「壊れゆく庭園」ってどんなところ?
「へえー! 赤木達、もう50層突破したのかー!」
「マジか、もう来年まで迷宮探索サボっても大丈夫やん」
「いや、サボるなよ」
現在午前8時。俺はクラスメイトと迷宮攻略について話していた。
「俺たちも部活はほどほどにして迷宮攻略とかしたほうがいいのかなあ」
「そうか~? 先輩曰く、一年の間しか『普通の』高校生っぽい生活を出来ないから、『一年の間は遊べ』らしいで?」
「それもそうだよな~」
もちろん二、三年生でも部活動をすることは可能だ。とはいえ、二年生になると能力の練習、迷宮攻略や実習に時間を取られるようになり、三年生にもなればそれに加えて就活もしないといけない。そういう意味で、楽しく高校生活を満喫できるのは一年生の間だけなのかもしれない。
あ、能力研究部は別だぞ。だってこの部活は能力練習の延長線上だから。
「これは俺の個人的な意見だけど、今は全然遊んでも大丈夫だと思うけど、それと同時に就職先とか将来について明確なビジョンを持っておくべきだと思うぞ。そうじゃないと『なーんか予定と違うぞ?』ってなるから」
「な、なんか実感がこもってるな」
「……ちょっと知り合いでそういう人がいて。いい大学行ったけど、結局就職に失敗した人が。ちゃんと将来を見据えた行動をして、資格とか取っておけばよかったって」
「そういう人生は嫌だよなあ」
おい俺の前世を「そういう人生は嫌」とか言わないで? 俺、内心ショック受けてるぞ?
「まあ、俺達の場合資格とかあんまり関係ないよな?」
「じゃあ、学生のうちにしておくべきことって……? 迷宮の攻略階層を増やすくらい?」
「『この部隊に所属したい』とか『この組織に就職したい』とか考えておくだけでもいいと思うぞ。それによって練習すべき事柄は変わるじゃん?」
「例えば?」
「迷宮の中でも未知の領域に突入する部隊に入りたいなら、魔物の行動パターンを分析する練習をするべきだろ? 逆に既知の迷宮から資源を掘り起こす部隊に入るなら索敵して効率的に魔物を倒す練習をすべきだろ? ……まあ、先輩の受け売りだけど」
「なるほどなあ」
「ちょっと考えてみよー。未知の領域に突入するっていいよな、憧れだわ~」
「マジ? それ命の危険がある奴やん! 俺はやっぱ安全を優先させたいわあ」
「でも、めちゃくちゃ稼げるらしいからさ」
「あーそれは確かに」
◆
「ところで、話を戻してまうけど、赤木達って51~60層を攻略するんやんな? 確か『壊れゆく庭園』って階層」
「ああ、そのつもりだな」
「教科書でチラッて見ただけやけど、『敵を攻撃しちゃいけない階層』で合ってる? 実際どういうところなん?」
「あーそれ俺も気になってた。よく『敵と思っても、すぐに攻撃してはいけない』の例として出されるよな」
「そうだな。じゃあこの機会に『壊れゆく庭園』がどういう階層なのか説明しよう」
ちょうど宮杜さんと七瀬さんも俺たちの会話を聞いてそうだし。
「51層に入るとそれはもう豪華な庭園がある。フォルテメイアの敷地の二倍くらいはありそうな大きさの庭園だ。あちこちに噴水があって、薔薇やキンモクセイがあちこちに咲いているんだ。で、庭園の先には大きな大きなお屋敷が見えている。そこがボス戦の舞台だ」
ベルサイユ宮殿みたいな感じだな。……行ったことないけど。
「あーそれ気になってた! どういうことなの? 51層と60層が同じ空間にあるってコト?」
「それって違和感しかないよなあ。転移陣がないってことだよな?」
そう、壊れゆく庭園の特徴は「階層の概念がない」というところにある。例外こそあれ、普通はある階層から別の階層に行くには転移陣が必要だ。転移陣を使わない場合、例えばキャプテン戦の時は洞窟を使って階層間を移動したけど、それだって下り坂になっており「別階層に向かっている」感じがあった。
しかし、壊れゆく庭園は51層から60層(ボス戦)までが同じ平面にある……ように見えるのだ。
「教科書によると同じ平面に見えるけど、実際には小区画ごとに階層が分かれているそうだ。実際、明らかに隣り合っているエリアでも声が届かないことがあるらしい」
「なるほど?」
「つまり、転移陣にこそ乗らないけど、いつの間にか転移している……みたいな?」
「そういう事だな」
まあ本当はもうちょっと複雑なんだけど、それについてはまた後程。
「で、51層で見たときは一面きれいな庭園なんだ。それこそ『え、ここって本当に魔物の巣なの?』と言いたくなるくらいには。実際、51層には一切魔物が登場しない」
「そうなんだ」
「魔物が出ないってすごいな。前に行った海エリアも景色こそ綺麗だったけど、魔物がいたからなあ」
「51層は本当にただのきれいな庭園ってことですね?」
「そういう事。だけどエリアを、階層を移動するごとに庭園が劣化していくんだ。最初は雑草が生えて、噴水が止まるだけ。だけど最終的には植物は全部枯れてしまって、噴水にはヘドロがたまって、モニュメントにはヒビが入ったり壊れたりして。かつての豪華な庭園は幽霊屋敷になってしまう」
「なんだかホラーみたいだな……」
「ホラーというか、盛者必衰の理を見せられる……舞台みたいだな」
「舞台か。いい表現だな。そう、これは一種の舞台なんだ。だから、そこに登場する『役者』を攻撃してはいけない。草むらから植物型モンスターが飛び出してきても、いきなり目の前に人食い花が現れて大きな口を開けたとしても。バラの蔦で出来た蛇型モンスターが現れても、ヘドロから手が出てきて俺たちを掴もうとしてきても、壊れた石膏像が剣を振り回しながら追いかけてきても。絶対に攻撃しちゃいけない。ちょっとでも攻撃魔法を使ってしまうと、地面からバラの蔦が生えてきて攻撃者を拘束する。そうなったら絶対に逃げることはできず、『挑戦者の為のチョーカー』を使って脱出するしかなくなる」
「蔦を切るのは無理なのか?」
「無理だな。絶対に切れないように出来ている。実際、今まで拘束から逃れることができた例は存在しない」
実は最深層辺りで落ちるアイテムの力を使えば、逃げる/倒すことができるのだが、まだまだ先のことだ。
「なんてゆーかあれやな。能力や魔物の対処に慣れてきた人に対する戒めみたいやな。最近俺、魔物がパッて飛び出してきても、反射的に攻撃できるようになってきたんやけど……」
「それ自体は良い事なんだけどな」
「びっくりしたらつい魔法を使う。そんな風にならないようにっていう教訓の為にある階層なのかもなあ。知らんけど」
「確かに。冗談で脅かしてきた友達を間違って攻撃したら駄目だもんな」
「ちなみに、ボスは『深窓の亡霊嬢』というゴーストだ。ありとあらゆる属性の魔法攻撃をしてくるから、予備動作を見極めて適切に防御しないといけない。しかも、光属性攻撃を反射するアクセサリーを付けているから、弱点がない。かなり強いボスだぞ」
ちなみにドロップアイテムは霊石、宝石、攻撃のタリスマン(どれか一つの属性の攻撃を出せる、魔力変換率15%)だ。
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