日常の一コマ、火の巫女として
◆ Side ???
「まさか水の巫女があの場に現れるとはなあ……。はあ、面倒なことになったな」
「おい、そこのお前」
「!」
「お前はフォルテか?」
「ああ、そうだが……」
「そうか。実は俺もフォルテでな。ふーん、お前は自分の能力で何を為しとげる?」
「……この世界の矛盾を晴らす、それが俺の目的だ。そういうお前は?」
「世界中を光で満たし、闇たる魔物をせん滅する、かな」
「その答えを聞けて良かったよ。それで、何の用だ?」
「ああ、そっちではオオクチが倒されたり水の巫女が出現したりと大変だったみたいだな」
「そうだよ、マジで想定外もいい所だよ。そっちは?」
「混乱がすぐに収まっちまったせいで、少々危ない場面もあったが、なんとか学生のデータを盗むことには成功したぜ」
「そうか、それならよかった」
「という訳で。ほれ、これがデータのコピーが入ったUSBだ」
「了解。バレない経路でマスターの所へ転送すればいいんだよな?」
「そういう事だ」
◆ Side 紅葉
文字通り死にかけた魔法杯は無事に終わったが、新たな問題が出てきた。行方不明だった水の巫女の出現である。まさか私のすぐ隣で巫女の覚醒が起こるとは持ってなかったけど。アリーナから出るや否や、家の者に「宮杜さんが水の巫女だ、すぐに保護するように」と告げられ時は驚きのあまり声を失ったわ。
その後、私は直ぐに宮杜さんとそのお友達を確保し、星寮へと連れてきた。そして巫女について説明し、彼女にも危険が迫る可能性がある事を告げた。
さて、続いて巫女として注意するべきことなどを説明しようと思ったタイミングで、お母様から電話がかかってきた。仕方がない、続きは後で話す事にしよう。
「はあ……」
「何を溜息なんてついているの、陽菜」
突然声をかけられて、私はびくりと肩を震わせる。見上げるとそこには私の母が居た。
「! お母様……」
「まずは調査の報告からするわね。あの指輪を作ったと話す人物を見かけた教員がいたわ」
「?!」
「その時渡された名刺によると『NGMI(ネクストジェネレーションマジックアイテムズ)株式会社』って会社が販売しているらしいわ。まあ、そんな会社、存在しなかったのだけど」
「ですよね……。そう簡単に犯人が見つかる訳ないですよね」
「一応、それらしい人物が自分の事を監視カメラに残っていたのだけど……。残念ながら特定には至っていないわ」
「なるほど。学園側はどう対応している感じですか?」
「ええ。こちら側の事情を知っている学園長をはじめとした先生方の協力もあって、学園内の安全は担保できたわ。外部の人には全員出て行ってもらったわ」
「そうですか。では、それこそ学生や教師の中に敵が紛れ込んでもいない限りは安全ですね」
「そうね。教師については身元もはっきりしているからまだマシだけど、問題は学生よね……。全員も身元が分かっている訳じゃないし」
「今後も、細心の注意を払おうと思います」
これで報告は終わり。次に来るのは考えるまでもなく……。
「それで、今日のあなたの行動ははっきり言って情けないの一言に尽きるわね」
考えるまでもなく説教よね……。
私の母は、私を生むまでは火の巫女として活躍していた人物だ。そして火の巫女が私になった今も、日本でトップクラスのフォルテとして活躍している。
「はい、すみません。オオクチは火属性、私には出来る事が無いと思ってしまって、何も考えずに逃げ出してしまいました」
「ええ、そうね。だけど、あなたならオオクチにダメージを与えられなかったとしても、ヘイトを集めて他の学生を守る事くらいはできたはずよね?」
「はい……」
「今回は赤木君がいたから良かったものの、彼が居なかったら、福田は死んで、得られる情報が減ったかもしれないわ」
「はい……」
何も言い返せない。母の言っていることは全て正論だ。
はいとしか言わない私に、冷ややかな目線を向けながら、母は私に問いかける。
「さっきから『はい』しか言ってないけど、本当に反省しているの?」
「勿論です! 今後はお母様から火の巫女を受け継いだ者として恥ずかしくない行動を心がけようと考えています」
「具体的にはどうやって?」
「……迷宮攻略などを通じて、強敵を相手にしても怯まず果敢に挑む精神を身に着けようと思います」
「そう。まあいいわ。精進するように」
「はい……」
はあ。私の母は本当に厳しい人だ。私がどれだけ頑張ろうとも、常に「まだまだ駄目だ」と言い続ける。ただ、それを私は拒絶できないし、恨めしく思うことは出来ない。何故なら、母自身もそうやって育ってきたのだから。
私はうつむいて地面を見つめる。
「……国防省のフォルテ部隊の最高司令官として、言うべきことは伝えたわ。そしてここからは。ここから先は聴かなかったことにしてほしい」
「?」
私は顔を上げて母を見た。母は私から目線を外し、窓の外を眺めながら話し始めた。
「親としては貴方がオオクチに挑まずに逃げるって選択を取ったのを見て、心の底からほっとしたわ。こんな事いうべきではないかもだけど、それでも私は『逃げてくれてありがとう』って言いたい。本当に。本当に。生きててくれてありがとう。……それじゃあ」
母からの思いがけない言葉に私がぽかんとしている間に、私の母は去って行った。
◆
意外だった。母が私の事を大切に思っているなんて。母は私を愛していないと思っていた。
私達の家系は、もっと言えば巫女の家系というのは、愛を以て子供を作る事が禁じられている。巫女はその言葉の通り「神に仕える女性」であり、未婚でないといけない。仮に誰かと結婚でもしようものなら、その瞬間巫女の資格がはく奪される。
魔法科学でもその原理は分かっていないが、一説によると「神への信仰心が薄れるから」なんて言われている。つまり、恋人ができてしまえばそのことばかり考えるようになってしまい、能力を授かった事への感謝、能力を成長させようという向上心が弱まるから、巫女の資格が無くなるという訳だ。
他にも「神が巫女以外の人間を嫌っているから」なんて説もあるが、これは眉唾物ね。
では私はどうやって生まれたのか。簡単だ、私は養子なのだ。
巫女の「家系」と言っているが、そこに血のつながりはない。だからこそ、私の母は、私を愛していないと思っていたのだ。
「……。今日は部屋で休もうかな」
それから三日が経って月曜日になった。
「あー宮杜さんに巫女としてするべきこと、してはいけない事を教えないといけないわね……。すっかり忘れてたわ……」
恥ずかしながら、母の言動に驚き過ぎたせいで私は重要なことをし忘れていた。いけないいけない。
巫女としてしなければいけない事は「能力を授かった事に感謝し、その能力を成長させようと真摯に取り組む事」ね。それから不純な行為はしてはいけないとかね。
そんな事を考えながら寮を出た私は、キャッキャと男女仲良く歩く様子を見た。男女が仲良く歩く様子は時々見かけるけど、前を歩いているのは女男女の三人組。はしたないわね。不純よ。
「……?!」
いやーな予感がして前を歩く三人をよくよく観察する。真ん中にいる男の子は赤木君? で両端にいる女の子は……七瀬さんと宮杜さん?!
「ちょっと! 赤木君!」
「びっくりした、急に大声を出すなよ! 何はともあれ、おはよ~」
「おはよう! そんな事より、それはどういう状況なのよ!」
「どういう状況って……。クラスメイトと登校?」
「そうじゃなくて! 恋人でもないのに、なにベタベタしてんのよ! 不純よ! 先生に言い付けるわよ!」
……咄嗟に「先生に言い付けるわよ!」なんて言ったけど、冷静に考えると先生に言いつけても意味が無いわね。
というか! 七瀬さんはともかく、宮杜さんはそういうことしたらダメ!!
「男女が仲良くっても、問題ないじゃない。先生に言っても、私達が怒られたりはしないわよ? もしかして、私達に嫉妬してる~?」
七瀬さんが私を煽ってきた。ちょ、変なことを言わないでよ!
ふと周囲を見ると、私が大声を出したせいで、周りの注目を集めてしまっている。そしてその事に気が付いた私はこの状況を客観的に見てみる事にした。
・クラスメイト二人と仲良く登校する赤木君
・そこに突っかかる私
・そこから導き出される結論は……
うん、どう考えてもそう見えるよね。でも、これはそんなんじゃない!
私は巫女。恋愛を禁止されている存在! 確かに一人でオオクチに立ち向かった彼に尊敬の念は抱いたけど……。違う違う、あれはあくまで強いフォルテを見て感動したからよ! 断じてそういう想いじゃない!
「な゛?! そんなんじゃないわよ! そんなんじゃないったら、そんなんじゃないわよ!」
焦ってうまく言葉が出ない。
ああもう、どうしてこうなっちゃったの?!
◆
やっとプロローグ回収できました。
いやはや、ここまで長かった……。ここまでモチベーションが続いたのも、読んで下さる人がいたからです。改めて心からの感謝を、ありがとうございます。
今後とも、本作をよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます