近況報告

 部活が終わり、みんなでフードコートへ向かっている時のことだった。


「あ、暁先輩。言ってませんでしたが、試験お疲れさまでした。今日のテストもばっちりでしたか?」


「あ、うん! もうね、ばっちりだったよ! 事前に加奈が口頭でテストしてくれたんだけど、全問正解。その勢いでテストも乗り切ったよ!」


「お、それはよかったです。桜葉先輩、驚いてました?」


「うん! 赤木君の事、なんでもできるなあって感心していたよ!」


「いやあそういってもらえると嬉しいですね。そういえば気になってたんですけど、桜葉先輩、結局部活に来ませんでしたね。何かあったんですか?」


「んー、実は誘ったんだけど『いや、今日も迷宮で特訓しようと思う』って言ってて。なに、もしかして加奈のことが気になってたり~?」


 その時、後ろを歩いている七瀬さんと宮杜さんから視線を感じた。これは第六感が仕事をしたのかもしれない。(そういう訳ではない……とも言い切れない?)


「そういう訳じゃないですよ。ただ、桜葉先輩が一人で行動するようになったのって魔法杯以降でしょう? 何かあったのかなって」


 実は魔法杯以降、真剣に特訓を始めた人物が身近に一人いる。紅葉さんだ。紅葉さんは例の事件以降、改めて自分の能力を見つめなおして、さらなる強化を目指していると聞いている。再び襲撃を受けたとして、次は自分で対処したいと語っていた。

 この事例があったから、俺は「桜葉先輩は例の事件の真相を知っているのでは?」と疑っているのだ。もちろん、確証があるわけじゃないけどな。


「それはあれじゃない? 赤木君達の活躍を見て焦りを覚えたとか」


「うーん、桜葉先輩ってそういうキャラではないと思っていたので。仮に力が欲しいと思ったとして、暁先輩と組んでいたパーティーを解消しますかね? 桜葉先輩のキャラ的に、暁先輩と一緒に成長しようとするんじゃないかなって」


 そう、暁先輩とのパーティーを解消したという事実も俺の疑いを加速させているのだ。


「確かに……! もしかして私、嫌われちゃったとか?!」


「もし嫌われたんだとしたら、今朝先輩とテスト対策なんてしないでしょう? そういう訳じゃあないですよ」


「そ、そうだよね。よかった~。でも、そう考えたらなんでなんだろ?」


「もしかしてすっごく危ない特訓をしているとかじゃあ……」


 七瀬さんがそう言った。うん、そういう可能性も十分考えられるんだよな。


「加奈が危ない特訓を?!」


「ああ、いえ。すみません、口を挟んじゃって」


「うーん。七瀬ちゃんの言ってること、的を射てるかもしれないよね」


 暁先輩が真剣に考え始めた。大切な友人が危ないことをしているかもしれないんだ、どうすればいいか思案しているんだろう。


 魔法杯とは関係なく、偶然あの時期に「物凄く強くなれるが物凄く危険な方法」を知ってしまった。それで暁先輩を危険に巻き込まないようにしている。この可能性もゼロではないだろう。ただ、そんな方法あるか? 少なくとも俺は知らないぞ。


「うーん、考えても分からないよね。加奈ちゃんに直接聞いてみようかな……」


「私がどうかしたか?」


「「「?!」」」


「え、何だその驚いた顔は? もしかして私の悪口でも言っていたのか?」


「そういう訳じゃないよ。ただ、あのね、加奈。魔法杯終わってからずっと一人で修行してるじゃない? それってもしかして、何か危ないことをしてるんじゃないかなって思って……」


「ああ、なるほど。心配してくれてありがとう。だけど、そんな危ないことはしてないぞ。ほら、私は無属性魔法しか使えないだろう? つまり、私だけでは倒せない魔物っているだろう、例えばオオクチを倒すのに水属性と火属性が必要なように」


「うん」


「そこで思ったんだ、私一人の実力だとどの程度なのだろうって。だからちょっと低めの階層で練習している。瑠璃を誘っても『私の練習だから一切手を出さないで』って言うのはどうかと思ったから、瑠璃を連れて行ってないんだよ。それに……」


「それに?」


「瑠璃としても赤木君と一緒にいられるからそのほうがよかっただろう?」


「え、えーっと」


「応援してるぞ。赤木君、瑠璃を任せた。っと話は変わるが、みんな今週末暇だったりしないか? ちょっと訳あってお肉が大量に余っていてな。みんなで焼き肉パーティーでもしないかと思って」


「焼肉?! 食べたい! 赤木君、迷宮よりも焼肉を優先しちゃダメかな?」

「いいですよ。二人もそれでいいかな?」

「もちろん!」「焼肉、楽しみです!」


 部活の他のメンバーも、ほとんど全員が「参加する」といった。


「多めに見積もっても20人くらいか? なら大丈夫そう」


「そ、そんなにも肉が余ってるの?」


 暁先輩が驚いたような顔で桜葉先輩を見る。

 桜葉先輩は苦笑しながら「ああ、まあちょっとな」と言った。


「牛肉? 豚肉? 鶏肉?」


「どれでもない」


「じゃあ……馬? 羊? それともまさかの蛇?!」


「うーん、この中だと蛇に近いかな」


「「「「?!」」」」


「ああ、蛇ではないから安心してくれ。私が持っている肉は……なんとドラゴンの肉だ!!」


「「「「ど、ドラゴンーー?!」」」」



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