焼き肉パーティー、準備

 ドラゴンと言えばどんなイメージがあるだろうか? 最強? 神話? 美少女になる?

 残念ながらこの世界のドラゴンはそういう類のものではない。「大きな爬虫類」という意味に近いかな。地球で言うコモドドラゴンとかに近いイメージだ。階層で言うと231~260層「白亜の森」くらいにいる敵だ。

 つまりこの世界の人にとっては、ドラゴン肉はおおよそワニ肉みたいな感じ。「珍しいな、どんな味なんだろ?!」的な。


「また珍しいものを手に入れたねー!」

「かなりお高い肉じゃ無いですか!」


「いやあ、まあ。ちょっとな。棚ぼたで手に入れたっていうか。だから遠慮はいらない。むしろ一人でどう処分しようか困っていたんだ。流石に貰い物を買取所で売るわけにはいかないだろ?」


「あそこは自分で狩ったものしか売っちゃいけない決まりだからね~」


 ……。なんとなく桜葉先輩の話し方が変だな。普通、高級なお肉を貰ったとして、「まあ。ちょっとな。棚ぼたで手に入れたっていうか」なんて言い方するか? 何か隠している?

 待てよ、ドラゴン肉? ……まさか。


「あの、桜葉先輩」


「うん? なんだい?」


「あー。えっと、味付けはどうしましょう? どんな味付けがいいか分からないので……」


 本当は別の事を聞きたかったのだが、やっぱりやめておこうと考え直した。これは今聞く事じゃない。もっといいタイミングで、具体的には焼き肉パーティー中に聞こうと思う。


「うーむ。一応私が少し食べてみた感じでは、鶏肉っぽかったかな」


「なるほど、そうなんですね」



 そして週末になった。午前中授業になったおかげで迷宮攻略が捗る捗る。テスト終わってからまだ三日だけど、もうすでに45層を突破したよ。


 そうそう41~49層にはスリップダメージを受ける床があって「ビリビリシメジ」という。これを踏んでしまうと、体に電流が走ってかなり痛いんだ。長時間乗っていると火傷するレベルの恐ろしいシメジなのだが、実はこのシメジは食用だ。適切な方法で採取したら、あとは普通のシメジと同様の調理法で食べることができる。味はスパイシーで、それを使ったピリ辛スープ「ビリビリきのこスープ」は夏の定番料理だそうだ。

 で、たくさん採取したそれを使って、今日はドラゴン肉入りのスープを作ってみようと思っている。事前に先輩に「一部をピリ辛スープにしたいです」と聞いたところ、「同じ味だと飽きるだろう。ぜひ作ってくれ。私も手伝おう」とのお声を頂いている。


 場所は迷宮の入り口よりも北にある森の中。許可さえ取れれば、自由にバーベキューなんかのイベントをしていいスペースだそうだ。そんな施設もあったのか、この学校。


 他の人よりも早めに集まった俺、宮杜さん、神名部さん、桜葉先輩は調理をはじめる。


「さて、これが肝心のドラゴン肉だ」


「「「おお~!」」」


 マジックバッグから10キロはありそうな肉がドンと出てきた。うわあ、やっぱでかいな……。


「そしてこれがもう二つある」


「「「お、おぅ……」」」


「食べきれるかな? ……ちょっと厳しいか?」


「とりあえず、この肉からさばきましょうか」

「ちょ、ちょっとグロテスクですね……」

「この大きさだと、美味しそうというよりも、恐怖心のほうが勝つ」


 宮杜さんと神名部さんは若干引いている。まあ、この大きさの肉塊はちょっとびっくりするよな。俺も平静を装ってるけど、かなりビビっている。


「包丁じゃあ切れなさそうですね……。『魔刀・切断』」


 困ったときの無属性魔法。俺と桜葉先輩が手分けしてスパスパと肉を切り裂いて、食べやすいサイズにしていく。その間に宮杜さんと神名部さんにはその他の料理の準備をしてもらう。


 さて、このタイミングがいいかな。このタイミングなら自然に聞き出せるだろう。


「ところで先輩、このドラゴンってなんて種類なんです?」


「あ、ああ。正式名称かどうかは知らないが、『砂ドラゴン』とかだったと思う。いかんせん貰い物だからな。名前は詳しく聞けてないんだ」


 へえ……。砂ドラゴン、ねえ。


「へー。少なくとも無現迷宮ではそんなドラゴン、いませんよね? どこのダンジョン産なんだろ……」


「だな。教科書を見たけど、それっぽい記述はなかったから、海外の魔物かも?」


「ですねー」


 自然な(?)流れで会話を切ったが、俺の内心はドキドキしている。

 やっぱりか、予想が合っていた。

 もう少し、もう少しだけ情報を引き出してみるか。


「ところで先輩、属性魔法は使えないですよね? 同じ無属性魔法使いとしてアドバイスを乞いたいのですが、やっぱり属性転換のアクセサリーとかって持ってます? 必要ですかね?」


「うーむ、欲しくなる時があるかと聞かれたらYesだが、必要か、使っているかと聞かれたらNoだな。無属性魔法には無属性魔法の強みがあるからな、それを最大限引き出すことを練習すべきだと思うぞ」


「そうですかね?」


「それに、聞いた話だと、属性転換のアクセサリーって値段の割にあまり効果がないそうだぞ? 知り合いが持っているんだが、発射した魔法の数%しか属性魔力に変換されないとかで」


「そうなんですね! そっか、それじゃあ、最近先輩がしてるっていう特訓も、そういった魔道具の手は借りずに?」


「ああ。魔道具の手は借りていないぞ」


「そうなんですねー。ありがとうございます、参考になりました」





 おそらく先輩が持ってきたこの肉、100層の裏ボス「ビッグサンドトカゲ」の肉だ。見た目はドラゴンだから先輩は「砂ドラゴン」と呼んでいるんだと思う。

 先輩は偶然、裏ボスの出現条件を満たした。そしてそのことを隠しつつ、そこで特訓しているのだろう。で、裏ボス産のドロップアイテムである「ビッグな肉」をどう処分するか困っていたというところか?


 まあここまでは分かる。若干「俺たちに、せめて暁先輩には言ってもいいじゃん」と思わなくはないが。


 けれど、ここで重大な矛盾がある。ビッグサンドトカゲは水属性がないと倒せない魔物なのだ。水をかけてビッグサンドトカゲに一定の形を持たせてから攻撃しないと、ダメージを与えることができないのだ。

 おかしい。それをどうやって無属性しか使えないはずの先輩が使えるんだ? もしかして高級な魔道具にでも手を出したか?


 そう思って聞いたのが二つ目の質問だ。その答えが「魔道具の手は借りていないぞ」である。

 ではどうやって? 桜葉先輩は何をしている?




 さて、ここで身近な人で、似たようなことをしている事例があるよな。そう、俺だ。俺も裏ボス戦を挑んで属性魔法の練習をしたよな。で、その時に手に入ったウナギを「ちょっとした伝手で手に入れた」とか言って神名部さんと一緒に食べた。




 まさか先輩……複数の属性を使える?





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る