スケルトンの親玉

 土曜日。俺は宮杜さん、七瀬さん、暁先輩と星寮の前で待ち合わせて迷宮へ向かっていた。


「へー、40層を突破したんだ!」


「はい」

「あれ、意外と驚かないんですね?」


「いやあ、だって赤木君だし……」


 と攻略状況を説明した後、「七瀬さんが使う武器を手に入れたい」という話もした。


「なるほど、魔弓とか魔銃が欲しいんだ。となると、81~90層の『ジャングル』を目指すの? それとも、もっといいものが欲しいなら121~140層の『荒廃した世界』とか?」


「さすが先輩、よくご存じで。でも、今日狙うのは別のものですよ」


 そもそも七瀬さんが41~50層で手持ち無沙汰にならないよう、アイテムが欲しいって考えているんだ。それなのに80層に取りに行っては本末転倒もいいところだ。


「31層に行きますが、スケルトン系の魔物以外には絶対に攻撃しないでください。二人もOK?」


「? 分かったけど」

「了解だよ~」

「了解です」



 31層についた俺たちは、階層間を移動する転移魔方陣とは別方向に向かって進む。三人は戸惑っていたが、「いいからいいから」と言ってそのまま三人を案内する。


「多分このあたりのはず……。あった」


「洞窟? あ、もしかして」

「わあ、なんだか雰囲気があるね~!」

「もしかして中にお宝があったり?!」


 俺が見つけたのは小さな横穴。迷宮の中にある洞窟、いかにも何かありそうな雰囲気だよな。


「先輩はこの穴の事、知ってました?」


「うん、授業で雑学みたいな感じで教えてもらったよ」


「ほう」


 この世界の人も知っていたか。まあそうだよな、だってあからさまに何かありそうだもん。


「私が聞いた話だと、何もないって聞いたんだけど……」


「え、こんなに何かありそうなのに?!」

「そうなんですね、なんだか残念です……」


 なるほど、洞窟の事は知られているけど、その秘密については知られていないようだ。


「ちなみに、この洞窟の先には何があるって聞きました?」


「次の階層につながっているって聞いたよ。 けど、転移陣のほうが近くにあるから、こっち経由で先に進むのはメリットがないって」


「なるほどなるほど。まあまあ、今日はこの通路を使って40層を目指しますよ。何度も何度もくどいようですが、スケルトン系以外を攻撃しないようにしてくださいね」


「え、なになに。なんだかすっごく気になってきたんだけど……!」

「赤木君、何か知ってるの?」


「それは後のお楽しみってことで」



 スケルトン系以外を攻撃しない。こういう制限を付けているということは……。そう裏ボスだ。


 裏ボスにたどり着く条件は以下の三つ。

・階層間の移動を全て隠し通路を使う事。

・道中、スケルトンを100体以上倒すこと。

・道中、スケルトン系以外の魔物を攻撃しないこと。

 先人は二番目と三番目の条件を満たしていなかったから裏ボスにたどり着けなかったんだと思う。


 こうして俺たちは、道中スケルトンだけを倒しつつ、隠し通路のみを使って39層までやってきた。時計を見るともうすぐ正午である。つまり、迷宮に入ってから4時間はかかっている計算だ。やっぱり時間がかかるなあ。


 さてと、ボス戦に挑む前に一度休憩しようか。俺はリュックに入れていた紅茶とクッキーを出して三人に配った。


「いやあ面白かったね! 本当に全部隠し通路だけを通ってここまで来た! けどその分、すっごく時間がかかったね……」


 暁先輩が紅茶を飲みながらそうつぶやいた。その言葉を聞いて、宮杜さんが「普通だったらどのくらいなんですか?」と聞く。


「普通だったら2時間くらいじゃないかな? 敵ともほとんど戦わずに来たし……」


「確かに距離的には2倍くらいかかりますね。さてと、休憩が終わったらボスフロアです。気を引き締めていきますよ!」



 しばし休憩したのち、俺たちは最後の隠し通路を通り抜けた。洞窟を抜けた先で俺たちが見たのは夕方の砂浜。海が赤い太陽の光をキラキラと反射していてきれいだ。


「わあ、夕方だ!」

「き、綺麗です……!」


「きれいね~! ってこれはどういう事?! ここはボスフロアじゃないの?」


「あ、確かに。昨日来たときは普通に青空が広がっていたような……」

「迷宮の中の太陽って動かないはずですよね……?」


 暁先輩が真っ先に違和感に気づき、遅れて七瀬さんと宮杜さんもこの場所の異常性に気が付いた。

 三人が「どうなってるの?」という目線を俺に向ける。


「ここは裏ボスフィールドです」


「「「?!」」」


「暁先輩、レアドロップ率上昇のアクセサリーを人数分持ってきて下さったんですよね? ありがとうございます、早速使いましょう」


「う、うん……。え、それよりも裏ボスって何?!」


「裏ボスは裏ボスです。普通のボス戦と違って、ボス部屋の概念がないのでご注意を。あ、ここには人がいないから、本気で戦えますね。『エリアヒール』からの『花火』!」


 三人に回復魔法をかけた後、俺は上空向かって火魔法を放った。ぱあんという音とともに、きらびやかな光が放たれる。


「すご! 赤木君、回復魔法も使えたんだ!」

「信じられないです……」


 そういえば七瀬さんと宮杜さんは俺が回復魔法を使っているのを見たことがなかったな。暁先輩には例の事件の時にヒールをかけたことがあるから驚いていないけど。


「っと、ボスのお出ましだ!」



 カタカタカタ!


 カタカタカタ!



「な、なんですかあれ……。大きくって豪華な服を着たスケルトン?」

「豪華っていうよりも……派手?」


「な、なんだか海賊のボスみたいな見た目ね」


 俺たちの前に現れたスケルトンは不思議な見た目をしていた。

 他のスケルトンの二倍くらいの大きさ。他のスケルトンと違って豪華な服を着ている。


「暁先輩、ご明察。そう奴はスケルトンの親玉……『キャプテンスケルトン』です!」



 俺の声に応えるかのように、キャプテンスケルトンが手に持っている鞭をヒュン!と振るい、地面に叩きつけた。





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