なんだかゴメン
「今の時間は……16時か。微妙だなあ」
「そろそろ帰る?」
「確かに時間的にはそろそろ切り上げてもいい頃合いですかね?」
「引き返して31層のチェックポイントから地上に戻るっていうのもよし、雑魚敵を無視してボス部屋まで行くことも可能だよなあ。二人はどう、まだ体力ある?」
「私は大丈夫だよ~。けど、ここからずっと戦い続けるのは厳しいかも……」
「私も平気です! 魔力も残ってそうですし」
「おけ。じゃあ、できるだけ戦闘を避けながら先に進もう。戦闘が避けられないケースでは、七瀬さんが魔力を温存できるよう宮杜さんと俺で対処しよう」
「なんかごめんね……」
「気にするなって。そもそも避けタンクって一番体力を使うポジションだからな、一番最初に体力が危うくなるのも当然だよ。あ、そうだ……」
この機会に二人には俺の事を話しておこう。
◆
「え、赤木君、隠密魔法を使えるの?!」
「属性魔法も使えるんですか?!」
「しー、声が大きい! 実はそうなんだ。今まで黙っててゴメン」
「それはいいけど……。これ、言わないほうがいいんだよね?」
「バレたら間違いなく実験動物扱いされますよね……」
「ああうん。宮杜さんが言うように、この体質って珍しいだろ? だからバレたら不味いと思って今まで黙ってたんだ。それに、光の巫女の件もあるし……」
「確かに?! 非人道的な実験もしてるって紅葉さん言ってたものね……」
「それは大変です! 絶対に言わないようにします!!」
「まあそういう訳で、ここからは隠密魔法を使いながら進もうと思う。敵が近くにいても攻撃しなかったらやり過ごせるから」
「宮杜さんが巫女って聞いて驚いたけど、今回のはそれ以上ね……」
「ほんと凄いです。赤木君が味方で本当によかったです」
「……この事を教えた以上、二人を手放す訳にはいかなくなったな。なんて」
「ちょっ! もー、赤木君ったら。うん、秘密を教えてくれてありがとね。絶対離れないし離さないからね!」
「私も、ずっと着いていきます!」
……自分で言うのもなんだが、俺たちはどうしてダンジョン内でイチャイチャしてるんだ?
「ところで、この秘密を他に知っている人っているの?」
「今のところ、暁先輩だけだな」
「え、暁先輩は知ってたんだ!?」
「いつからですか? あ、もしかしてゴールデンウイークの時に何かあったんですか?」
「まあうん。詳しくはまた別のタイミングで話すよ。よし、小休憩は終わり。先に進もうぜ!」
◆
隠密を使うと攻略が一気に楽になった。なにせ敵を全スルー出来るからな。
本来この攻略法は推奨されていない。戦わずに進んでいると、往々にして実力に見合わない階層まで到達してしまうからな。数年前にそれ関係の事故が起こって以降、隠密は必要最小限にすべしとされている。
だけど俺たちの場合は、既に35層以降にいる魔物と一度以上戦っているし、十分経験は積んだ。なら、少しくらい横着させてもらっても良いだろう。
そして俺たちは1時間弱でボス部屋の前までやってきた。おや、二年生のパーティーが何組か順番待ちをしているな。
「なんやかんや、ボス戦前で順番待ちをするのって初めてだな」
「そうだね~!」
「えっと、確か10層ボスを攻略したときは少しだけ順番待ちをしませんでしたっけ?」
「そういえばそうだったかも。そっか、思い返せばあの時から俺たちってパーティーを組んでいたんだな……」
「なんだか懐かしいね~」
「そうですね、あの時からずっとお世話になりっぱなしで……。二人には感謝しかないです!」
それから待ち時間の間、ここ二か月の思い出話に花を咲かせたのだった。
「さてと。そろそろ俺たちの番だな。ここのボスは『ソードマンスケルトン』、剣の達人だ。死してなお、その剣筋は一流といわれている」
「作戦は?」
「一番いいのは光属性魔法をぶっ放して倒すことなんだけど……。今は使えないし……」
俺たちの後ろには別パーティーが控えているからな。俺が光魔法を使うところを見られるのは避けたい。
「初手は宮杜さんが得意の氷の弓を飛ばす攻撃を打ち込む。その後は七瀬さんと俺が接近戦を挑もう」
「オッケーだよ! 体力も回復したし、今ならすごいパンチを繰り出せそう」
「分かりました。早速行きましょう!」
カタタカタタ……
ボス部屋に入ると、剣を持った骨が動き始めた。
まず宮杜さんが百本の氷の弓を放った。しかし、ソードマンスケルトンは自慢の剣さばきで氷を全て叩き切った! まじか、すっご!!
パキン!
「「「あ」」」
剣さばきはかっこよかったものの、残念ながら剣が真っ二つに折れてしまった。思わずポカーンとする俺たち。信じられないといった表情をするソードマンスケルトン。……いやソードマンスケルトンの顔面は骨だから表情はわからないけど。
「あのー。うん。なんだかゴメンな」
何とも言えない申し訳なさを抱いた俺は、謝りながらソードマンスケルトンに接近、その横っ腹に蹴りを入れた。
吹き飛ばされるソードマンスケルトン。着地地点には七瀬さんがいた。
「なんだかゴメンさない」
七瀬さんも一言謝ってからガツンと頭蓋骨を叩いた。
あ、ソードマンスケルトンが光の粒子になって消えていく。もう終わったみたいだ。
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