海だ!

 無事30層を突破した俺達は31層、海岸フィールドにやってきた。ザザーン、ザザーンと規則正しく耳に入ってくる波の音が心地いい。


「キレー!」

「本当に綺麗ですね!」


 青く澄んだ海水。真っ白な砂浜。それでいてゴミなんかは一切落ちておらず、人もそれほどいない。いやはや、高級リゾート地と言われても納得しそうな場所である。


「さてと。綺麗な景色を堪能したい気持ちもよく分かるが、先に進むとしよう。ここにいる魔物については予習してきた?」


「うん、ばっちりだよ!」

「はい、勉強してきました!」


「おっけ。じゃあ早速実戦といこうか。あっちへ向かおう」


 俺達がまず見つけたのは横幅10メートルもある巨大なカニの魔物。その名も「オオシオマネキ」、片方のハサミだけが大きく育つ変わった形のカニである。


 ブンブン!

 大きなハサミを振るモーションが見えた。早速大技が来るぞ!


「スプラッシュスマッシュが来るな。宮杜さん、頼む!」

「はい! 『凍れ』!」


 シオマネキはその名の通り「満潮を呼ぶ」所から名付けられており、それに恥じないスキルを持っている。それがスプラッシュスマッシュ、大波を使って人を退ける魔法だ。その波に当たってしまえば大きくノックバックを喰らってしまうし、当たり所が悪ければ怪我を負う事もある。

 回避法としては無属性魔法や土魔法でシールドを張る、炎魔法で波を焼き尽くすなどあるが、最も簡単なのは水魔法で波を凍らせてしまう方法だ。


「よし、波が止まった。じゃあ反撃だ! 『ショック』」


 まず俺が無属性魔法を使って凍った波をバラバラに砕く。そうしたら七瀬さんがオオシオマネキに向かって駆け出す。オオシオマネキはその大きなハサミで七瀬さんを挟もうとするが、身体強化と思考並列化を使える七瀬さんにとってはのろい攻撃だ。ひょいと避ける。

 俺も負けじと飛び出し、オオシオマネキのヘイトを集める。オオシオマネキからしたら小さくてすばしっこい生き物が自身の周りをビュンビュンと走り回りながら時々ちょっかいをかけてくるような感じだ。それはもう嫌がっている。

 そして俺達をとっ捕まえようとするのに気を取られている隙に、宮杜さんは何十本もの氷の弓を生成する。オオシオマネキは水属性に耐性があるんだが、宮杜さんクラスの魔法なら十分ダメージを与えられるはずだ。


「行きます、『アロー』!」


 宮杜さんの魔力が高まった事を察知した七瀬さんと俺は射線上から退避する。そして、発射。氷のやじりがオオシオマネキの体に突き刺さった。


 コポコポコポコポー!


 口から泡を吹いてオオシオマネキはその場に倒れ伏した。よしきた、俺は甲羅の隙間に魔法を突き立てて、てこの要領でパカッとその殻を開いた。そしてそこに魔法を撃ち込む。

 これがとどめになったようだ、オオシオマネキはピカッと光りドロップアイテムを残して消えた。


「ドロップアイテムは?!」


「残念、ノーマルだ」


 ノーマルドロップは「カニの甲羅」というアイテム。加工する事でプラスチックのようになるらしく、色々なところで使われているらしい。

 ちなみに、レアドロップの「大きなカニ」はゆでて食べると美味しいらしく、俺達の狙いはこれだったのだが……残念。そしてSRドロップは「カニのストラップ」というアクセサリーで、水属性耐性を上昇してくれるアイテムである。



 さて、11~19層にはビッグり、21~29層にはチャクラムホッパーがいたように、31~39層にも「邪魔な魔物」が存在する。それが「キャモン」。見た目は普通のカモメなのだが、鳴き声が「来いや、アホ」に聞こえるという性質を持っている。

 ほら、早速やってきた。



 コイヤー

   アーホー



    コイヤー

      アーホー



 そして人を見つけると、その上空で旋回し始め、上から闇属性魔法を降らせて来るといういやらしさ。当たると「呪い」の異常状態にかかり、一定期間行動に制限がかかる。


 糞を落とすんじゃなくて不運を落とすってな。ハハハ。

 ……つまんな。



「『バーン』」


 無性に腹が立った俺は無属性の魔力を練り上げ上空に向かって高速発射。三匹全てのキャモンに命中した。ふふふ、ちょっと嬉しい。


「結構遠くにいるのに、全て命中だね……!」

「凄いです、私も頑張ります!」


「宮杜さんならすぐにできるようになるさ。七瀬さんは……えっと、近いうちに遠距離攻撃用の武器を買うなりなんなりしよっか」


「うん、そうする~。……幾らくらいで買えるかな?」


 そういえば俺って相場を知らないな。ゲームでもそういった物は買えなかったんだよな。


「あ、私調べた事があります。一番安い魔力弓で20万くらいでしたよ」


「うーん、それなら買えるけど」


 なぬ、20万を「それなら買える」と言うか。ほんとに高校生か?


「マジで?」


「ほら、前にエメラルドを売った時のお金があるじゃん」


「ああー。そういえば」

「あれは驚きでしたね~。懐かしいです」


 石ウナギのドロップアイテム「石」を割った時に低確率で手に入る宝石系アイテム。その最初のドロップがエメラルドだったんだよな。

 ちなみにあの後、水晶が一回だけ出たけどそんなに高くは売れなかったな。1万位だったっけ?


「でも、しっかりしてそうな物だと100万円を超えてました……」


「それは買えないよ……。お父さんに頼めば買ってくれるかなあ……?」


「確か七瀬さんのお父さんってフォルテって言ってたよな? やっぱり結構稼いでるのか? あー、ゴメン、踏み入った事を聞いて」


「うんん、別にいいよ。だって将来、赤木君のお義父さんになるかもだしね!」


「へ?!」「え!」


「……自分で言っておいてなんだけど、今のはちょっと恥ずかしかった……。えへへ。えっと、お父さんは……」


 曰く結構稼いでるらしい。宮杜さんは「ほへー私達もそれくらい稼げるようになるんですかね~」と驚いていた。

 俺もびっくりしたよ。前世の俺の最高年収の軽く10倍以上あるじゃん。






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