七瀬さんの武器

 なんともあっけなく40層ボス「ソードマンスケルトン」を倒してしまった俺達。若干消化不良感を覚えながらもその日は寮に帰った。

 そして夜、俺たちは明日の方針を話しあっていた。


「明日は50層を目指すの?」


「実力的には目指せる。けど、問題もあって……。41~50層のモンスターってゴーストっぽい魔物だろ? となると、今のままだと七瀬さんが戦えないんだよな」


「ゴーストに物理攻撃は効きにくいもんね……。避けタンクに徹する?」


「攻撃できないと、ヘイトを集めるのも難しいぞ?」


「あー確かに」


 タンク向けの「ヘイトを集めるアイテム」を持っているならともかく、そうでないなら攻撃できない七瀬さんがヘイトを集めるのは困難だ。


「変なタイミングで私にヘイトが移るのは避けたいですよね」


「そういう事」

「なるほどね~。それならやっぱり魔弓とか買おうかな……」


「ひとまずどんなものがあるのか調べてみようぜ。あまりに高いようなら諦めてもいいんだし」


 なお武器の購入をあきらめた場合は俺がタンクを引き受ける事になるかな。そして七瀬さんは後ろで見学になる。

 フォルテメイア学生向けの通販サイトを開いて安くてよさげなアイテムが売っていないか調べる。


「……これは想像以上だな」


 かなり弱い武器でも50万とかするぞ。こんなの買う奴いるのか……?


「これ、いいですね。魔力変換効率30%ってなかなかじゃないです?」


 魔力変換効率とは「込めた魔力の何%の攻撃力を出せるか」の指標だ。例えば30%の場合、100魔力を消費しても30の攻撃しかできない。

 ちなみにだが、500階層以降のボスから落ちるSRドロップだと魔力変換効率が100%を超えてくる。事前に充電、ではなく充魔力しておく必要があるけどな。


「いや、30%で50万はちょっと高くないか?」


「ですが、30%以上の武器となれば、値段が跳ね上がりますよ?」


 宮杜さんが画面を指さす。えっと、魔力変換効率40%武器が100万円?!

 想像以上の値段だ……。


「効率が上がるにつれて、値段は指数関数的に高くなるみたいね。そうね、じゃあこの30%の奴を買おうかな……?」


「待った待った。早まるな、早まるでない」


 今にも通販サイトの「カートに入れる」ボタンを押そうとしている七瀬さんに待ったをかける。


「でも、もたもたしてると在庫がなくなっちゃうよ?」

「在庫、残り2個みたいですし……」


「大丈夫、それよりいい武器を手に入れるあてがあるから。少し時間はかかるけど、それでよければ」


「待つのはいいけど……。あ、もちろんお金は私が出すから。いくらくらいになる?」


「いや、買うんじゃあないよ。詳しくは明日分かる」


「「?」」



 Trrrrr.......


 七瀬さんと宮杜さんがそれぞれの部屋に帰った後、俺の電話に着信があった。相手は暁先輩だ。


「もしもし」


『もしもし赤木君? こんばんは、夜遅くにごめんね』


「いえ、大丈夫です。えっと……」


『あ、あの。まずは魔法杯お疲れ様、メッセでも言ったけど改めて……』


「あ、はい。暁先輩もお疲れ様です。凄くかっこよかったですよ!」


『ありがとう。赤木君、ほんと凄かった。事件の元凶だった子を真っ先に助けに行ったの、本当にかっこいいなって。加奈も驚いてたよ、前に赤木君「天国にいる両親の分まで長生きします」みたいなことを言っていたから』


 あーそういえばそんなこと言ったな。正確には「僕が強くなりたい理由は、絶対に死なないようにしたいから」的なことを言ったんだっけ?


「いやあ、そんな褒められるようなことではないですよ。実を言うと『最悪俺一人でも勝てるな』って思ったから飛び出していったんですよ。けど、ほら、いろんな人の前でアレは使えないので……」


『ああ……。なるほどね。本当は「無理しちゃダメだよ、命を懸けて人助けするのはイイコトって思われがちだけど、それは間違いだよ! あなたを大切に思っている遺された人が悲しむんだから!」って言おうと思ってたんだけど……』


 あーそれはなんとも難しい問題の一つだな。「自己犠牲は美徳か」

 俺も先輩と同じで「自己犠牲なんて良くない」と思うけど、多数決を取ったらどういう結果になるんだろう? それはともかく。


「あはは、その必要はないですよ。俺はそんな立派(?)な人間じゃあないですから。でも、心配かけちゃいましたよね。すみませんでした。そしてありがとうございます」


『うん。えっと、それで。その……。あの、さっきのも言っておきたかったことなんだけど、他にも言いたいことがあって……』


「?」


『あのね、七瀬さんと宮杜さんから聞いたのだけど……。三人はこれからも同じパーティーとして活動するって。それで、今後はもっと仲良くなろうと思ってるって』


「あ、はい……」


『それで、今朝ダンジョン前で二人と手をつないで歩いてるのを見ちゃってさ』


「?! えっと、その。まだ正式に恋人という訳では……」


『うん、そのことも聞いたよ』


「そ、そうですか……」


『まだ付き合っていないんだよね?』


「はい、まだ。これからも一緒に行動しようとは思ってますけど」


『ならさ。わ、私にもまだチャンスはある……? 私も一緒のパーティーに入れてくれないかな?』


「え、ええ? いや、えっと。でも……」


『あ、七瀬さんと宮杜さんにはOKをもらってるよ』


「そ、そうなんですか? 二人が?」


『うん。「これ以上赤木君が女の子を堕としたら困るから、暁先輩も一緒にガードして欲しいです」って言われたよ』


「俺、そんなプレイボーイキャラではないはずなんですが……」


『でも現状を見る限り』


「……」


『赤木君は私の事、どう思ってる? 「同級生じゃないといや」とか思ってる? それなら私は潔く身を引くつもり』


「まさかそんな!(むしろ精神年齢的には年下ですし)、暁先輩って面倒見が良くって、美人で、甘えたくなるっていうか。でも時々ドジっ子なところも可愛くって……」


 先輩が不安そうに「身を引くつもり」なんて言ったものだから、俺は慌てて先輩を褒めちぎった。


『も、もう! 口がうまいんだから! そんなだから二人に「これ以上赤木君が女の子を堕としたら困る」なんて言われるんだよ!』


「……なんかすみません」


『それが赤木君のいいところなんだから、謝ることじゃないよ。それで、どうかな? 私をパーティーの一員にしてくれる?』


「もちろんです。先輩が一緒にいてくれたら凄く嬉しいです。けど、先輩は大丈夫なんですか? 先輩と前からパーティーを組んでいた人に、俺が恨まれたりしません?」


『うん、大丈夫だよ。前のパーティーは空中分解しちゃったから』


「えっと……」


『あ、重い話じゃないよ? ある子に彼氏ができて、また別の子は新しい武器に慣れるまで一人で練習するって言って。って感じで。あ、加奈も魔法杯の後「一人で修行したい」って言ってさ』


「なるほど、そうなんですね。重い話じゃなくてよかったです」


『それで、明日も迷宮に行くの? もしよければ、早速明日からご一緒していい?』


「はい、明日も迷宮に行く予定です。二人には俺から伝えておきます」





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