其処で嘗てあった事、Part7
休憩の後、頃合いを見計らって玄関ホールへ向かうと、ちょうど応接室からリースさん、スコーピオ公爵、そして王子っぽい服を着た人間が出てきた。
「これから晩餐会を開くことになりました。舞踏室へ来てください」
リースさんは俺たちの所へ駆け寄ってきてそう言った。とその時、嫌な視線を感じてそちらを見ると知らないおじさんが二人いた。
「すみません、あちらの男性方は……」
「さっき私たちの事、睨みつけてましたね……」
「? ああ、あの二人はダスとトレイルという方だそうで、イアソン王子の護衛だそうです」
「ああ、それで『こいつら誰だ?』って視線を向けてきたのですね」
「かもしれないですね」
◆
リースから情報を集めるように言って、俺は宮杜さんたちと離れた。そして俺はイアソン王子とスコーピオ公爵に近づく。公爵は俺を見ると
「おお、そうだった。こちら、臨時でリースの護衛をしている者だ。とある伝手で来てもらったんだが、それはもう強くてね」
「初めまして、ご紹介にあずかりました赤木風兎と申します。臨時でリースの護衛を務めております」
「へえ、そうかい君が。ああ、一応この国の王子をしているイアソンという。よろしくな」
「よろしくお願いいたします」
イアソン王子は、そんなに王族っぽくない人物だった。横柄な人物じゃなくてよかった。(まあ、ゲーム内で会ったことがあるし、おおよその人物像は知っていたけど)
「へ~こいつがあ? 本当に強いのか~?」
「そもそも、怪しいんじゃないか~」
しかし、俺をやけに敵対視してくるダスとトレイル。イアソン王子が「失礼だろ!」と窘める。ぶっちゃけ俺自身「俺達って物凄く怪しいよな」と思ってるけどさ。
…
……
………
舞踏室に入ると、晩餐会の準備が着々と進められていた。さて、料理を待っている間、俺はイアソン王子と二人の護衛から必要な情報を引き出す。
「イアソン様とエリー様は同級生なんですよね?」
「ああ、そうだな。彼女はすごい人物だったよ、本当に。テストも毎回満点、魔法も強力。本当、僕の婚約者なんてもったいないも良いところだよ……」
「そんなご自分を卑下なさらなくても。聞きました、イアソン様は誰よりも努力できる方だって」
「でも、結局成長しないんじゃあ……。それに」
イアソン王子は虚空を見上げる。
「?」
「エリーは私のことを邪魔に思っていただろうしな」
「え、そんな事……」
イアソン王子は「はあ」と溜息を吐き、それから俺に向かい合った。
「君はエリーが性格を変えたということは聞いているか?」
「はい」
「彼女は自分の力を自慢するようになった。自分の力を無駄に見せつけるようになった。まるで王族の婚約者に選ばれて喜んでいるかのように振舞った」
「振舞った……」
「けど、彼女は不器用だった。それはもう不器用だった。近くにいた俺も、クラスメイトさえも気が付いていたんじゃないかな、それが演技だって」
「……。なるほど、それは……」
「今は父上も、そして公爵もいないから言うけど、僕はこの婚約、反対だったんだよ……。確かにエリーは最高の女性だ。だけど、彼女は僕のせいで笑わなくなった。僕のせいで彼女の魅力は半減した。そんな事、あっていいのか……」
彼は少し離れた場所に座るスコーピオ公爵を眺めながらそう言った。
彼から手に入る一つ目の証言はこれだ。エリー性格急変は演技だったという事。そしてひと悶着挟んだ後、二つ目の証言を聞き出す事になる。そのひと悶着とは……。
「おい、貴様! よくもイアソン様に暗い顔をさせたな!」
「不敬だぞ! 謝罪を要求する」
こいつらのお相手である。
「すみません、イアソン様」
「いや、今のはただ俺が語っただけだから、君が誤る必要はない。お前ら、見ない顔を警戒する気持ちは分かるが、だからと言ってそんな態度をとるのはよくないぞ」
「はあ、イアソン様は甘いですよ。おい、お前。どこの誰だか知らないが、護衛の邪魔になるんだ!」
「そうだそうだ。警戒するべき人間が増えるのは面倒なんだ。公爵家とどういう関係なのか知らないが、ここの護衛は俺たちがするからお前らは別の場所を警護しろよ!」
「いえ、僕にはリース様を守る使命がありますので。お二方に任せるという訳にはいきませんよ」
ここで護衛の暴言を窘めることができず、アワアワしているあたり、イアソン王子には王子としてやっていけないのではないかと思う。まあそれはともかく。
「はあ~? 何だとおまえ? まさか俺たちが弱いとでも言いたいのか?」
「じゃあこうしようぜ? 俺達とお前で決闘しようぜ?」
「決闘ですか?」
「おお、いいじゃねーか、それ! それで力量を測ってやらあ!」
「手加減はしないからな? あ、間違って殺しちゃったらごめんな?」
「「ぎゃはははは」」
なんでこう……この人達は「物語で主人公に突っかかって、結局主人公に圧倒される役」みたいなセリフを言うんだろう……。あ、そうか。この人たち、「物語ボスで
この後、舞踏室の端で軽く決闘することになるのだが、ありとあらゆる属性を近距離遠距離関係なく使いこなせる俺が負けるはずもなく。一瞬で決着がついた。
「彼、ほんとにすごいね! スコーピオさん、どうやって彼と知り合ったのですか?!」
「はっはっは! ちょっとした伝手ですよ、王子。王子も、伝手を大切にするのですよ。政界は伝手とコネで回ってますからな」
「なるほど!」
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