久しぶりの部活

 テストも無事乗り切ると、授業が午前中だけになる。つまり午後からは部活や趣味に時間を割くことができる。


 そして今日は迷宮攻略ではなく部活に行こうという話になった。魔法杯以降、アリーナへの立ち入りが禁止されていたから、かなり久しぶりの部活である。


「お久しぶりです、先輩方。神名部さんも久しぶり」


「!! やっぱり気が付かれた。さすが」


「俺の目は欺けないぞ~」


「うん。そういえばこの前、七瀬さんと宮杜さんとくっつきながら登校してるのを見た。あと、桜葉先輩から暁先輩を部屋に連れ込んでるって聞いた。今のところ大丈夫みたいだけど、これ以上増やすのは控えるべきだと思うよ」


 ちょっと桜葉先輩? この子に何を言ったんですか?! 俺、変なことは一切し てませんよ!


「いやその……。ハイキヲツケマス。そういえばクラスの子と仲良くなったんだって?」


「うん。私が作戦を言ったのを聞いてくれて。結局負けちゃったけど、先生からの評価もそこそこよかったしみんな喜んでくれた」


「よかったな」


「うん。こうなったのも、赤木君のおかげ」


「作戦を教えたことか? いやいや、お礼を言われるようなことじゃないって。それに、作戦を伝えようって思って、それを実行に移したのは他でもない神名部自身なんだから。実力だよ」


「それもそうだけど。でも、それ以前に。迷宮に取り残されてる私を見つけてくれて、私の体質……能力について気付いてくれて、人と関わる楽しさを教えてくれたのは赤木君なんだから。ありがとう」


「……。そ、そうか」


 そしてそのタイミングで暁先輩がアリーナにやってきて……。


「あれ、何の話をしてるの?」

「はい、赤木君が神名部さんを落とそうとしてるって話です!」

「ああーなるほどね」


「ちょっと七瀬さん?! そして暁先輩も何納得してるんですか?」


「だって」「赤木君だし……」


 なんてわちゃわちゃと話している間に、宮杜さんが神名部さんに近づいていってこう問うた。


「えっと……。神名部さんも、その、赤木君を囲う同盟に入ります?」


「私、確かに赤木君には感謝してるし好きだと思う。けど、これが恋なのかって聞かれたらわかんない。前まで友達もいなかったから。友情なのか思慕なのか分からない」


「……そ、そうですか」


「だから今はパスでもいい?」


「はい、大丈夫です。その、友人、他にもできてよかったですね」


「ありがと」


 えっと? 何はともあれ、一応この場は丸く収まった……のかな?



「そういえば、神名部さんはマネージャーをするって聞いたんだけど、具体的にはどういう事をするんだ?」


「マネージャーじゃなくてサポーターだよ?」


「?」


「えっとね。例えば」


 と丁度その時、桃華先輩たちが「神名部さんー! よろしく~!」といった。神名部さんは俺の手を引いて先輩方のところへと向かった。


「それじゃあ、速度減少のデバフをお願いできる?」


「はい。『遅くなれー』」


「!! 体が重い!」

「な、なるほど……こんな感じなんだ」

「マラソンを走り切った後に、もう一周走れって言われたみたい……」


「? これは……?」


「これはね」

「デバッファーの助けを借りて行う、高負荷トレーニングだ!」

「!! 言われちゃった」


 神名部さんに代わって川崎先輩(部長)がそう高らかと宣言した。


「高負荷トレーニング、ですか」


「ああ。神名部さんが加入するか迷っていると聞いたからね。確かに対人戦をメインにしているこの部活で神名部さんは活躍できないって思ってたんだけど……。授業中に『ある程度まで強くなった人はデバフを受けた状態で練習するといい』って聞いたんだよ!」


「へえー!」


「前にグループメッセージで論文を送ったんだけど……読んでないよね……」


「あーあれかあ。すみません、ちょっとあの時期、バタバタしてて」


「バタバタ? ああ、そっか、あれって確か魔法杯が終わった直後だったな。そうそう、君の活躍、リアルタイムで見てたんだよ。凄かったね!!」


「ありがとうございます」


「君の活躍を見た桜葉が『私ももっと強くならないと』って言っていたよ」


「そうなんですね、その話暁先輩からも聞きました。そういえば、その桜葉先輩は……」


「さあ? 暁に聞いてみたら?」


「そうですね」



 桃華先輩たちの高負荷トレーニングが終わった後、俺もそれを受けてみることにそた。


「まずはこれから、『能力阻害』。能力が発動しにくくなるよ」


「『バレット』『カッター』……。うーん、どうだろ? あんまり威力が減ってる感じがしないな」


「すごい! 結構強めにかけたのに。失敗した訳でも無いし……。やっぱり赤木君、何か特殊なのかも?」


「そんな事はないと思うが、褒められるのはうれしいな」


「じゃあ次。『速度減少』」


「うお! これは分かる、確かに体が重くなった!」


 もちろん物理的に重くなったわけではない。ただなんというか、走るのも歩くのも、何なら立っているのさえだるいような感じ。


「その状態で走れば体力が作って言われているよ」


「が、頑張ってみる……」



 ぜえぜえ言っている俺を見て「赤木君のそんな顔、見たことがない~!」と暁先輩に言われたから、今度は暁先輩が高負荷トレーニングをすることになった。そしたら「ひいひい」言って「さっきは笑ってゴメン……。これは本当にきついね。それとさっきの私の必死な顔、忘れて……」と謝られた。


「分かりました。忘れますね。ところで、先輩の必死な顔はテスト勉強の時にも見させてもらったのですが」


「そっちも忘れて~!!」



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