海賊のピストル
「海賊のピストルが手に入ったことだし、ちょっと41層を覗いてみようと思うんですけど、どうです?」
「うん! さっそく試してみたい!」
「私も見てみたいです」
「弓・ボウガンは見たことがあるけど、ピストルって見たことがないから、どんな感じなのか気になるね」
◆
「薄暗いね……。ちょっと怖い……」
「ライト、持ってきたほうが良かったですね……」
41~50層は洞窟エリアだ。壁についている光る水晶のおかげで真っ暗ではないが、それでも視界は不良で探索し辛い。
「スマホのライトだと心もとないし、ちゃんとしたライト買わないとねー、幾らくらいかな?」
「あ。私、昔ライト買ったから、それ使う?」
「ほんとですか? それは助かります!」
さすが先輩、既に探索グッズの類は揃えているらしい。
「けど、いつかは自分たち用のを買わないとですよね。いいメーカーとか知ってたら教えて下さい」
「うん、任せて!」
七瀬さんと暁先輩の間でなにやら話している間、俺は索敵に集中していた。魔力感知を使えば暗さとは関係なくはっきりと「視える」からな。
「向こうの角、右側から小さめのゴーストが近づいて来ます。多分七瀬さんのピストルで一撃で倒せると思います」
ゴーストは大きさがまちまちで、小さいゴーストほど弱い。小さい個体ほど保持している魔力が小さいからだといわれている。
「そう? じゃあ、早速使ってみるね! ……ごめん、使い方がわからないのだけど」
「あ、そういえば言ってなかったな。魔力を流し込んでからトリガーを引けば、魔力弾が発射されるから」
「うーん、こうかな……? よし『発射』」
バン!
発砲音とともに、銃口とゴーストの間に光の線が走った。海賊のピストルの効果「光属性付与」のおかげで、弾丸が光をまとっているからそう見えるのだ。
「おおー! きれいだな!」
「レーザーみたいですね」
「すっごーい! かっこいい!」
宮杜さんと暁先輩がうらやましそうに七瀬さんを見つめる。……俺も「ちょっと貸して?」という目線を七瀬さんに向ける。
「えっと、みんなも使ってみる?」
「「「使いたい(です)!」」」
使ってみた感想だが、発射後に強い反動に襲われたのが意外だった。本物のピストルと違って魔力を発射しているのだから反動はないと思っていたのに……。その後も射的ゲーム感覚でゴースト狩りを楽しんでその日の探索は終わった。
◆
月曜日、今日からテスト10日前だ。迷宮攻略は後回しにして、そろそろテスト勉強を優先しようと思う。ここで赤点を取ってしまえば、夏休みに追加課題を課されたり最悪の場合補習を受けないといけなくなる。そうなると迷宮攻略に割ける時間が減るから、絶対に赤点は回避したい。
まあ、俺は普段から真面目に勉強しているから大丈夫。七瀬さんと宮杜さんは俺ほどではないがしっかり復習の時間を設けているらしいし、大丈夫だと思う。となると問題は……。そう、暁先輩だ。
「という訳で暁先輩。放課後、俺の部屋に来てもらえます?」
「うん、分かった! そのまま泊まっても?」
「ダメですよ? そんなことをしようものなら、紅葉さんになんて言われるか……」
なぜか紅葉さん、俺が宮杜さんや七瀬さんと仲良くしている事を警戒しているんだよな。特に宮杜さんと仲良くしているのを警戒しているんだよなあ。なんでなんだろ? もしかして「不純な事をしたら巫女の資格がなくなる」とか? ……ってそんな事はないか。もしそうなら宮杜さんはとっくに魔法を使えなくなっているはずだ。
まああれだろう、単純に「学生の本分は勉強でしょ!」って思っているんだろう。前世の俺もそう思ってた……いやそう教育されたから、その気持ちも分かる。前世の親、どんな人だったかは思い出せないが、そういう事には厳しかった記憶がある。
今振り返れば、あの親は自分が学生時代そういう事を経験出来なかったから、俺にも恋愛禁止を強制しようとしたんじゃないかな、なんて思う。
「赤木君、どうしたの? なんだか遠い目をしてるけど……。は! もしかして私の学力を憐れんでる? いや、それを通り越して諦められてる?!」
「あ、すみません。ふと昔のことを思い出して。安心してください、先輩を平均点以上にして見せます。なんなら成績上位者にランクインしましょう」
「あはは、無理無理~、そんなのできっこないよー!」
「『この時、暁先輩は知らなかった。ここから一週間が地獄になるということを……』」
「ちょっと赤木君?! 何不穏なことを言っているのかな?」
◆
放課後、俺は自分の部屋に暁先輩を招いて勉強会を始めた。ちなみに、七瀬さんと宮杜さんも一緒だ。
「突然ですが先輩。『勉強せずにテストでいい点を取る』、こんなこと一部の天才しかできないと思ってはいませんか?」
「うん、そうだよね」
「時々いるよね、そういう人」「羨ましい限りです」
「それがですね、俺の知る限り『俺、勉強してない』と言っている人は本当は勉強しているんです。ただ『意識的には勉強していない』んです」
「「「?」」」
「例えば数学である問題を解いたとして、『ああ、この問題面白かったな。ってことはこんな問題にも応用できるな。俺なら〇〇定理と合わせてこんな応用問題を作問するかな』と暇な時間に考えているんです。お風呂に入っているとき、寝付けない時、登校中などなど」
「それって勉強してるってことじゃあ……?」
「いえ、『自称勉強せずに良い点を取る人』はこれを習慣のようにやってるんです。まるで息をしているかのように。だから、本人には勉強している自覚がないんです」
「そ、それでも十分凄い事っていうか……」
「私達には真似できないよね」
「そんな事したら、頭がヘトヘトになります」
「ええ。ですが、先ほどから言っているように『自称勉強せずに良い点を取る人』もちゃんと復習しているんですよ。一発で何もかも完璧に理解しているわけじゃないんです。つまり、僕たち凡人でも『無意識に勉強する』さえ達成できれば、天才に近づけるんですよ。そこでこんな風にします」
「あ、スマホのロック画面が歴史の年表に」
「そういえばトイレの壁一面に化学反応式を書いていたのも、そのためなんだね!」
「サブリミナル効果ってやつですね?」
「そうゆう事。他にもお風呂中は英語のCDを流す、なんて方法もあります。今日から暁先輩にはこれを実践してもらいます」
「な、なるほど」
「まずは英語から始めましょうか。教科書のCDは買ってますか? 買ってないですか、それならText to Speechを使って音声データを作ります。教科書の内容をPCに打ち込みましょう」
そして作った音声データをスマホに入れて、ご飯中、お風呂中、休み時間、その他空き時間に聞くというわけだ。
「は、はい!」
「赤木君、熱血教師って感じだね」「かっこいいです」
こうして暁先輩の成績底上げ計画が始まったのだった。
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