っているかもしれないが、断じてそんなことはない。王子には王子の魅力があるはずで、純粋に王子に好意を寄せる女性もいるだろう。


 という事を彼に伝えると、彼は泣いてしまった。ずっと「優秀な弟」という枷に苦しめられてきた彼が、今、その枷を外されたのだ。


「ははは。凄いな、カザトは。すべてお見通しじゃないか。さっきダスとトレイルをアルゴの内通者と言ったのも、こうなることを見越してだったのだろう?」


「ええ」


「あの時はびっくりしたよ。よかった、彼らが裏切者じゃなくて……」


「ええ、確かに彼らは王家を裏切らないでしょうね。ですが、彼らが事件と無関係とするのはいささか早計ですよ、イアソン様」


「え?」


「イアソン様はエリーの部屋に残されていたメモの内容、秘宝の在り処を記したメモの内容をご存じですか?」


「あ、ああ。確か『公爵家の血液二人分が必要』という奴だよな? だが、それはエリーが作った偽物……」

「え? 私、そんなメモを残していませんよ?」

「え?」

「そんなメモを残そうものなら、この家の警備が厳重になるだけじゃないですか。そうなると、私の目的の障害になりますわ」

「た、確かに……。じゃあ、あのメモは……」


「当時、あの部屋を捜査していた憲兵が作った偽物でしょうね」


「そういえば、あのメモを発見したのもダスとトレイルだった……。なあ、ダス、トレイル。お前たちの目的はなんだ? 何を隠している?」


「いや……」

「し、知らんぞ……! そんな事!」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る