星寮にて

 オオクチを倒した事で、試合終了判定になってアリーナから出られるようになった。この後行う予定だった閉会式は当然キャンセル。これからアリーナの調査が行われるそうだ。


「各自、自室に戻って休養する事。明日の授業は中止にするそうだ。それから体調に違和感を感じたなら、すぐに病院へ行くように」


 回復魔法が存在するとはいえ、それで万事解決という訳ではない。例えば今回の元凶にして一番の被害者である福田は、回復魔法で噛み千切られた腕が復活しているけど失った血が戻った訳ではない。これからフォルテメイア内にある病院で輸血を受けるそうだ。


「赤木君、お疲れ」

「お疲れ様です」


「宮杜さん、七瀬さん! さっきは聴けなかったけど、二人とも怪我はない? 大丈夫?」


「私は大丈夫!」

「私も大丈夫です! 赤木君こそ大丈夫ですか?」


「俺も平気。そういえば宮杜さん、魔法を使えるようになったんだな! おめでとう!!」


「ありがとうございます! その、色々ありまして魔法が使えるようになりました。これからは私も迷宮で活躍できます!」


 俺の補助無しで魔法を発動できるようになった以上、もう彼女に俺と組む必要は無い。けど、宮杜さんの口ぶりからして、今後も一緒にパーティーを組んでくれそうだ。よかった。


 と話していると、紅葉さんが俺達の所へやってきた。物凄く真剣な表情で。


「ねえ、三人とも。大事な話があるのだけど、この後用事は?」


「ないぞ?」

「無いよ~」

「無いですよ」


「そう、良かった。それじゃあ、着いて来て。私の寮へ向かうわ」


 ドロップアイテムの件だろうか? それともオオクチの倒し方を発見(?)した件についてか? 謝礼金とか出るのかな? だったら嬉しいな。


「分かった。第何寮なんだ?」


「星寮よ」


「「「!!」」」


 星寮。それは特別な学生の為に用意された特殊な寮だ。場所は普通の寮の西側にある。VIP向けの寮、とでも言えばいいだろうか。そこに入寮してるってことは、紅葉さんは相当なVIPという事。


「聞いて良いのか分からないが……。紅葉さんって、その、相当なお嬢様だったり?」

「星寮だもんね!」

「はわわ、失礼な態度を取ったら不敬罪で処されたりしますか……?」


「私の家についてもこの後話すわ。あと、私も一学生に過ぎないのだから、不敬罪で処されたりしないわよ。敬語じゃなくていいし、普通の学生として扱って」



「お嬢様、ご無事で何よりです」


 星寮に着くや否やメイドさんが現れた。紅葉さん、一体何者なんだ……?


「ええ、ありがとう。部屋は用意できてる?」


「はい、防音室を借りておきました」


 防音室なんてあるのか! すげー!

 ここはVIPな方がいる寮。漏れたらいけない話をする事を想定しているのだろう。


「ありがとう、それと……確定なのよね?」


「ええ。御当主様も確認したと言っています」


「そうなのね……。三人とも、付いて来て」


 え、何? 今の会話。何が確定したんだ? そう思ったのは俺だけではないようで、七瀬さんと宮杜さんも首を傾げていた。


 防音室に入ると、冷たいお茶が用意された。喉が渇いていたから助かる。

 一息ついたところで、紅葉さんが話し始めた。


「まずは私の家の事を話すわね。私の家、紅葉家は代々国防省のフォルテ部隊を取り仕切っているの」


「な、なるほど」

「強いフォルテだけで構成されているっていう、あれよね?」

「すごいです!」


 国防省のフォルテ部隊。特別強いフォルテで構成されている国の特殊部隊だ。

 その活動内容はスタンピードの対応、犯罪を犯したフォルテの逮捕などに関わるらしい。


「もしかして、そこに所属するよう勧誘しに来た、とか?」


「違うわ。三人とも優秀だし、もしかしたら卒業時に勧誘するかもだけど……。今から話す事はそれとは別よ。さて、今回の事件について学生には『アリーナにバグが起こった可能性がある。アリーナを調査しないと』だなんて説明されているけど、あれは嘘よ。おそらくこれは……テロよ」


「「?!」」


 何故。何故彼女はそれを知っている? まさかコイツ、黒幕と繋がって……。

 いや、違うか。彼女は国防省のフォルテ部隊の関係者。そっち関連で情報を入手したのだろう。


「今頃、フォルテ部隊の関係者がテロリストを探しているけど、見つかっていないわ」


「なんだか大事おおごとだな。それで、どうしてその事を俺達に言うんだ?」

「事情聴取、とか?」

「わ、私達、悪い事してないですよ!」


「いや、別に三人を疑っている訳じゃないわよ? ここに呼んだ理由は二つあるわ。まず、今回死者を出さずに済んだのは三人の協力があってこそだわ。ありがとう。そして、そんな三人には、事件の真相を知る権利があると思ったの。そして、それと同時に真相を知る必要性が出てきたわ」


「「「真相……」」」


「この事件が起きた理由、敵の目的は……」


「「「目的は……」」」


 流石最強と名高いフォルテ部隊。もう事件の真相に辿り着いたのか。

 今回の事件は黒幕がフォルテメイアの情報を盗むために行った。奴らの最終的な目的は強力な能力を有する人の勧誘(拉致)だ。その為に、フォルテメイアに所属する学生の情報を入手しようとしたのだ。


「私の殺害よ」


 …

 ……

 ………はい?



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