其処で嘗てあった事、Part5

その後俺たちはリースさんの話を聞きに行くことになった。彼女も重要人物の一人であることは言うまでもなく、また彼女にお願いしないと「資料室」には入れないことからも分かるように、事件解決で色々助けてくれる存在である。


 リースさんとお話ししたいという旨を伝えると、すぐに了承してくれた。ただ、部屋に入れることは出来ないから、話すなら応接室か資料室でという事になった。迷わず資料室で話したいと伝える。


「地下へ行くための扉には鍵がかかっていて、私と父上しか持っていません。また、そこを突破できたとしても、資料室や魔道具室には入れないよう、厳重なセキュリティー対策がありますの」


「なるほど。という事は資料室は魔道具室と並ぶくらい重要な場所なんですね」

「あの、そんな場所に私たちが入っても大丈夫なのですか?」


「ええ、そこは信用しておりますし、それに資料室と言っても別に大層な物があるわけでもないので。さて、着きました。向こうの部屋が魔道具室で、こっちが資料室です。魔道具室は公爵家の血を引く人間、二人以上が魔力を流さないと解錠されないんですの。ですので、お父様がいない限り入れません。ですが、こっち。資料室は一人分の魔力で開きます」


 そういいながらリースさんが扉に魔力を注いだ。ガコン!と大きな音が鳴り、扉がズズズと開いた。


「改めて自己紹介しますわね。わたくしはリース=フォン=ゾーディアック。この家の次女ですわ。エリーとは双子ですが、彼女は魔法のプロ、私は非フォルテです」


「本日よりリース様の臨時護衛兼調査員になった赤木風兎です。そして」

「暁瑠璃です」「七瀬アヤです」「宮杜菜々美と申します」


「それで、事件について私に聞きたいことがあるのですよね? 正直私は事件についてはほとんど聞いておりませんので、答えられるかどうか……」


「いえ、僕たちがお尋ねしたいのは、事件発生前のエリーさんとの会話なんかについてです」


「事件……」


「ああ、えっと、その。嫌な事を思い出させてしまいましたね。無遠慮でした、すみません」


「いえ、そこは全然。もちろん姉上のことは不安ですが、今はそれ以上に自分自身の身を守ることですし」


「助かります。では早速ですが、学園入学後も頻繁に会話されていたのですか?」


「ええ、と言っても学園は王都にあるので、直接ではなく手紙でのやり取りでしたが。ただ、最近は全く手紙のやり取りはしていません」


「そうなんですね。最近というのは……」


「ええと、そうですわね……。イアソン王子との婚約が決まって以降ですかね? 忙しくなって手紙を書く余裕がなくなったのだと思います」


「そうなんですね。では、秘宝のありかについては全く?」


「ええ。父上経由で『次は私が狙われるかも』という事だけ聞いた感じです。まるで、あまり詳しく話したくないような印象を受けたのが気になりましたが。余計な不安を煽りたくなかったのだと思いますが、私だってもう子供じゃないのですから……。はあ」


「あはは、まあ親からしたら娘は何歳になっても子供ですから……」


「ですかね。でも、正直お父様は大げさな気がしますよね……。詳しくは聞いていませんが、何やら公爵家の魔力がいるとか。私は魔力が少ないので、一番狙われにくいと思うのですが……」


「「「……?」」」


 俺以外の三人がきょとんとした顔でリースさんを見つめた。


「? 私、何か変なことを申しましたか?」


 三人が口を開けそうになるのを遮り俺は言葉を続けた。


「非常に言いづらいですが、フォルテではないという事はその分誘拐しやすいという事ですので……」


「なるほど、確かにそうですよね。父上を捕まえるのは困難を極めると思いますわ」


「でしょうね。公爵様も相当お強いフォルテなんでしょう?」


「ええ」


「それで思い出したのですが、エリー様が誘拐されましたよね? 僕たちはそこについても疑問を感じていまして。エリー様はかなり強いフォルテなのに、周囲に助けを呼べないまま誘拐されてしまった。そんな事、あり得ないと思うのです。ですから、もしかしたら彼女の顔見知りが犯人の可能性もあると思ってまして」


 推理小説でこういうの、よくあるよな。え、なんでベータの前でこの話をしなかったのかって? ゲームでのシナリオに則るためだ。


 さて、この質問にリース様は一瞬眉をひそめるも、すぐに納得したような顔をしてこう言った。


「あれ、聞いていませんか? ああ、そういえばお父様は憲兵や騎士団にも伝えていないというようなことを言っていた気がしますわね……」


「「「「?」」」」


 俺たちが首をかしげているのを見て、リースさんは少し悩んだ顔をしてから話し始めた。


「あまり広めないで頂きたいのですが、実は公爵家には『ジーピーエース』と呼ばれる魔道具があるのです」


「ジ、GPS……?」


「はい。他にもジーピージャック、ジーピークイーン、ジーピキングなどがありますが、その中でも最も強力なものです。ジーピーエースの機能は『特定の人物の行方を知る』です」


「ええ?! そんな物があるなら、なんでもっと早く……」


「もちろん父上も私もすぐにジーピーエースを確認しました。ですが、マーカーがどこにも出ていなかったのですわ……」


「それって……」

「まさか……」

「もうエリー様は……」


「いえ、その心配はないです。この魔道具で一度に監視できる人数は限りがあって、対象が死なない限りそのスロットは空きませんの。そして……」


「エリー様の分のスロットは埋まっていたと」


「そのとおりですわ。ではなぜ場所情報が記録されないのか。その理由は魔力を抑え込まれているからなんです」


「魔力が」「抑え込まれている……」


「そうなると、探知可能範囲が一気に狭くなります。よって、魔法妨害系のアクセサリーを無理やり着けられていると私たちは考えていますわ」


「そんなものがあるんだ……」

「あるある。無限迷宮でもドロップするよ」

「そうなんですか?!」


 先輩たちがヒソヒソと話しているのを横目に、俺はリース様に最後の確認をする。


「なるほど。まとめると『ジーピーエースという魔道具によって、エリーは生きているが魔力を抑え込まれているという事がわかっている』『逆算して、エリー程の能力の使い手が誘拐されたのは、その魔道具を取り付けられたため』ということですね?」


「ええ、そう考えておりますわ」


「なるほど、ありがとうございます。もしかして今その本を読んでいる理由って……」


 俺はリース様が持っている本を指さす。そこに書かれていたタイトルは……。



『ジーピーシリーズの仕組み』



「ええ。ジーピーエースを改造して、より強力な探知を出来るようになれば、姉上を見つけることができるのではないか。そう思って、今勉強していますの」




【リースの証言】

・魔道具室に入るには公爵家の人間が二人魔力を注がないといけない。

・資料室に入るには一人で十分。

・エリーとは時折手紙のやり取りをしていたが、最近は全くしていない。

・父からは詳しい説明を受けいていない。

・秘宝の在り処について「魔力が必要」と思っている。

・スコーピオは強いフォルテである。

・エリーももちろん強い。が、誘拐時に魔力妨害系アクセサリーを取り付けられてしまい、魔法を使うことが出来なくなったと推測している。

・ジーピーエースという魔道具があり、それを使えば事前に登録した人間の居場所を確認できる。ただし、魔力を抑え込まれているエリーは探索不可になっている。

・リースは現在、ジーピーエースを改造しようと、文献を漁っている。



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