其処で嘗てあった事、Part1

「この文献によると、『物語ボス』という類のボス戦があるみたいでして。ここみたいに『ボスのいる場所が人工物と思われる場所』で見られることがある形式のボスみたいです」


「確かに、この『壊れゆく庭園』は他の階層とは全然違うよね」


「はい。この論文に書かれていた『物語ボス』はヨーロッパのある農村で見つかったそうです。簡単に言うと……」



~~~


 その村には「子供の幽霊が現れる」「神隠しに合うが、いつの間にか帰ってこれる」という噂のある洞窟が存在していた。そこを偶然旅していたフォルテが「もしやゴーストでは?」と疑ってその場所へ向かうと、確かにそこは魔物の巣と化していた。

 小動物のゴーストが数匹いたが、それほど問題にはならず最奥までたどり着くことができた。


 最奥には小さな扉があった。「魔物の巣の中に扉?」と不審に思いつつも、その扉を開くと一軒のボロボロの家につながっていた。


 その家の中には子供がいて「遠い親戚が隠した宝物を見つけて、貧しい生活を脱したいんだ。おじさん、傭兵でしょ? お願い、代金は払うからついてきて」と言ってきた。その子供から敵意・脅威は感じなかったため、フォルテは話を聞くことにした。


「財宝を見つけたらそれで払うから、お願い!」

 子供はそう言う。


「んじゃ見つけた財宝の一割な」

 フォルテがそう言うと、子供は頷き


「それでいいよ。じゃあ、契約ね」

 と言った。


 途中、盗賊や魔物に襲われ、急斜面で滑落しそうなるも、なんとか宝の在り処にたどり着く。

 財宝を前に子供は「助けてくれてありがとう! これでお金に困らないよ!」と言う。次の瞬間、フォルテは洞窟の前に戻ってきていて、彼の前には財宝の一割分の宝物が置いてあった。

 驚いたフォルテは洞窟に再度入ってみたが、そこはただの洞窟になっていたとさ。


~~~


「って感じです」


「えーっと? それって事実なの?」

「なんというか、昔話あるあるみたいな話だったね」

「それがその論文に?」


「実はこれ。ただの昔話です」


「「「へ?」」」


 三人はポカーンとあっけにとられた顔をする。


「この論文はその昔話の舞台になったと思われる場所を調査した論文なんです。調べに調べた結果、確かにそこに魔物の巣があった痕跡が見つかった……という趣旨ですね」


「なーんだ。じゃあ、その話が本当に真実かは分からないんだね」


「ですね。ただ、もしも本当にここが物語ボスなら、登場人物を攻撃したら駄目でしょう? だから、一応言っておこうと思いまして」


 俺たちはお屋敷の中へ入った。



 お屋敷の内部も、まるで新築のようにきれいな内装であった。床には赤いカーペット、天井にはシャンデリア。


「あら、あなた達が今日から臨時で入ることになった警備の者ですわね?」


 不意に右奥からそんな声が聞こえてくる。俺以外の三人が一斉にビク!っと震える。

 そこにいたのは長い金髪が見事にドリルを巻いている女性だった。ゲームでは黄金のドリルなんて呼ばれていた女性である。


「私の事、そしてこの屋敷の家宝を守り抜いて下さいまし。期待しております。詳しい事情については私の父から話がありますわ」


 そう言って黄金のドリルは去っていった。


「これってまさか……」

「本当に物語ボス……」

「あの人は登場人物、でしょうか」



 程なくして俺達は黄金のドリルの父親「ゾーディアック公爵」と対面し、事情を聴くことになった。「少しここで待っててくれたまえ。今から資料を持ってくる」と言ってゾーディアック公爵は部屋を出て行った。


「あのー。これって、今から『これまでのあらすじ』的なのを教えてもらえると考えていいんでしょうか?」


 宮杜さんがそうつぶやく。


「だろうな。まさか右も左も分からない俺たちにミッションを課すほど、迷宮は意地悪じゃないみたいだな」


 で。ゾーディアック公爵とやらが戻ってきて、俺たちに状況を説明し始めた。



 公爵のかな~り冗長な話の骨子だけ言うとこんな感じである。


【ゾーディアック公爵家】

・スコーピオ

 公爵。二人の娘がいる。


・エリー

 この家の長女。フォルテであり、王都にある国立フォルテ学園では主席の成績を収めている。

 この国の次期国王との婚約が決まってからというもの、鼻につく発言が増えていたとか。「私に能力で勝てるものなんていないわね」的な。非フォルテを軽く馬鹿にするような発言もあり、少し問題視されていた。


・リース(黄金のドリル)

 この家の次女。エリーとは双子である。ただ、リースは非フォルテであり、貴族扱いはされていない。(今は実家で隠居生活を送っている)



【事件の概要】


・一か月前、エリーが王立図書館の資料館にてゾーディアック公爵家がかつて隠した秘宝の在り処についてのメモが見つけた。


・三週間前、エリー本人が自慢げにこのメモについて話した。


・16日前、寮に空き巣が入ったとの噂が流れた。しかし、誰の物も盗まれておらず、見間違いだろうと結論付けられた。


・7日前、エリーが学校を無断欠席する。心配になった教師/友人が彼女の部屋を見に行くと、部屋は大いに荒らされており、また所々に血痕が残っていた。

 すぐに捜索活動が始まった。

 なお、世界観的には結構治安が悪いそうで、いくつかの犯罪組織が犯人候補に上がった。


・5日前、秘宝の在り処についてのメモが彼女の部屋から発見される。


“……。秘宝■の道を開■■■ゾ■ディ■■■の血を引■者の血液二■■を■■像に捧げ、■■する必要■ある。……”


 秘宝にたどり着くには「公爵家の人間の血液二人分が必要である」と推測され、ここから犯人はエリーを誘拐したのではないかという説が濃厚になる。


・4日前、公爵家の実家(今いる場所)の周囲で怪しい人影を見たという噂が流れる。


・同日(4日前)、騎士団が公爵家の実家に派遣される。


・2日前、この事件とは関係なく、騎士団の中に犯罪組織への内通者がいたことが発覚する。


・1日前、絶対に信用できるフォルテがいないものかと考えた末、(経緯は不明だが)俺たちが派遣されることになった。


・今日、俺たちがやってきた。





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