俺の知らない世界にて
えー少し状況を整理しよう。
紅葉さんは国のお偉いさんと関わりがあり、そっち経由で今回の騒動が事故ではなく事件であると知ったと。そして、今回の騒動を収めた俺達には真相を知っておいてもらいたいと思ったみたいだな。
ここまでは分かる。
しかしだ。今回の騒動の目的として、紅葉さんは「彼女を殺害する為」と言った。いや、どういうことだよ。
「殺害? 身代金の要求とかではなく?」
七瀬さんがコテンと首を傾げながらそう尋ねた。
「ええ。殺害ね。その理由を説明する前にこの書面にサインして下さる? 面倒だけど決まりなの」
書面を読むと「今日ここで知り得たありとあらゆる情報を必ず口外しません」というような事が書かれていた。元社会人として、怪しい文言が無いか十分に確認したが変な事は書かれていない。
「そんなにヤバい情報なのか?」
「ええ、そうね。あなた達に言っても大丈夫かどうか確かめるために、独自の情報網であなた達の実家や家族関係を精査する必要があるくらいには、機密の情報よ」
「え、そんなことしたのか? この短時間で?」
「もちろん。そのくらい重要なことなのよ」
「やっば……」
結局俺達は、秘密保持にサインした上で紅葉さんの話を聞くことにした。取りあえず聞いてみないと何も分からないし。
◆
コホンと一息ついてから紅葉さんは話し始めた。
「あなた達は“Origin of Forte”日本語だと『フォルテの起源』っていう神話について知っているかしら?」
「初耳だな」
「どこかで聞いたことがあるような……」
「あ、私知っています。創造神と五人の神が人類に能力を授けたって話ですよね?」
「
宮杜さんの言うとおりよ。だけど二人は知らないみたいだし、詳しく話すわね。
神話“Origin of Forte”によると、今から何千年も前は魔物も能力も存在しない世界だったそうなの。人類は生態系の頂点に立って人類は栄華を極めた。
その世界では、ロボットがほぼ全ての労働を担っていて、人類は働かなくても暮らしていけるようになった。神話では当時の事を『ユートピア』と呼んでいるわ。
理想郷とも思える社会だけど、困った事態が起こったわ。それが『結婚率の低下』。理想郷では人間は助け合わなくても生きていけるわ。一人でも生きていける社会で、人間は他者との関わりを拒絶し始めたの。その結果、結婚する人はほとんど居なくなった。
その結果、人口は急速に減り始めた。それはもう、急速に。こうして人類は一度滅びを迎えた。神話ではこれを『不幸の無い大量絶滅』と表現しているわ。
この話は“Origin of Forte”だけじゃなくて、例えば日本の神話『そして人類は消えた』にも登場する設定なの。それどころか、世界中の神話に登場しているわ。この事から、これは神話ではなく史実なのではって言われているわ。
」
「へえー」
「引きこもりが増えて、人類が絶滅かあ。ちょっと想像できないね~」
「史実だとしたら、当時の遺跡が残っていたりしそうですけど……」
「
これが物語なのか、史実なのか、あるいは比喩表現なのかは学者によって今も激しく議論されているわ。興味があれば調べてみると面白いわよ。
それで、ここからが本題なのだけど。“Origin of Forte”によると、この状況を危惧した『創造と破壊の神』が人類復活の為に策を講じる事にした。創造と破壊の神は地球の文明を消し去ったの。そして、人類の敵となり得る存在『魔物』を生み出したわ。
同時に五人の属性神が自分の力を人類に分け与えたわ。火の神、水の神、土、風、光の五属性ね。これがフォルテって訳ね。あ、ちなみに無属性とかテイムとかの魔法は創造神から授かった力だそうよ。
その後、フォルテを中心に社会が形成され始め、そして人類は復活した……という訳ね。
」
「マジか、そんな設定が……」
「神様かあ。でも私、神様とか信じてないけど、フォルテになってるよ?」
「属性神……」
「
とはいえ、この話を史実と信じている学者はいないわ。七瀬さんが言うように、無神論者でも能力者になる事があるからね。
もし魔法科学の学会でこの話を『これはきっと史実だ』なんて言おうものなら『馬鹿じゃないの?』と言われるでしょうね。
そういう訳で、さっきの創造神とか属性神の下りは、何かの比喩表現であるというのが定説よ。
……表向きには、ね。
」
「「表向きには?」」
俺と七瀬さんが首を傾げる。
「……」
宮杜さんは黙って考え込んでいる。
「
ここから先の話は秘密保持の対象だから、口外しないように。
実は属性神から直々に力を授かった人とその家系に関する記録が史実として残っているの。彼らは絶大な力を手に入れて、世界の守護者として活躍する事になる。
神は、いえ『ある種の超越存在』は実在するわ。確実に。
ただ、これを公言しようものなら、既存の宗教と対立する可能性がある。だからこの事は関係者の間では秘密とされているの。
さて、そういう人は『○○の巫女』と呼ばれているの。火の巫女、水の巫女、土の巫女、みたいに。各属性にそれぞれ一人の巫女が存在する。
巫女は代々子供に継承されていくのだけど、もしも子供を産まずに死亡した場合は無作為にある一人の女性が巫女に選ばれるわ。
」
「何その……ファンタジーな設定」
こんな設定、ゲームではこれっぽっちも描かれていなかった。この世界は俺の知るゲーム世界とは違うのだと改めて実感する。
「ってもしかして! もしかして、今その話をしたって事は……」
「
ええそうよ。私は『火の巫女』よ。
私の祖母の祖母が火の神から巫女の資格を授かったそうで。それ以降、巫女の資格が継承され続け今の私が当代の巫女って訳。
」
「って事は、紅葉さんは火の神様と話したことがあるんですか……?」
宮杜さんが期待を込めて紅葉さんを見るも、紅葉さんは首を横に振った。
「残念ながら無いわ。祖母の祖母は会話したらしいけど、それ以降は自動で継承されているからね」
◆
「で、そんな『世界の守護者』とも言える紅葉さんの命が狙われているんだ?」
「
そのことね。えっとね、今から数十年前、光の巫女の継承者が突然『人類存続の為には、非道な事もやむを得ないじゃない』なんて言い始めたの。最初は『光の巫女がそんなこと言うなよ。闇落ちするぞ(笑)』って揶揄われていたのだけど……。その言葉は冗談では無かったみたいで。彼女はとある実験を始めた。
彼女は人工的に強力な能力者を生成できないかどうかの研究を始めたわ。フォルテを拉致して改造しようとしたり、その他非道な実験を繰り返したわ。
もちろんそんな事は許されないって事で、他の巫女や能力者、軍部なんかが彼女を逮捕しようと動き始めたのだけど……手遅れだったわ。
彼女はある能力を完成させた。『嫉妬』と呼ばれている能力よ。自身を攻撃した対象の能力を封じる力。これを手に入れた彼女は、無敵の能力者となってしまったわ。
そして今、彼女達はとある実験をしている。それが『巫女の融合』、各属性の巫女を何らかの方法で融合する事で『最強の能力者』を生み出そうとしているの。
」
「「「……」」」
巫女の下りはゲームでは無かった設定だが、「最強の能力者を生み出そうとしている」辺りはゲームと同じだな。
「
既に土の巫女が篭絡され、向こうの手に渡ってしまったわ。この状況を受け、各巫女は厳重に監視、保護される事になったわ。これ以上、敵に力を持たせるわけにはいかないからね。
そして次に狙われたのが水の巫女。初めは水の巫女を篭絡しようとしていたみたいだけど、彼女が絶対に仲間にならないと悟った光の巫女は……水の巫女を殺したわ。
」
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