イマジナリーフレンド?

◆ Side 宮杜


 突然、戦闘音が聞こえなくなりました。風の音もしなくなりました。

 ……世界から音が消え失せたかのような、完全な静寂を私は聴きました。


「?」


 私は目を開きます。そこは真っ暗な空間でした。目を開いたはずなのに目を開いたのか分からないほどの暗闇です。


『やあ、私の宿主』


「ひいっ!」


 突然声を掛けられ、驚きました。ただ、聴覚が声を認識したという訳ではなく、直接脳内に「声を掛けられた」という情報がインプットされたみたいな感じ。まさかテレパシー的な物でしょうか?


『テレパシーではないね。ふむ、日本人的には顔を見ながら話す方がいいのだろうか?』


 私の前に誰かの像が映し出されます。ぼんやりとした人影だったソレは徐々にくっきりした輪郭を取り、一人の人間の姿となりました。


「私?」


 それは紛れもなく私の姿。毎朝鏡で見る、私の顔です。


『日本人っていうのは顔色、目を見ながら話す方が好きなのだろう? どうだい、変なところはないかい?』


「だ、誰ですか……?」


 目の前に現れた私?は自分の姿を見ながら、明らかに私とは違う口調で話し始めました。


『誰、ねえ……。まず第一に、ここは君の思考の中だ。だから、ここで会話している間、外の世界の時間は一切進まないからそこは安心してくれたまえ』


 ……? この人が言う事が本当なら、ここは私の脳内という事でしょうか?

 という事は、目の前にいる人は私のイマジナリーフレンド……! 家族から見捨てられたショックで、とうとう私はイマジナリーフレンドと脳内で話せるようになったみたいです。


『違うよ、イマジナリーフレンドではない?!』


「思考が読まれてる?!」


『まーこれは脳内会議だしね。ここでは声に出すのと思考するのは同義だ。それはともかく、まずは自己紹介といこうか。私は……うん、簡単に言えば君の第二人格だ。ああ、君の紹介は要らないよ。宿主の事は把握しているからな』


 第二人格。逆境に耐えきれなくなって「辛い思いをしているのは私以外の私だ」と考えるようになって生まれる存在、とテレビで見た事があります。


『んー、私の場合はそういう訳じゃないのだけど。言い方を変えよう、私は君の能力だ』


「私の能力?」


『そう。君がずっとずっと憎んでいた、君の能力だよ』


「えっと、それは……。も、もしかしなくても私に復讐するおつもりですか? ごごご、ごめんなさい!」


 私は自分の能力を憎んでいました。それなのに、必要な時だけ「助けてほしい」なんて考えてしまいました。きっとそれに怒った能力さん(仮称)が私を倒しに来たのでしょう。


『倒さないぞ? いやはや、能力を自覚してから能力を必要と考えるまでこれだけブランクがあるとは思ってなかったよ』


「すみません……」


『謝る事は無いさ。あの境遇なら、自分に宿った能力を拒絶するのも納得だ。だけど、ようやく君は能力を心の底から受け入れ、能力の存在を受容した。ありがとう、私を必要としてくれて。今はそれを伝えに来た』


「そ、そんな。本当に今まですみませんでした……。えっと、それじゃあ……!」


 私は赤木君の助けを借りずに能力を使えるって事でしょうか?


『ああ、そうだ。ようやく、私が魔法を具現化できる準備が整った』


「!!」


 という事は、練習すれば私も強くなれる、かもしれません。


『強くなれるなんてものじゃない。私が宿っている君の体には膨大な魔力が溜まっている。他の人では考えられないような量の魔力が。それを有効活用できるようになれば、君は水魔法では世界一になれる』


 世界一は言い過ぎとしても、それくらい強くなれるポテンシャルがあるって事ですよね? そうなれば、パーティーに貢献できるかもしれません。


『言い過ぎじゃないさ。ふう、そろそろ限界だ。君の意識を元に戻すぞ。おっと、最後にもう一つ。絶対に伝えないといけないことがあったよ。重要なことだ……』



……

………



◆ Side 風兎


 オオクチの攻撃を避けながら、どうやって状況を打破しようかと思案していた時、突然それは起こった。すぐ近くに膨大な魔力を感知したのだ。


「あれは……?」


 逃げろと言ったはずなのに、避難していない人間が三人いた。紅葉さん、七瀬さん、そして宮杜さんだ。そして、膨大な魔力は宮杜さんから放出されている。魔法を使おうとしているのだろうか?


「?!」


 宮杜さんの魔力が決まったパターンを作り始めた。遠目でもわかる、あれは何かの魔法が発動しようとしている。

 ついさっきまで一人では魔法を使えなかった宮杜さんが、まさかこのタイミングで魔法を使えるようになった。そんな都合のいいことある?

 仲間のピンチに際して覚醒しちゃったとか? 何その主人公ムーブ、すっげー羨ましい。俺も覚醒とかしてみたい。(←何歳になっても中二心を忘れていない)


 宮杜さんは大量の氷水を生成し、オオクチに向かって飛ばした。


 Grrrr……!


 オオクチは飛んできた氷水を口を開けて飲み干した。まるで背中の炎にかからないように振舞っているように見える。

 ……実際にはそうではないと気づかないと、こいつの攻略は出来ないんだけどな。



 宮杜さんが急に魔法を使えるようになるなんて。そんな可能性、一ミリも考えてなかった。これで俺が属性魔法を使わなくても倒せそうだ。



 次の魔法を使おうとしている宮杜さんに、俺は大声で待ったをかける。


「宮杜さん、紅葉さん、七瀬さん!! 聞こえるか?!」


(聞こえています! なんですか?)

「聞こえるわ!」

「聞こえるよ~!!」


 うーん、駄目だ。宮杜さんの声は聞こえない。あの子、声小さいから……。

 隣にいた紅葉さんと七瀬さんが「聞こえる」って言ってるし、宮杜さんにも聞こえてるって考えて良い……よな?


「作戦を伝える! もしかしたらこいつの弱点が分かったかもしれない!」


 この世界では未発見?だけど、こいつオオクチには攻略法がある。今からそれを実行しようと思う。





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