なんだかゴメン

「今の時間は……16時か。微妙だなあ」


「そろそろ帰る?」

「確かに時間的にはそろそろ切り上げてもいい頃合いですかね?」


「引き返して31層のチェックポイントから地上に戻るっていうのもよし、雑魚敵を無視してボス部屋まで行くことも可能だよなあ。二人はどう、まだ体力ある?」


「私は大丈夫だよ~。けど、ここからずっと戦い続けるのは厳しいかも……」

「私も平気です! 魔力も残ってそうですし」


「おけ。じゃあ、できるだけ戦闘を避けながら先に進もう。戦闘が避けられないケースでは、七瀬さんが魔力を温存できるよう宮杜さんと俺で対処しよう」


「なんかごめんね……」


「気にするなって。そもそも避けタンクって一番体力を使うポジションだからな、一番最初に体力が危うくなるのも当然だよ。あ、そうだ……」


 この機会に二人には俺の事を話しておこう。



「え、赤木君、隠密魔法を使えるの?!」

「属性魔法も使えるんですか?!」


「しー、声が大きい! 実はそうなんだ。今まで黙っててゴメン」


「それはいいけど……。これ、言わないほうがいいんだよね?」

「バレたら間違いなく実験動物扱いされますよね……」


「ああうん。宮杜さんが言うように、この体質って珍しいだろ? だからバレたら不味いと思って今まで黙ってたんだ。それに、光の巫女の件もあるし……」


「確かに?! 非人道的な実験もしてるって紅葉さん言ってたものね……」

「それは大変です! 絶対に言わないようにします!!」


「まあそういう訳で、ここからは隠密魔法を使いながら進もうと思う。敵が近くにいても攻撃しなかったらやり過ごせるから」


「宮杜さんが巫女って聞いて驚いたけど、今回のはそれ以上ね……」

「ほんと凄いです。赤木君が味方で本当によかったです」


「……この事を教えた以上、二人を手放す訳にはいかなくなったな。なんて」


「ちょっ! もー、赤木君ったら。うん、秘密を教えてくれてありがとね。絶対離れないし離さないからね!」

「私も、ずっと着いていきます!」


 ……自分で言うのもなんだが、俺たちはどうしてダンジョン内でイチャイチャしてるんだ?



「ところで、この秘密を他に知っている人っているの?」


「今のところ、暁先輩だけだな」


「え、暁先輩は知ってたんだ!?」

「いつからですか? あ、もしかしてゴールデンウイークの時に何かあったんですか?」


「まあうん。詳しくはまた別のタイミングで話すよ。よし、小休憩は終わり。先に進もうぜ!」



 隠密を使うと攻略が一気に楽になった。なにせ敵を全スルー出来るからな。

 本来この攻略法は推奨されていない。戦わずに進んでいると、往々にして実力に見合わない階層まで到達してしまうからな。数年前にそれ関係の事故が起こって以降、隠密は必要最小限にすべしとされている。

 だけど俺たちの場合は、既に35層以降にいる魔物と一度以上戦っているし、十分経験は積んだ。なら、少しくらい横着させてもらっても良いだろう。


 そして俺たちは1時間弱でボス部屋の前までやってきた。おや、二年生のパーティーが何組か順番待ちをしているな。


「なんやかんや、ボス戦前で順番待ちをするのって初めてだな」


「そうだね~!」

「えっと、確か10層ボスを攻略したときは少しだけ順番待ちをしませんでしたっけ?」


「そういえばそうだったかも。そっか、思い返せばあの時から俺たちってパーティーを組んでいたんだな……」


「なんだか懐かしいね~」

「そうですね、あの時からずっとお世話になりっぱなしで……。二人には感謝しかないです!」


 それから待ち時間の間、ここ二か月の思い出話に花を咲かせたのだった。



「さてと。そろそろ俺たちの番だな。ここのボスは『ソードマンスケルトン』、剣の達人だ。死してなお、その剣筋は一流といわれている」


「作戦は?」


「一番いいのは光属性魔法をぶっ放して倒すことなんだけど……。今は使えないし……」


 俺たちの後ろには別パーティーが控えているからな。俺が光魔法を使うところを見られるのは避けたい。


「初手は宮杜さんが得意の氷の弓を飛ばす攻撃を打ち込む。その後は七瀬さんと俺が接近戦を挑もう」


「オッケーだよ! 体力も回復したし、今ならすごいパンチを繰り出せそう」

「分かりました。早速行きましょう!」



 カタタカタタ……



 ボス部屋に入ると、剣を持った骨が動き始めた。

 まず宮杜さんが百本の氷の弓を放った。しかし、ソードマンスケルトンは自慢の剣さばきで氷を全て叩き切った! まじか、すっご!!



 パキン!



「「「あ」」」


 剣さばきはかっこよかったものの、残念ながら剣が真っ二つに折れてしまった。思わずポカーンとする俺たち。信じられないといった表情をするソードマンスケルトン。……いやソードマンスケルトンの顔面は骨だから表情はわからないけど。


「あのー。うん。なんだかゴメンな」


 何とも言えない申し訳なさを抱いた俺は、謝りながらソードマンスケルトンに接近、その横っ腹に蹴りを入れた。

 吹き飛ばされるソードマンスケルトン。着地地点には七瀬さんがいた。


「なんだかゴメンさない」


 七瀬さんも一言謝ってからガツンと頭蓋骨を叩いた。

 あ、ソードマンスケルトンが光の粒子になって消えていく。もう終わったみたいだ。




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