其処で嘗てあった事、Part11

 秘宝の正体が洗脳に魔道具かもしれないと分かった。これをリースさんや公爵に報告するべきか悩んでいると、ちょうどそこにリースさんが近づいてきた。


「何か分かりましたか?」


「そうですね、公爵の歴史を辿って秘宝の正体とその在り処についてのヒントっぽいものを見つけました。この情報をもとに、エリーさんがいる場所を絞れるかもしれないと思って」


 咄嗟に七瀬さんがそう答えた。悪くない返答だと思う。


「なるほど、そうなのですね」


「リースさんはジーピーエースについて研究しているのですよね? 何か分かりましたか?」


「さっぱりですわね……。参考になりそうな文献は見つけたので、お部屋に戻ってからじっくり読もうと思っていますの」


 そう言って彼女は自分の見つけた文献を俺達に見せてくれた。そこに書かれていたのは複雑怪奇な回路図っぽい物。


「難しそうですね……」

「設計図? いや、回路図みたい?」


「魔力回路図と言うのですが、私もあまり詳しくなくって……。っとその話は後にして、どうしても皆様に相談したいことがあるのです」


「相談したいこと?」


「実は……どうにか穏便に憲兵たちに帰ってもらいたいんです」


「「「?」」」



「……なるほど。つまりリースさん的には憲兵がいると気が休まらないと」


「ええ」


「そしてその理由は『なんとなく怪しいから』ですか」


「そうですね。具体的に何がとは言いませんが。その……」


 リースさんはしどろもどろだ。彼女自身、心の整理がついていないようにも見える。そんな彼女に宮杜さんが助け舟を出した。


「分かります! 私たちを、そして騎士団を邪魔だと言ったり、赤木君と決闘しようとしたり。なんだか騒ぎを起こそうとしている感がありますよね!」


「! そう、そうですわ! それが言いたかったのです」


「ですが、現状だと一切確証がないですよね? どうしましょう?」


「適当に罪を擦り付ける、訳にもいかないですわよね……。しばらく観察して、怪しい動きをすることを祈る、とか?」


「ですね。まあ、様子を伺ってみましょうか」



◆ Side ダスとトレイル


「おい、あのガキ、どうするよ……」


「まさかこんな事になるとはなあ」


 夜に備えて少し部屋で休んでくる、という名目で王子の護衛は別の者に代わってもらい、ダスとトレイルは与えられた部屋で愚痴を言っていた。


「こうなりゃ仕方がねえ。本当はいざという時まで取っておきたかったが、これを使おう」


「それは……『バルビツールさん』か。強力かつ危険な睡眠薬だったな」


「ああ。容量を間違えたら死ぬこともあるくらい強力な睡眠薬だ。それ故に、今ではベンゾジアゼPピンに取って代わられた」


「だが、どうやって飲ませる?」


「菓子に染み込ませて、それを『さっきはすまなかった。詫びの品だ』とか言って渡せば、警戒せずに食うだろう」


「なるほど!」



◆ Side 風兎一行


「なんというか、想像以上に早く追い出す理由が見つかりましたわね」


「だな」

「この部屋、思ったより壁が薄いって知らないんですかね?」


 ダスとトレイルの部屋の隣の部屋にこっそり入って、四人で耳を澄ましていると、彼らの極秘(笑)の会話を聞くことができた。


「今すぐお父様や他の人を舞踏室に集めますわ! そこで糾弾しますわ!」


 リースさん父親がいる部屋へと駆けて行った。


「私達も舞踏室に向かいましょうか」

「そうだね」


「待った。その前に最後の作戦会議をしよう」


「「「?」」」


「現時点ではダスとトレイルを捕まえることは出来ても、犯人とまでは言えないよな? 限りなくグレーだけど『ガキ共に復讐したかっただけなんだ』とか言いそうだ」


「彼らが裏切者、つまりアルゴの内通者と決まった訳ではないという事ですか?」

「え? もう終わったつもりだったんだけど?!」


 宮杜さんと暁先輩はもう終わったつもりだったみたい。だけど、七瀬さんはそう思っていないようで。


「実は私、まだ疑問が残ってるんだよね……。具体的にはリースさんの行動がずっと気になってるの。特に今回の件が一番よく分からないの」


「というと?」

「どういう事ですか?」


「だって、相手は誘拐犯かもしれないんだよね? そんなのが屋敷をうろついているのに『ダスとトレイルを監視しましょう』って軽く言ったりするかな?」


 七瀬さんの指摘は的を得ている。彼女に警戒心がないように感じられたのだ。どうして?


「それは確かに……」

「お姉さんを助けるために必死とかじゃない?」


「うーん。そうなのかなあ……。赤木君はどう思う?」


 おっと、俺に振られたか。さて、どう答えるか……。


「これは本物の事件じゃない。迷宮が生み出した物語だ。メタい言い方をすると、すでにヒントはそろっているはずだろう。特にダスとトレイルが来て以降の行動を思い出してみよう」


「うわあ、そんな考察しちゃっていいの……」


「いいのいいの。まず二人が現れる直前、俺たちは何をしていた?」


「その時も資料室にいましたね」

「この国の歴史をざっと勉強したんだったよね」


「そこでスコーピオ公爵が現れて、大慌てで部屋を後にした」


「「「うんうん」」」


「舞踏室で色々あった後、俺たちは再び資料室に戻ってきた。そして、公爵家の歴史や秘宝の正体がパラダイムコントローラーであると考えた」


「「「うんうん」」」


「おかしいところがあっただろ?」


「……あ! そういえば!」


「お、暁先輩! 何か分かりましたか?」


「部屋を出たとき、本は片付けなかったよね?」


 俺とリースさんは散らかしてしまった本を片付けようとするが、スコーピオ公爵は「そんな事をしている場合じゃないから、今すぐ来てくれ」といった。

 ……中略……

 リースさん、そして俺たちは慌てて資料室を後にした。

”(Part6より)


「そういえばそうでした! あれ、でも……」

「うん。戻ってきたときには片付いていた」


 本棚の歴史書コーナーから先ほどまで読んでいた書物とその他いくつかの本を取り出す。

”(Part9より)


「この間、リースさんもスコーピオ公爵も忙しかったはずだよな」


「それって……」

「いったいどういう……?」


「さて、思い出したいのはリースも一つ嘘をついていたという事。リースさんは『エリーとは最近、全く連絡を取っていなかった』と言ったが、本当は何度か連絡を取っていたはず。ここから推測するに、彼女はエリーとのやり取りを詮索されたくなかったのでは?」


「もしかして、リースさんは……という事ですか?」

「なるほど。じゃあ、ダスとトレイル、アルゴ、それから王家の狙いは……という事?」

「だとしたら……」


「それで正解だろうな」




 さて、リースさんが舞踏室に人を集めているはずだ。そこで正解を発表しようではないか。






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