其処で嘗てあった事、Part12

「それでリース? どうしたんだ、急に全員を集めて?」

「何かあったのですか?」


 舞踏室に全員が集まると、公爵と騎士団長がリースにそう聞いた。リースはここが正念場だとでも言わんばかりに胸を張って先ほどあったことを話した。


「ダスとトレイルの行動が怪しく感じたので、少し観察させてもらいました。するとつい先ほど、風兎さん達に睡眠薬を盛ろうとしていたのです」


 ざわ……。その場にいた全員がダスとトレイルを見た。


「はい? 何の話だか分かりませんが……」


「嘘おっしゃい。私はこの耳で聞きました。バルビツールさんをお菓子に混ぜようという会話をしていたのを。あなた方の部屋か持ち物かを調べたら、出てくるんじゃありませんか?」


「……」


「イアソン様の身の上を心配して、風兎さんたちを警戒するのはいいとしても、それはやりすぎです。失礼を承知で言いますが、あなた達のせいで余計に治安が悪化していますわ」


「……っち、厄介なことになったな」


「お、おい! お前たち、そんなことを考えていたのか?!」


 ダスは舌打ちし、イアソン王子は慌てている。


「はあ、穏便に済ませようと思ったのだがな。実はな、俺たちはそいつらを疑ってるんだ!」

「ああ。俺たちは聞いてしまったんだ! そいつらがリースを誘拐するって話を!」


「苦しい言い訳をしないでくださいまし? 私、夕食後はずっと風兎さん達と行動していたのですわよ?」


「「……」」


 ダスとトレイルって、その、こう言ってはなんだが馬鹿だよな。うん。思わぬ展開になって焦るのはまあいいとして、墓穴を掘るような発言をしなければいいのに。


「そ、それは本当に、本当に失礼した!」


 イアソン王子は頭を深々と下げて謝罪する。いいのか、王子ともあろう人間がそう簡単に頭を下げて……。これだからこの人は……。


「イアソン様が謝罪されることでは……! とはいえ、うーむ。余計な事件を起こされては、こちらとしても困るからなあ」

「しかも、先ほど注意された上で、ですしね」

「ああ。少なくともダスとトレイルに関しては帰ってもらおう」


「二人が帰る以上、僕も帰ろうと思う!」


「いやいや、王子をこの暗闇の中、帰すわけにはいかないですよ」


「だが……! 僕には二人をここに連れてきた責任もあるからな」


「いやいや」


 なんて話しているが、今そんな議論をしている場合ではない。ダスとトレイルは俺たちを邪魔に思っただけ? そんなことで犯罪まがいのことをするはずがなかろうに。

 という訳で。


「少々いいですか、イアソン様? イアソン様から見てダスさんとトレイルさんはこういう事をする人間でしたか?」


「いいや。今まで真面目で誠実な人間だった。だからこそ、この場に連れてきても大丈夫と判断したんだ。まさかこんなことをするなんて思っても無かった……」


「実はそこが気になってまして。ダス、トレイル。俺はお前たちをアルゴの内通者ではないかと疑っている!」


 リースさんが「え、マジ?」みたいな顔で俺のほうを見てくる。そうだよな、だってリースさんは今回の事件を事件と思っていないからな。

 まあまあ、リースさんや。安心してくださいな。これは、言ってしまえばただのブラフだから。本題は別にあるのですよ。


「「「「な?!」」」」


 再び全員がダスとトレイルを見た。その視線は先ほどよりもきつくなっている。


「確かに、王子の護衛をするような人間が、こんなことをするのは変だ」

「だが、実はスパイだったとなれば。納得だよな」


 そんな声を聴き、スコーピオ公爵の目が怒りに染まった。彼からしてみれば、自分の娘を誘拐した犯人かもしれないのだからな。


「二人を拘束せよ。ああ、まだ疑いというだけだ。そうじゃないとしても、抵抗せず捕まってくれると助かる」


 騎士団がダスとトレイルを拘束する。それを王子はあわあわしながら眺めている。さあ、王子様? この状況になって、あなたは何を語る?


「ま、待て! 二人は、二人はそんな人間じゃない!!」


 イアソン王子が大声を上げた。その言葉に、騎士団が、スコーピオ公爵が、リースさんが全員驚いた顔をした。彼がここまで感情的になるのを初めて見たからだろうか?


「二人は、僕が小さかったころからすごく優しくって、ずっとずっと助けてくれた存在だ。彼らがアルゴの内通者? そんな訳がない!! ……本当は言いたくなかったんだが。実は僕はこの事件の真相を知っている」


「「「え?」」」


「彼女が誘拐されたと言われている日。あの日、僕は見たんです。彼女が自分から学園を抜け出すところを。彼女は自ら王都を去ったんだ!」


「そ、そんな訳ないでしょう、イアソン王子! 彼女は、エリーは次期国王である貴方との婚約が決まり、こう言ってはなんだが、順風満帆な人生だったじゃないか! そんなエリーが家出? そんなわけ無いでしょうに!」


「そういうところだよ、スコーピオ公爵。あなたは自分の娘のことを何も知らなかった。彼女は僕のようなひ弱な人間と婚約なんてしたくなかったはずだ。それを貴方が、親が勝手に婚約なんて言ったんじゃないか。あなたは彼女に、エリーに聞いたのか? 彼女の本当の気持ちを? プレッシャーを与えず、ただただ本音を聞く。そういう機会を設けたのか?」


「で、ですが! 最近、エリーは喜び過ぎて少々度が過ぎる発言すらしていたじゃないですか!」


「そこまで知っていたのにどうして気が付けなかったのだ?! あれが演技だと! クラスメイトすら大半が感づいていたぞ!! 彼女に馬鹿にされた非フォルテの平民さえ、エリーに同情していたぞ!!」


「ぬな! だ、だが秘宝のメモを見つけたという話だったじゃないか! やっぱり誘拐されたと考える方が自然……」


「おそらく、あれは彼女が考えた嘘だろうな。自分は誘拐されました、とした方が陛下父上とスコーピオ公爵との関係が悪化しないと考えて。エリーの前で『お前のおかげで、王家とのつながりが強まったぞ』みたいな発言をしたのでは?」


「ああ、何度も。何度もしたよ……。私は。自分の娘を……自らの手で不幸に導いたと……? そんな馬鹿な。……それが本当なら、どうやって顔を合わせたら……」


「その心配はないでしょう。きっと彼女は、もう遠くへ行っただろうから」


「……」


「というか、えっとカザトだっけ? 君は驚いていないんだな。まさか知っていたのか?」


 王子の発言によって、ばっと俺たちに視線が集まった。俺はこくりと頷いた。


「ええ」

「さらに言うと、彼女の居場所を知っている人物も、私達は知っています」


 ここからは暁先輩達が話すことになっている。彼女たちにも主人公探偵役を経験して欲しいからな。





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