嫌いだった
◆ Side 宮杜
「あなたはフォルテのようですね」
数か月前、私は自身がフォルテであると告げられました。そしてこの日を境に周囲の私を見る目が変わったのです。
「話しかけないで、フォルテがうつる」
「センセー! こいつの隣は嫌です!」
学校では教師を含めた全員から避けられ。
「あなたは居間に入るの、禁止ね」
「お前のせいで家族全員が後ろ指を指されるんだぞ、この親不孝者め」
家でも私の扱いは散々な物でした。
元から親しい友人が居たわけでもない私に、味方は一人もいませんでした。そして、その一か月後には私は半ば捨てられるようにフォルテメイアへと送り出されました。家族から「二度と顔を見せるな」と言われたのを今での鮮明に覚えています。
フォルテメイアに着いた私は、能力調査を受けました。前に並んでいた男の人は水球を発射していたのに対し、私は水滴の生成くらいしか出来ませんでした。
時は進んで、魔法実習の授業にて。相変わらず私は魔法を使いこなす事ができず、先生方を困らせてしまいました。もしこの学校でも要らない子扱いをされてしまったら、今度こそ私は居場所を失う。そう思って必死で魔法を使おうとしているのですが、全く発動しないのです。
その時、赤木君が私にバフをかけてくれました。それは不思議な感覚でした。先生方のバフはただ力を底上げされている感覚だったのですが、彼のバフは私の
それ以降、赤木君は私の補助をするようになりました。彼は無属性魔法も使えるそうなので、自分の練習もしたいでしょう。それなのに、私に付き合わせてしまって、本当に申し訳ないです。
彼は嫌な顔一つせず私にバフをかけてくれましたが、いつまでも助ける、助けられるの関係が続くとは思いません。赤木君が私を見捨てる、という意味ではなく、彼がフォルテとしてキャリアを積むにあたって、私に関わっている暇が無くなるという意味です。
どうにかして自分の能力を成長させたい。そう思った私は、クラスの中でも特に話しかけやすい女の子、七瀬さんに相談しました。すると「それなら能力研究部って所に行ってみない? ほら、研究部って言うくらいだし、詳しい人がいるかも」と提案されました。
その結果、放課後まで赤木君のお世話になる事になっては本末転倒ですよね……。ですが、練習時間が増えたのは良い事です。早く一人でも能力を使えるようになりたいです。
ある日の事です。私が能力を使えない原因を突き止めるために、アナライズと呼ばれる魔法を使える先生からアドバイスを貰いました。その先生曰く、私の中には相反する二つの能力が混在しているとかなんとか。
その指摘に私は心当たりがありました。それは、私がずっと抱いている相反する二つの感情についてです。
フォルテであることを告げられ、村八分にされて以降ずっと思っているのです、どうして私がこんな目に合うのだろうと。どうして他の誰かではなく私がフォルテになってしまったのでしょう。
中学にいた気の強い女子生徒や横暴な男子生徒ではなく。どうして私が。
ずっとずっと私は思っているのです。能力なんて欲しくなかったと。
フォルテメイアに入学した今も、その感情は消えていません。この能力の
端的に言うと。私は自分の能力が嫌いなのです。
私の中には「能力を不必要と考える気持ち」と「能力を使えるようにならないといけない」という相反する二つの感情があるのです。もしかすると、その事を言っているのでしょうか?
もしそうなら。私が能力の事を好きになれば、能力を使えるようになるかもしれません。
けれど。どうしても私は能力の事を好きになれませんでした。例えばゴールデンウィーク。みんなが実家に帰る話をするたびに私の心はズキズキと痛みました。フォルテになってしまった私には帰る家がないのですから。
自分の能力が嫌い。
自分の能力が憎い。
捨てれるなら、能力なんて捨ててしまいたい。
…
……
………
瞑っていた目を開けると、オオクチを牽制する赤木君の姿が見えました。遠目では分かりませんが、きっと限界が近づいているに違いありません。横にいる紅葉さんもソワソワしています。そして紅葉さんはぽつんと呟きました。
「はあ、私の能力が火属性じゃなかったら」
紅葉さんは無力感を感じています。助けないといけない人がいるのに、自分には出来る事が無いと。
そしてそれは私もです。助けないといけない……いえ
ずっとずっと私は能力が嫌いだった。本当に心の底から嫌いだった。
そんな私に今更「彼を助ける能力が欲しい」なんて願う権利はあるのでしょうか。いや、ないでしょう。
苦しい時の神頼みが通じるとは思いません。そう分かっていても、私は今、心の底から願います。大切な人を助けるために、私に力を下さい。
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