オオクチ討伐作戦
<前書き>
怪我を負った福田の回収役(『絶望』の冒頭部分)を矢野さんから七瀬さんに修正しました。突然の修正、大変失礼しました。
◆
オオクチは明らかに火に対する高い耐性がある。何せオオクチ自身の体が高温を発しているくらいだからな。そこに火属性攻撃を仕掛けても無効化される、そればかりか火に油を注ぐ結果となってしまう。だから、オオクチ討伐作戦に火属性魔法を使える人を参加させないというのは理にかなっている。
また、奴は水属性の攻撃を喰らうと、それを回避するような動きを見せる事がある。これを見て、「奴の弱点は水属性に違いない」と考えるのも至極真っ当だろう。
だけど。それが必ずしも正しいとは限らない。
「いいか? 大前提として、こいつの弱点は水属性ではない!」
「「「?」」」
遠くにいる三人から「コイツ何言ってんだ?」というような目線を感じる。が、そんな目線は気にせずに俺は話を続ける。
「こいつは犬みたいに『はっ! はっ!』って息遣いをしている。これっておそらく、体の熱を逃がしているんだ」
ここまで話したタイミングで、オオクチがちょっとまずい攻撃モーションを見せた。暫く回避に専念しないと不味いな。
そして20秒ほど経って、オオクチの攻撃が一時中断したタイミングで俺は続きを話す。
「そう考えると、こいつが水の攻撃を喰らう理由がわかる。あれは背中を守る為じゃない、体内を冷やすための行動だと思う!! さっきの宮杜さんの攻撃を喰らった事で予想は確信になった!!」
冷静に考えてみてくれ。もし本当にこいつの弱点が水属性なら、水属性を食べたりするだろうか? いや、しないだろう。
「それが本当なら、体内に火属性魔法を撃ち込めばいいって事~?!」
今のはたぶん七瀬さん声だな。ああ、それが正解だ。
「やってみる価値はある!!」
「じゃあ、口を開けたタイミングで私が攻撃すればいいわね?!」
今のは紅葉さんのセリフかな。そうなんだけど、それだけでは不十分だ。
「それだと、おそらく回避される。こいつの口を閉じる速度は尋常じゃない。火属性魔法を準備している間に、口を閉じられる!」
「「「……」」」
じゃあどうすんのよ、的な視線を感じる。さあ、こいつを討伐する唯一の方法を伝授するぞ。
「それを踏まえて作戦を伝える! まず宮杜さんが直径三メートルくらいの、硬い硬い氷を生成、投げつける。オオクチはそれを頬張るはずだ。頬張っている隙に火属性攻撃を撃ち込む!! これでどうだ?!」
「ちょっと待って! それって頬張っている氷を貫通して、体内に攻撃を当てるって事? 無理よ、私の実力じゃあそんな巨大な氷を貫けない!!」
うむ。そう言われるかもしれないって思った。だけど大丈夫、こいつは氷を頬張っている間は動かなくなるんだ。つまり、俺がこの場を撤退して紅葉さんにバフを駆ける事が出来るって事だ。
「大丈夫、俺がバフをかけるから!」
「それにしたって……!」
「いいからやれ! お前言ってただろ、『その程度の壁、私にとっては無いような物だわ』とかなんとか!!!」
「……。分かったわよ! やってやるわ!」
そう来なくっちゃ。
◆
火属性と水属性の魔力の高まりを感じた。溜め攻撃の準備をしているようだ。
あれ? そういえば、最初の攻撃もそうだったけど、宮杜さんが使ってるのって溜め攻撃……だよな。おかしいな、あの子、ついさっきまで自分一人じゃあほとんど魔法を使えてなかったよね? なにがあったら、こんな一気に成長するんだよ。実はあの子が主人公じゃないのか?
まずは宮杜さんの攻撃(?)が発射される。要望通り、巨大で頑丈な氷の塊だ。
それを見たオオクチは……想像通りそれに食いついた。そして、「あれ、ちょっと大きすぎた? けど美味い!」とでも言うかのようにそれをもぐもぐし始めた。
「よし、想定通り動きが止まった!」
俺はその場を離れ、三人がいる所へ向かう。全力の攻撃を繰り出そうとする紅葉さんに俺は全力でバフをかける。
<火属性・貫通属性魔法>
・火種の生成:1%
・温度の上昇:34%
・火の発射:39%
・貫通属性付与:26%
なるほど、そこがそうなっているのか。じゃあ、俺の魔力も上乗せして……。
<火属性・貫通属性魔法>
・火種の生成:1%
・温度の上昇:34% → 52%(+18%)
・火の発射:39% → 53%(14%)
・貫通属性付与:26% → 59%(+33%)
彼女の前に高温で鋭い槍が生成された。下手したら太陽よりも高温ではなかろうか?
「ふう……。『貫け』!! はあ、はあ、はあ」
よっぽど集中していたのだろう、紅葉さんは魔法を使うと同時にその場に座り込んでしまう。そしてつぶやいた。
「あなたのバフ、凄いわね……」
「そうか? そう言ってくれると、バッファーとしては嬉しい限りだね」
なんて話している間に、槍はオオクチの口の中に着弾。大きな爆発音と共に会場が光に包まれた。砂埃が舞う。
「「「「……」」」」
俺達、そして会場全体がオオクチがどうなったのか見守る中、奴は光の粒になって消えていった。
「すごい! ほんとに倒しちゃった! おめでとう!」
「よ、良かったです……!」
「本当に火属性で倒せたのね。大発見よこれは。赤木君、今回の件はあなたが……」
かつて誰も倒したことが無かった魔物を倒した事に三人は驚くと同時にほっと安心している様子だった。俺? 俺は「威力的にも十分だな」って分かっていたからな、三人程は驚いていないな。むしろ……。
「さて、何がドロップしたかな?」
ドロップアイテムに興味があった。
何か言いたげな三人からはスッと離れ、俺はさっきまでオオクチが居た場所に向かった。そこには。
「マジか、SRドロップじゃん!」
オオクチのSRドロップは『オオクチを屠った者に捧ぐ指輪』という何のひねりもない名前の指輪だ。効果は「装着者が使う火属性魔法の効果が3倍になる」という優れもの。効果が3倍っていうのは凄まじい性能で、攻撃時は攻撃力が3倍になるし、防御時には防御力が3倍になる。
「これは俺が……と言いたいけど、俺が受け取るのは不自然極まりないよな」
正直物凄くほしい。けれど、無属性しか使えない体で生活している俺がこれを受け取るのは不自然だ。
◆
「という訳で、これは紅葉さんの物だ」
「私?! 私には受け取る権利は無いわ。作戦を考えたのも、なんなら最後の攻撃が通用したのも赤木君のおかげじゃない」
「いやいや。でも火属性の効果3倍を俺が受け取っても意味が無いし……」
「え、そうなの? 凄いね!」
「うわあ、幾らになるんでしょう……」
「それは凄まじい性能ね。 ……あれ、なんで効果が分かったの?」
おっとしまった。口が滑った。
◆
その後、この指輪は紅葉さんが買い取る事になった。彼女の家は相当お金持ちのようで、ポンと数千万を俺達に出してくれた。
「いくら何でも、高すぎるだろ……」
「それは、指輪の代金に加えてオオクチ討伐方法の発見と公開に対する謝礼、その他もろもろが含まれてるから」
「そうなのか? それでも、この代金は……」
「受け取って貰わないと困るわ。信賞必罰よ」
「うーん。まあ、そこまで言うなら貰っておくか。ところで宮杜さんへは?」
「別で謝礼が支払われるわ」
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