友達以上

 夜、宮杜さんと七瀬さんが俺の部屋にやってきた。部屋に招き入れたはいいものの、まだ引っ越し作業を始めてすらいないからここにあるのは最低限の家具だけ。お茶を用意する事すらできない。


「スマン、何もない部屋で」


「あはは、そりゃあね」

「寮から出るなって言われてますからね……」



「それで、話したい事って?」


「は、はい! えっと、その。今後の事を色々話し合いたくって。あ、夜遅くに本当にすみません」


「気にしないで、俺も二人に話しておきたい事とかあったし」


「そ、そうですか。それで、その。……うー、七瀬さんから言ってください!」

「えー、なんで私?」

「七瀬さんが言い出しっぺじゃないですか~」

「しょうがないなあ~」


「?」


「あーじゃあ私から話すね。実はここに来る前、二人で色々話してたんだ。今後は基本的に三人一緒に行動しないとね、とか」


「そうだな。俺なら第六感もあるし、急な襲撃にも対応できるぞ」


「流石、頼りになる! 宮杜さんを守ってあげてね!」


「もちろんだ」


 まさかその事を確認する為にわざわざ?

 ……という訳ではないようだ。七瀬さんが話を続ける。


「でね。『そうやっていつも一緒にいると、色々変な噂が立っちゃうかもね~』って話になったの」


「あー、かもしれないな。まさか事情を説明するわけにもいかないし……。そうなると変な誤解が生まれるかもしれないか。それは二人も嫌だよな」


 例えば「いっつも三人で登校してるよな?」って言われたとして、なんて答える? まさか「宮杜さんを暗殺者から守るため」とは言えないし、かといってはぐらかしたら色々と勘繰られそう。


「い、いえ。嫌では、無いですけど、赤木君に迷惑がかかるかなって……」

「私も嫌ってことはないよ~」


「そ、そうか? まあ、俺も噂が立っても別に困りはしないけど……」


「それなら良かった! とはいえ、やっぱり誤解を放置したり、クラスメイトを騙したりするのって気持ちのいい物ではないじゃない?」


「まあそうだな」


 自分達にそういう噂が立つのはいいとして、それを放置してクラスメイトを騙すっていうのは気分の良い事ではないよな。


「で、誤解されない方法を考えたの」


「ほう、そんな方法が?」


「うん、すっごく単純な方法だよ。ねえ、赤木君。もし嫌じゃなかったら、私達と付き合わない? 本当に付き合ってしまえば、誤解も何もないでしょ?」


 七瀬さんはザ・名案とでも言わんばかりに胸を張ってそう宣言する。


「あーなるほど。本当に付き合ってしまえば、誤解も何もないもんな。なるほどなるほど。……って納得できるかあ! それじゃあ、本末転倒じゃないか」


「嫌だった?」

「ほら、やっぱり! 赤木君に嫌がられるって言ったじゃないですか……! ごごご、ごめんなさい! その、今のは忘れてください!」


「嫌って訳じゃないぞ?」


「嫌じゃあないですか……?」


「嫌なもんか。宮杜さんみたいな子が恋人になってくれたら嬉しい。ただ、その。状況に流されてなんとなく付き合ったりするのは不誠実って言うか……。ちゃんと生涯を共にしたい人と付き合うべきって言うか……。しかも、七瀬さん今『私達と付き合わない?』って言ったよな? 二人を恋人にするって事? それはもう、不誠実を通り越してダメだろ?」


「赤木君ならそう言うと思った」

「赤木君、誠実ですよね」


「誠実、かあ?」


「だって、普通の男子なら『やったぜ、俺リア充!』ってなると思うよ」

「お付き合いするなら結婚も見据えて、なんて言えるのは凄いと思います」


「そうかなあ」


「そうだよ。うん、やっぱり赤木君、良い人だよね。で、そんな赤木君なら、いきなり『付き合おう』って言われても困るだろうなって思ってた。だから恋人になるっていうのは無しにして、まずは付き合う事を前提にした友達でどうかな?」


「付き合う事を前提にした友達……? 友達以上、恋人未満って事か?」


「そう、それ!」

「『仲いいよな~』って言われた時に『まだ・・付き合っては無いけど』って言える関係、みたいな感じです!」


「なるほど」


 あくまで友達っていう関係を続ける訳か。

 それなら宮杜さんと七瀬さんの二人と仲良くしているのも変ではないって事だな。


「それに、こんな形で恋人になったら他の赤木君を好いている人に失礼だと思うし」

「そうですよね。抜け駆けしているみたいですし」


「他の?」


「「暁先輩とか」」


「いや、先輩とは……。うん、確かに仲いいけど」


 ゴールデンウィークにデート(?)して以降、仲良くなったんだよな。


「まあまあ。そういう訳で、今後は今まで以上に仲良くしようね!」

「よろしくお願いします!」


「お、おう! これからもよろしくな!」


「それと赤木君。最後に誤解が無いように言っておくと、私達も何も考えずに付き合おうって言ってるんじゃないよ。赤木君だから言ってるの。ね、宮杜さん?」


 頬を赤らめながら上目遣いで俺を見る七瀬さん。


「はい。私、赤木君と一緒にいると安心するんです。だからその、赤木君さえよければ生涯を共にしたいです! 状況に流されて仕方なくって訳ではないです!」


 今までに見た事が無いくらい真剣な表情でそう語る宮杜さん。


「……! 急にそんな事を言われると照れるんだが」


「えへへ、私達も恥ずかしいよ」


「えっと。『状況に流されて仕方がなく』なんて言ってゴメン。そうだよな、二人とも、しっかり考えているよな」


「うん、もちろん」

「はい」





「そういえば、赤木君も私たちに話しておきたい事があるって言っていましたよね?」


「ああ、そうだったな。もしもの時に備えて、やっぱり強くなっておかないといけないと思うんだ。だから、今後はもっと本気で迷宮攻略をしていこうと思ってるんだ」


「なるほど。というと、上級性みたいに土日や放課後も迷宮に行くって事?」

「良いと思います」


 休みを削って迷宮に潜ろうって言っているんだ、二人とも賛成してくれるか不安だったけど、二人は快諾してくれた。


「となると問題があるんだよな。神名部さんになんて説明しよう?」


 神名部さんは今回の事件とは関わっていない。果たして俺達の都合に巻き込んでいいものか……。


「あ、その事なんだけど。神名部さん、クラスの子からパーティーを組まないか誘われてるんだって」


「へ? そうなの?」


「なんでもこの前の魔法杯をきっかけにクラスの子と話せるようになったらしくて。それで、私達のパーティーを抜けてもいいのか悩んでるんだって」


「そっか、そんな事が……。俺も神名部さんの人間関係については心配してたんだけど、そっか。それならよかった」


「そうだね。あ、だけど今後も赤木君とは仲良くしたいって言っていたよ。だから、能力研究部には正式に加入するつもりみたい」


「そっか。でも、神名部さんって対人戦向けの能力じゃあないけど、どうするんだろう?」


「うん、だから対人戦に参加するんじゃなくて、マネージャーになるんだって」


「マネージャー? そっか、分かった。寂しくなるけど、いつでも会えるしな。じゃあ、そう伝えておいてくれるか?」


「了解だよ!」



「よし、じゃあ改めて今後の活動について話そうか。宮杜さんが自力で魔法を使えるようになったし、今なら30層、40層、50層も楽に攻略できるはずだ。目標は夏休みまでに60層到達としよう!」


「おお~! 大きく出たね!」


「ああ。実は60層に行きたい理由があってさ」


「51~60層って言うと……確か珍しい階層よね?」

「魔物が現れない階層、でしたっけ? 確か名前は『壊れゆく楽園』」


「そうだな。まあ、まずは30層ボスを攻略しないと。早速明日から攻略を始めよう」


「「了解(です)!」」




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