其処で嘗てあった事、Part9

 食事が終わった後、俺達はリースさんに頼んで、資料室に連れて行ってもらうことにした。


 本棚の歴史書コーナーから先ほどまで読んでいた書物とその他いくつかの本を取り出す。


「ここにはリース様しかいないので正直に申しますと、イアソン王子が怪しく感じました。誘拐に直接関わってはいないとしても、何か隠している気がしました。リース様はどう思われましたか?」


「怪しい、ですか。そうですね、私はそうは感じませんでしたわ……。これはそちらの三人には話しましたが、イアソン王子と憲兵は『騎士団には帰っていただきたい』と要求したんです。結局父上に説得されて『うむ、騎士団とは協力しよう!』と考えを改めていましたが。まるで、何も考えずにここまで来たように感じました」


「なるほど」


「ですが……違和感はありました」


「違和感?」


「イアソン王子の雰囲気が、その、なんというかエリーのことをそんなに心配していないような雰囲気だったのです。いえ、心配してはいたのですが、その、愛する人を奪われたという雰囲気ではなかったというか……。いえ、こういう言い方をするとイアソン様にもエリーにも失礼ですよね。今のは聞かなかったことにしてくださいまし」


「……いえ。今の推理はある意味当たっていると思いますよ。王子が言っていたんです」



“僕はこの婚約、反対だったんだよ……”

“だけど、彼女は僕のせいで笑わなくなった。僕のせいで彼女の魅力は半減した。そんな事、あっていいのか……”



 そういっていたことを俺はリース様と三人に共有する。また、この時の彼の顔は本気だったと思う、と俺は付け加えた。


「そうですか……。まさか……いえ」


 リース様は黙々と思案し始めた。彼女は何を思いついたのだろうか?



 さて、俺がこの資料室に来た目的だが、「公爵家の秘宝」についての記述がないか調べるためだ。ちなみに、リースさんに聞いても「今までそんな物、聞いたことがない」と言われてしまった。

 さて、ゲームと違ってリアルでは本の量も厚みも何倍も違うからな。カギとなる記述がどこにあるか手分けして調べる必要がある。俺は三人に頼んで、とある記述が書かれている書物を集めてもらうことにした。


「赤木君、ここに書いてあったよ! それからここ、それとここも。それからこの本のこことここも」


 七瀬さんは本を物凄いスピードで読み、件の記述が書かれている場所を調べてくれた。魔力の流れ的に、ちゃっかり思考並列化を使っているな? まあ俺も使ってるけど。


「ありがと、俺も二か所見つけた」


「私も見つけました!」


「私も見つけたよ!」


 見つかり始めたぞー! 見つかり始めたぞ~!! いやあ、もう少しかかるかと思ったけど、意外と早く終わった。


「それにしても赤木君、どうしてお宝じゃなくて歴史を調べるの?」


 七瀬さんが首をかしげる。


「重要な事だからだよ。七瀬さん、公爵家の始まりはいつだったか覚えてる?」


「えっと、確か200年前くらいに起こった政争だよね? 王家内にできた二つの派閥のうち、負けちゃった方が公爵家に落とされちゃったんだよね」


 とリース様に聞こえないよう小声でそう言った。


「そう。貴族の中でも『公爵家』は位の高い部類に入るけど、やっぱり王家と比べたら負けている。……秘宝を隠すならその時だと思わないか?」


「なるほど! 『くっそー、こうなったら金だけでも隠してやる!』みたいな?」


「そうそう。だから、その事件のきっかけになった『飢きん』『スタンピード』や『洗脳魔法』について調べようと思ったんだ」


 という理由でゲームの主人公は本を探るんだ。で、そこで全く別の可能性を見つけてしまうんだよな。それを見ていこう。


「そういう意味では私の見つけたこの記述が一番古いかな? 253年前、穀物の収穫量が例年の半分程度になってしまう。同年、国内でも最大規模の魔物の巣『星々の黒洞』にて、普段よりも強い魔物が観察されるようになる。252年前、食を求めて魔物の巣に挑戦する人が増える。しかし、その中にはフォルテでない者や、空腹故に戦えなさそうな者もいて、そのせいで魔物の巣の中で死亡する人が続出」


「そんな事があったんですね……。無限迷宮と違って、入り口に転移する魔道具もなかったでしょうし……」


「そういうの聞くとちょっとヒヤッとするね。私達も学校を出たら『失敗=死』みたいな現場で働くことになるじゃない?」


「そ、そうですね……」


 あー、そういえばそうだったなあ。そう考えると、何としてでも三年生になる前に、いや暁先輩が卒業するまでに、神話シリーズや薬師シリーズ、歌シリーズなんかを手に入れないとな。


「二人は卒業年が赤木君と同じだから、一緒の職場に行って守ってもらうことができるけど、私は一年早い卒業なんだよね……。はあ。……赤ちゃんができたら産休とれるかな?(ボソッ)」


 三人が一斉に俺のほうを見た。


「……」


「「「……」」」


 気まずい空気が流れる。おい、どうするんだよ、先輩! 変な空気になったじゃないか!

 数秒の沈黙の後、先輩はコホンと一息ついてから「さ、さあ! 次の文献を見ようー!」と言ったのだった。雑! だけど助かりました!




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