迷宮攻略

岩ウナギの弱点

 魔法杯が終わった翌日、金曜日は通常授業の予定だったが例の事件があったせいで休みになっていた。せっかくの休み、有効活用させて頂こう。まずは引っ越しだな。紅葉さんに聞いたところもう外に出ても大丈夫とのことだったから、前に住んでいた部屋から星寮へ荷物を運ぶことになった。

 途中、クラスメイトから「聞いたぜ、オオクチ討伐の功績で星寮に住めることになったんだってな、羨ましいぜ」なんて言われた。なるほど、そういう事になっているのか。


 午後からは宮杜さん、七瀬さんと共に迷宮攻略をする事に。寮前で待ち合わせ、迷宮に向かおうとすると……。


「? 宮杜さん、どうかした?」


 宮杜さんに裾をギュッと掴まれた。どうかしたのだろうか?


「あ、あの……。いえ、何でもないです!! 今日の迷宮攻略、頑張ります!」


「……? あ、もしかして襲われないか不安な感じ? 大丈夫、午前中も怪しい動きをしている人はいなかったし」


 女の子が男の子の裾を掴む行動、俺はこれを知っている。そう、怖い時だ! ソースはラブコメアニメの肝試しシーンである。これもそういう事なのだろう。

 しかし安心してほしい。引っ越しの時も俺は荷物持ちという体で宮杜さんと行動を共にしていた。魔力感知で敵意や害意を持った魔力が無いか十分調べていたが、特にそういった物はなかった。


「あ、いえ。それは、大丈夫なのですが……。その……」


「あ、もしかして赤木君と手を繋ぎたいんじゃない?」


「へ?!」


 七瀬さんがびっくりするような指摘をする。

 え、そういう事なの? いやでも、まだ恋人になった訳ではないし、それに宮杜さんってこういう積極的なキャラではないって言うか……。まさか偽物?!


「あ、あのあの。すみませんー!」


 ああ、やっぱりいつもの宮杜さんだ。


「あ、謝る必要はないぞ?」

「そうだよ、赤木君、宮杜さんにくっつかれて喜んでたもんね~!」


「うそ、俺、そんな顔してた?」


「してたよー! だから私も、えい!」


 七瀬さんが反対側の腕にしがみついてきた。七瀬さんって背が低いから、なんとなく年下の女の子に慕われている感じがして、ほっこりした気分になった。

 そのままの姿勢で歩き出そうとする七瀬さんと宮杜さん。いやちょっと待ってよ。


「……え、このまま迷宮に行くのか?」


「駄目?」「ですか?」


「ダメなんてことは無いけど。あ、でも、迷宮内に入ったら普通にしような?」



 30層のボスは岩ウナギだ。既に俺は倒した事があるが、七瀬さんと宮杜さんは初見だな。


「という訳でまずは30層ボスの特徴を説明しよう。30層のボス『岩ウナギ』は石ウナギをそのまま強くしたようなボスだ。攻撃パターンも酷似してて、『地面に潜伏してからの攻撃』とか『岩の弾幕』とかを繰り出す。ただその威力は二倍くらいになっているな」


「なるほど」


「さっき伝えた作戦通りやれば、簡単に倒せるはずだ。じゃあ、行くぞ!」


 岩ウナギに普通の攻撃は本来通りにくい。岩ウナギは文字通り岩の体を持っているからな、殴っても叩いてもそう簡単には砕けない。しかし、ちょっとした工夫をするだけで、岩ウナギは簡単に倒す事が出来る。


「宮杜さん!」


「はい、『水球』!」


 まずは水球で岩ウナギを濡らす。これだけではダメージを一切与える事が出来ない。……むしろ元気になったようにも見える。あいつ、あんな姿をしているけど、一応ウナギだからな。水を与えられて喜んでいるのだろう。

 しかし、こうやって水をかける事は岩ウナギに大ダメージを与える布石になる。岩ウナギにかかった水は奴の体表にある小さな亀裂に浸透するんだ。そしてそれが意味する事は……。


「『凍れ』!」


 宮杜さんが吹雪を発生させて岩ウナギに雪をトッピングする。水が冷やされたらどうなるか。もちろん氷になるよな。そしてその過程で体積は膨張する。つまり……。


「うわあ、暴れているね……」

「こんな方法で突破できるんですね……」


「まだ序盤のボス。ちゃんと弱点が用意されているんだな」


 奴の体に染み込んだ水が凍って膨張する事で、亀裂が広がり奴の体が割れやすくなるんだ。自然界で大きな岩が粉砕される原理と同じだな。

 ちなみに、カルシウムが溶けた水を用意出来ればもっと大ダメージを与える事が出来る。カルシウム塩の結晶を亀裂の中に生み出す事で奴の体を割るんだ。今回は試せなかったけど、いつかやってみたいな。


「じゃあ、七瀬さん」


「ええ!」


「「粉砕~!」」


 七瀬さんと俺が暴れる岩ウナギに接近し、ガツンと殴りつける。

 大ダメージが入る。が、岩ウナギだってやられてばかりではない。反撃行動するべく、宮杜さんに突進した。


(今までのアワアワしているだけの自分とは違うんです。私は……)

「『氷壁』!! 『氷落とし!』」


 宮杜さんはギリギリのタイミングで氷の壁を生成、岩ウナギは硬い氷の壁に激突した。それだけで満足するのではなく、宮杜さんは巨大な氷を天から降らせて岩ウナギを追撃した。見事な動きだ!


「あ」「潜った」「逃げましたね」


 このままではまずいと思ったのだろう、岩ウナギは地面に潜ってしまった。地面の中からガブリと俺達を食い殺すつもりだろうけど、俺には見えている。それに……。


「宮杜さん、第六感を使えるようになったって言ってたけどどう? 分かる?」


「……はい。あの辺りにいるような気がします」


「正解」


 なんと宮杜さん、巫女とやらになると同時に第六感を獲得したみたいだ。これには七瀬さんもびっくりで「あれ、私、追い越されちゃった?!」と嘆いていた。

 大丈夫、七瀬さんも筋がいいからすぐに使えるようになると思う。



 それにしても巫女とか属性神とかって何なんだろうな? 本当に属性「神」なんて実在するのかなあ?

 もし神様がいるなら、この世界とゲームの関係性を教えてもらえるのだろうか?


 ま、それは追い追い考えるとして。今は岩ウナギを倒さないとな。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る