壊れゆく庭園、解読


“死は橋を越えて克服せよ。暗殺者は騎士をもって制せよ。呪いは薔薇で浄化せよ”


“太陽に焼かれる星々は我らを殺さんとする。対をなす者は死をもたらす。はさみと矢は暗殺者の印なり。他は呪いの象徴なり。希望は奴らの中にいる裏切者を探すこと。裏切者は我らに道を開くだろう”



 暁先輩、七瀬さん、宮杜さん、そして俺は迷宮から帰還後、この謎の文章とにらめっこしていた。


「ねえ、この二番目の文章に出てくる『死をもたらす』『暗殺者』『呪い』って言うのは、一番目の文章に出てくる『死』『暗殺者』『呪い』と関係がある……んだよね?」


 七瀬さんがそう問いかけてきた。俺は「流石にそうだと思って良いだろう」と答え、他の二人もそれに同意する。


「橋、騎士、薔薇は庭園にあったものだとして、問題は太陽に焼かれる星々ね」


 暁先輩がうーんと頭をひねる。俺は「なんでしょうね……」と考え込んだふりをする。なぜふりなのかって? 当然知っているからだよ。


「昼間で見えない星とかですかね?」

「今は夏だから……、見えないのは冬の星ですね」


「裏切者って部分も気になるよね。何か裏切りと関係する星かなあ……」


 暁先輩はタブレットで「裏切り、星」と検索し始めた。俺はそれを横からのぞき込む。


「『裏切りやすい人の星座は?』『あの人は裏切る? よく当たる星座占い』って関係ない事ばかりね。赤木君は占いとか信じる?」


「全然ですね。お三方は?」


「私はイイ時だけ信じる!」

「私は結構信じちゃうかな~」

「私は全く信じないです」


「そうなんですねー。星座かあ。ギリシャ神話とかで調べたら、何か情報出てきますかね?」


「『ギリシャ神話・裏切り』。えっと、えっと。……いろんな人が裏切り合ってるみたい」


「あー。そうですかあ」


「神話の神様って、結構ひどい奴ですよね~」

「そうなんですか? もっとこう、キレイな話だと思ってました」


「七瀬さん、神話に詳しい系?」


「全然だよ~。昔、ちょっとだけ調べたことがあるだけ。赤木君は?」


「俺もそのくらいかな」


 このことに興味を持ったのか、ポチポチとタブレットを叩く先輩。


「逆恨みをして人を虐殺したとかそういう話が出てきたよ……。なんていうか、ひどいね」


「うわあ」

「怖い……」


「神話を書いた人が『俺たちがひどい目に合っているのはあいつのせいだ』って言いたかったのかもな」


「あーなるほど」「そうかもね~」「すべての罪を擦り付けられる神……」


「あるいは俺TUEEEな小説のつもり、とか? 主人公の怒りは町一つを滅ぼした!みたいな。って話が逸れましたね。今は『太陽に焼かれる星々』と『裏切者』の話です。先ほど話題に上がった『星座』はいい着眼点な気がします! 星が星座だとして、『太陽に焼かれる』って部分を考え直したいです」


 あれだね。一人だけ答えを知っているウミガメのスープをしている気分だね。


「それはやっぱり、太陽で見えない星座ってことじゃない?」


「そうだとしたら、地球の公転で条件が変わるよな? それだとあまりに複雑じゃないかなあって」


「確かに」

「それに季節の境目はどうなるのって判断が難しいと思います」


「太陽に焼かれる……」

「「うーん」」


 なかなか議論が前に進まない。よし、少しヒントを出してみようか。


「太陽と丁度重なる、とか? 太陽の通り道に重なりうる星座って限られてませんでしたっけ?」


「あーなるほど! 調べてみよっか!」

「確か黄道十二星座って言うんだよね?」

「あ、それ聞いたことあります! 誕生日占いでもよく出てくる12の星座ですよね」


 暁先輩がタブレットを操作する。黄道十二星座の紹介ページを開くと……。


「『黄道上の星座のうち、へびつかい座を除いたもの』……だって。へびつかい座ってなに? ……へえ、黄道上にあるのに十二星座からはぶられてるんだって」

「もしかして、これが……」

「「「裏切者!」」」


「なるほど~!(知ってたけど)とすると、『対をなす者』『はさみと矢』の意味も分かりますね!」


「対をなす者っていうのはふたご座とてんびん座かな。あと……うお座も?」

はさみと矢はかに座、さそり座、いて座ね!」

「凄いです! 全部解けました!」


「そういえば、私、星座のマークが彫られてる花瓶を見た気がする!」

「私、地面に星座が彫られているのを見ました!」


「じゃあ、早速確かめに行きましょうか?」


 そう俺は提案する。三人は俺の方をじっと見てから顔を横に振った。


「ちょっと今日は……」

「もう疲れちゃったかなあ、なんて」

「私もです……。あ、赤木君がいくなら着いて行きます!」


「いや、そうだよな。今からまたあそこに行くのはしんどいよな。今日は夕飯までだらだら過ごすか~。……せっかくですし、みんなで遊びます?」



 で、ふと目に入ったトランプで遊ぶことに。まずは俺と七瀬さんが『スピード』で勝負することになったのだが……。


「あの、七瀬さん? もしかしなくても身体強化を使ってる?」


「え、反則なの?! 赤木君も使えるんだし、別にいいかなって!」


「じゃあ、俺も使うぞ」


「え、ちょ! 速くない?!」


「これがフォルテ流トランプ遊びなんですね!」

「いや、感心するところじゃなーい! ストップストップ! もっとゆったり遊べるゲームにしよう!」



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