其処で嘗てあった事、Part2

 ゾーディアック公爵家の現当主、スコーピオ公爵は、俺たちに事件の概要を伝えた後、「これで伝えるべきことはすべて伝えた。何か聞きたいことはあるか?」と尋ねてきた。

 ゲームではここで選択肢が表示されるのだが、ここはリアル。選択肢なんて表示されない。俺はゲームのことを思い出しつつ、スコーピオ公爵に問いを投げかけた。


「エリー様が王子との結婚が決まったという話がありましたが、そこについて少し詳しく教えていただけますか? なにかこう、反対勢力的なものがいたりとか……?」


「うーむ。まず大前提として、この国には二人の王子がいる。長男のイアソン王子と次男のぺリアス王子だ。二人は長らく、どちらが王位を継承するか争っていた」


「? えっと、こういうのって長男が後を継ぐものなのでは……?」


「尤もな疑問だな。普通は長男が選ばれるのだが、今回は少々厄介な事情があってな。次男のぺリアス王子のほうが成績も能力の扱いもはるかに優れていたんだ。だから『ぺリアス王子が次期国王にふさわしいのでは?』と囁かれるようになった。そして国王陛下は『ならば決闘で決めよう。ぺリアスが国立フォルテ学園を卒業するタイミングで決闘を行い、勝者を次期国王とする』と言ったんだ」


「け、決闘ですか?!」

「あ、危なそうですね……?」


「いや、さすがにアリーナ内で行う予定になっていたぞ。まあ、陛下としても内心『ぺリアスに王位を継がせたい』と思っていたのだろうな。だから決闘なんてことを言ったのだと思う。イアソン王子も必死で訓練を積んだが、結局ぺリアス王子よりも強くなることはできず。皆が『ぺリアス王子が次期国王だろう』と思ったんだ。しかし……」


 そこまで言って、公爵はカップに注がれていた紅茶を一口飲み、一呼吸おいてから続きを話し始めた。


「しかし、急に状況が変わった。ぺリアス王子が王位継承権を放棄すると言ったんだ。ぺリアス王子は『自分は幸運にも才能に恵まれていたが、それ故に努力する習慣が身につかなかった。夜遅くまで、魔力が尽きるまで訓練する兄を見て、自分よりも王にふさわしいと思った』と言って、貴族を納得させた」


 その後、なんやかんやあって公爵令嬢であるエリーとイアソン王子の婚約が決まったそうだ。


「とまあこんな感じだ。王位継承争い関係は平和的解決に終わったから、敵対勢力はいないだろう。他に聞きたいことはあるか?」


 ここで、まさかの先輩が小さく手を挙げ「あの~」と言った。おおっとマジか、予定が狂うか?


「あの、騎士団の中に内通者がいて……という話がありましたよね? 差し支えなければ詳しい話を聞かせていただけますか?」


 ナイス! 良い事を聞いたぞ、暁先輩!


「よかろう。この国にはいくつかの犯罪組織があるのだが、中でも厄介なのが『アルゴ』という犯罪組織だ」


「アルゴ、ですか」


「ああ。彼らはただの逆賊ではなく、一部貴族ともつながりがある巨大組織と考えられている。貴族の中にいる内通者を介してエリーがいる寮、部屋を割り出したのではないかと」


「なるほど……」


「だけど、まさか騎士団の中に内通者がいたとはなあ。しかも、まだ犯人が見つかってないんだ」


「ええ?!」「そうなんですか?」


「ああ。騎士団しか知らないはずのリース護衛作戦が、なぜかアルゴにもバレていたんだ。本当、いったい誰を疑って誰を信じたらいいのか……。だからこそ、君たちには期待している。どうか、どうかアルゴを捕まえてくれ! 生け捕りにして、エリーの居場所を吐かせるんだ! ……っとすまない。つい大声を出してしまった」


「いえ、心中お察しします」

「絶対にアルゴって奴らを捕まえてみせます!」


「他に聞きたいことはあるか?」


 俺たちは顔を見合わせる。もう俺からは聞くべきことはない。三人も聞きたいことはなさそうだ。


「いえ、大丈夫です」


「そうか。そうだ、君たちにはこの屋敷を案内しないとな。アン、頼めるか?」


 公爵は近くにいたメイドを呼び寄せる。アンと呼ばれたメイドは「かしこまりました」と言ってから俺たちの方を向いた。


「では、私についてきて下さい。屋敷を案内します」



 長くなったので、ここで一度整理を。


【王家】

・イアソン王子

 長男であるものの、才能に恵まれず王の座を弟に奪われそうになる。

 しかし、弟自らが辞退したことで、無事次期国王に決定。

 エリーと婚約している。


・ぺリアス王子

 イアソン王子の弟。自ら王位継承権を放棄し、兄が王になるよう推薦した。


【アルゴ】

 犯罪組織。貴族や騎士団の中に内通者がいるほど、巨大かつ厄介な組織。こいつらを捕まえるのが、俺たちの役目らしい。




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