日常の一コマ、宮杜さんの夢
◆ Side 宮杜
魔法杯でテロが起こり、そして私が水の巫女であると知ったその日の夜。私は夢を見ました。
『起きたかい、私の宿主。いや、この場合は眠ったの方が正しいかな?』
「……? あ、あの時の!」
夢の中で目覚めると(って言い方は変ですが)、私の姿をした人物が私の顔を覗き込んでいました。
「私の第二人格さん……。いえ、もしかしなくてもあなたが水の神なのでしょうか?」
『ああ、うん。まあ、そうなるかな?』
「ま、まさか神様だったなんて……! 初めて会った時『イマジナリーフレンド?』とか思ってすみません!」
私はずざざーと土下座します。夢の空間には地面が無いので、ずざざーなんて音はなりませんでしたけど。
『ああ、いやいや。そんな敬う必要なんてないさ。人が勝手に私を神様なんて呼んでいるだけで、私は神でもなんでもないよ』
「……そうなんですか? ですが、私に力を授けた存在なんですよね?」
『ああ、まあな~。それは正しいよ。けれど神様なんて崇高な存在じゃあない。ま、君の心に入っている寄生虫みたいなもんだな!』
「寄生虫って……」
そう聞くとちょっと怖いですね。もう少しマシな例えは無かったのでしょうか?
『マシな例えって言われてもなあ。うーん』
あ、そうでした。この空間では私が頭の中で考えた事が筒抜けなんですね。ちょっと怖いですが、そう言うものだと諦めておきましょう。
『あんまり詳しくは語れないが、強いて言えば私はデーモン、日本語なら悪魔かな?』
「あ、悪魔ですか?」
それはそれで怖いのですが……。魂とか奪われたり?
『奪わない奪わない。悪い存在って意味じゃあないよ。そもそも、悪魔ってどういう存在か知ってるかい? 元々は「神様の召使い」なんだよ?』
「え、そうなんですか?」
『神話において、デーモンは神様が雑用を命じるために作った存在なんだよ。今では悪者っぽく扱われているけど、本当は悪い存在じゃあないんだぞ?』
「へえー、そうなんですね」
『ちなみに、今でもパソコン用語でデーモンは「裏で重要な処理をしているプログラム」って意味で使われているらしいぞ。縁の下の力持ちってやつだな』
「ほへー。初めて知りました。何所で知ったんですか?」
『……確かに変だな。何所で私はこの情報を知ったんだ? まあそれはともかく。私は神とは程遠い存在だよ。敬う必要はない』
「そう言われても……。ち、ちなみに、今日紅葉さんが言っていた創世神話。あれはどこまで史実なのか知っていたりしますか!」
そうです、せっかく神様(ではない?)と話せるのですから、色々聞いてみたいです!
『うーむ。あー知ってはいるが、人には言えないな』
「そうですか……」
これは教えてもらえないみたいです。残念。
『すまんな。それにしても、大変なことになっているみたいだな! 光の巫女がヤバい実験をしていて、それに狙われているなんて。いやあ、光もとんでもないことをするなあ』
「そうなんですよ! 私も暗殺されるかもしれないって聞いて、内心ビクビクです……。前回の水の巫女は殺されちゃったんですよね?」
『らしいな』
「? え、知らないんですか?」
『知らなかった。最後に私の自我が起きていたのは今から数百年前だからなあ。そこから今までは記憶がないよ』
えーそんなあ……。
『仕方ないだろ? ほら、君だって授業中にうっかり居眠りする事、あるだろ? そんな感じだよ』
「なるほど、確かに。って私、そんなに寝てないですよ!」
『いや、結構意識飛んでるぞ。古典の授業中とか』
「……確かに言われてみれば」
ごめんなさい、古典の先生。私、結構な頻度で寝てたみたいです。
『それで暗殺についてだが、そこまで心配しなくても大丈夫だと思うぞ。今の君は第六感も使えるようになっているからな、ある程度自衛できはずだ。その上、カレシ君が守ってくれるんだろ?』
「か、彼氏じゃないです!」
……まだ。
『あはは、「まだ」って
「そういえば言ってましたね」
…
……
『言い過ぎじゃないさ。ふう、そろそろ限界だ。君の意識を元に戻すぞ。おっと、最後にもう一つ。絶対に伝えないといけないことがあったよ。重要なことだ……』
「重要な事、ですか?」
『君が密かに気になっている男の子、いるだろ?』
「?!」
『赤木君といったか。彼だけは味方にするように』
「味方に、ですか?」
『ああ、そうだ。というか、付き合っちゃえ。うん。それがいい』
「つ、つき……?!」
『それじゃあね~。今晩あたり、もう一回話そうか~』
……
…
「あれは結局何だったんですか?」
『それだけ赤木君が重要な存在という事だ。理由は二つあるのだが、まず一つ目は単純に強いからだ。巫女である君や紅葉さんでも、本気を出した彼には勝てないだろうな。力の格が違う』
「なんだか凄そうですね……。流石赤木君です」
『……ま、そうだな。そして二つ目の理由は……勘だ』
「か、勘ですか?」
『ああ。私の直感が彼を求めた。それ以上でもそれ以下でもない』
「なるほど?」
『普通、私達は宿主以外の人間を好かない。けれど、彼には好感を抱いた。なんでだろうな……? 長い間、彼がバフをかけてくれていたからか?』
「そうですか」
水の神様(ではない?)さんは首を傾げている。……もしかしたら私が彼に好感を抱いたことが関係していたりするのでしょうか?
『ま、これは考えても分からないな。それにしても、今日一日で彼との関係が一気に進展したな! この調子なら結婚も近いか? うむ、応援してるぞ!!』
「け、結婚?!」
『なにを驚いているんだ? 付き合うっていう事はそういう事だろう?』
「そ、そうかもしれませんが……。でもまだピンときませんよ~」
『そんなもんか? とはいえ、そうやって手をこまねいていたら他の人に先を越されるぞ。積極的にドーンと行くんだ!』
「そ、そんなの出来ないです!」
そもそも、私のキャラに合いません……。
『キャラに合わないって……。いやまあ、その気持ちも分かるけど。でも、少しずつ変わっていかないといけないと思うぞ』
「そうでしょうか……?」
『そうだとも。ああ、そういえば言い忘れていたことがある。これから暫く、もしかしたら一生、私は君と話す事が出来ないかもしれない』
「え、ええーー?!」
もう話せないって、そんな……! どうして。
『さっきも言ったろ。私達はデーモン、裏方の処理を行う存在だ。こうしてヒトと直接話すのは権限の範囲を超えた行動なんだ』
「そう、なんですね」
『これが最後のチャンスだ。何か聞いておきたい事とかあるか?』
「え、えーっと。いえ、特には無いです。あ、でも……」
『?』
「私、頑張ります」
能力についても、人間関係についても。私、これから変わっていこうと思います。だから……。
「だから見守っていてください」
『ふ、ふふふ。ああ、そうさせてもらう。応援してるよ、私の宿主よ』
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