敵の狙いは
「光の巫女は……水の巫女を殺したわ」
「な!」
「なんで?!」
「……見せしめ、でしょうか?」
「そうね、見せしめの意味も多少はあると思う。けど、一番の目的は別にあるわ」
「別の目的? ……あ、なるほど」
「赤木君、分かったかしら?」
「もしかして、水の巫女を全く別の人に移そうと考えたのか? 確か巫女の資格は基本的にその子供に継承されるけど、子供がいない場合はランダムな人物が巫女になるんだよな?」
「正解よ。光の巫女は他の巫女を見つける魔道具『巫女探しの札』を持っているの。それを使って、新しく巫女に就いた人物を真っ先に見つけて確保しようと考えていたみたいね」
なるほどなあ。
「それで紅葉さんの暗殺に話が繋がるのか。火の巫女を確保したいが、紅葉家のお嬢様を拉致、篭絡することは難しい。だったらいっそ、紅葉さんを殺してしまおうと」
「そういう事」
「なるほどなあ」
「そういう事だったのね~。なんだか私達、凄く大きな事件に巻き込まれてしまったみたいだね」
「……」
「ちなみに、先代の風の巫女も暗殺されてしまったの。それで、新しく風の巫女になった女の子は既に敵の手中にあるわ。水の巫女は大丈夫だったのだけど」
「大丈夫だった? というと?」
「巫女の資格を得たとしても、すぐに巫女として覚醒する訳じゃないの。ほら、能力だって使えるようになるのは高校生以降でしょ?」
「つまり、まだ見つかっていないと」
「ええ。その間に、私達も『巫女探しの札』を入手したわ。そして今、どちらが先に巫女を見つけるかの勝負になっているの」
なんだか話がややこしくなってきたな。もう俺の頭の中は巫女って言葉がゲシュタルト崩壊してる。
「えっと、ちょっと整理させてくれ。こういう理解であっているか?」
火の巫女:紅葉さん。現在、命が狙われている。
水の巫女:先代は殺されてしまい、現在の巫女は誰なのか不明。
土の巫女:敵に寝返った。
風の巫女:先代は殺されてしまい、現在の巫女は敵側にいる。
光の巫女:元凶。マッドサイエンティスト。
「ええ、正しいわ。さて、さっきも言ったみたいに水の巫女は誰が持っているか分かっていなかった。けれど、ついさっき。本当についさっき、『巫女探しの札』に反応が出たわ」
「マジか! ……おいまさか」
「もしかして……」
そういえば、ついさっき水の魔法を使えるようになった女の子がいたよなあ……。
俺と七瀬さんは同時に宮杜さんを見た。宮杜さんは俯いている。
「ええ、そういう事よ。宮杜さんが水の巫女だったみたい」
「「「……」」」
だからわざわざ、紅葉さんは俺達に巫女の下りを丁寧に解説したのか。
◆
「あの。私は今後どうなるのでしょうか……?」
宮杜さんは不安そうな顔で紅葉さんを見る。
「まず第一に、今日明日にあなたが暗殺されるっていう心配は無いわ。元々私を守るために配置されている特殊部隊があなたの警備も並行して行う事になっているから、安心して頂戴」
「そ、そうなんですね……」
「つまり、宮杜さんは今後、黒服のSPに守られながら過ごすと?」
「授業中はどこにいるのかな? 廊下で待機しているとか?」
「いやいや、流石にSPはつけないわよ! そんな事をしたら、かえって目立つじゃない」
「それもそうか」
「そうだよね~」
「よかったです……」
「コホン。そういう訳で、宮杜さんにはこの星寮に引っ越しして貰いたいの」
「え?」「ええ?」「ええーー!!」
「この寮は他の寮と比べてはるかにセキュリティーがしっかりしているからね」
「で、でも私、全然お金持ってません!」
「お金については国が払ってくれるから心配いらないわ」
「で、ですが……」
あわあわと慌てふためく宮杜さん。どんどんと情報が入ってきて、理解が追い付いていないようだ。
「そして、宮杜さんには今後、出来る限り誰かと一緒に行動してもらう必要があるわ。集団登校ってやつね」
「は、はい。ですが、私、星寮に知り合いなんて……」
「ええ、そう言うと思ったわ。という事で、赤木君と七瀬さん。二人も星寮に泊まってもらうわ」
「「……へ?」」
「あ、二人も一緒なんですか。凄く心強いです!」
その後俺達は星寮を案内してもらった。今までいた第二寮と比べ、部屋の大きさも設備もセキュリティーもこっちの方が格段に良い。VIPな人はこんな部屋をあてがわれるのかと羨ましさを覚えると共に、今日から俺もここで住むのだと考えると何とも言えない後ろめたさを感じてしまった。
「それじゃあ、宮杜さんと七瀬さんはここ、それからこの部屋を使ってね。赤木君は男子だから別の階ね」
「分かった」
「それじゃあ、もう少し詳しい話を……。っとごめんなさい、母から電話が。『もしもし、お母様。はい。はい。分かりました、すぐに向かいます』 ごめんなさい、ちょっと用事が出来たからまた今度で。えっと、念のため今日は星寮を出ないようにして」
「了解」
「うん、分かった」
「分かりました」
◆
部屋に戻った俺は穂香とビデオ通話した。「テレビで見たよ、大丈夫だった?!」「けがはないの?!」「ホントのホントに大丈夫?」と凄く心配された。そっか、例の事件はテレビにも映ったのか。これはフォルテメイアへの入学者が減りそうだな。……まさかこれも光の巫女の狙いだったり? いや、考えないでおこう。
風呂を済ませベッドにぐでーと寝転びながら、俺は今日の事を振り返っていた。
ゲームでは二年目に起こる『魔法杯襲撃』事件が今年起こって。その過程で宮杜さんが魔法を使えるようになった。そして、紅葉さんから神話と巫女について聞いて。宮杜さんが水の巫女と知って。
ゲームではマッドサイエンティストとその仲間を倒せば終了、はいハッピーエンドって流れだった。いや、詳しく話すともう少し複雑だけど。
けどリアルの事情は思っているよりも遥かに複雑だ。この世界で俺は無事ハッピーエンドを迎える事が出来るのだろうか? その為には何をすればいい?
「やっぱり力が必要だよな。皆を守れるだけの力が」
明日からはよりいっそう真剣に迷宮攻略に励もう。そう心に誓った。
そんな事を考えているとき、突然呼び鈴が鳴った。もう夜だぞ、誰だろう?
「あれ、宮杜さん。それに七瀬さん」
『ちょっと話したいことがあるんですが……。忙しいですか?』
「いや、大丈夫だぞ。今開ける」
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