阿鼻叫喚
観客席にて。NGMIの関係者を名乗った人物は、依頼主からの電話に応答していた。
「もしもし?」
『おい、お前! さっき教師に話しかけられていたけど、何があったんだ?!』
「誰だって聞かれたので、NGMIの名刺を見せましたよ」
『ちっ。……あんまり目立つなって言っただろうに、なんでそんな事に。それだけだろうな?』
「いえ、ついでに私が過去に作ったマジックアイテムの自慢話を。やっぱり自分で作ったアイテムの自慢をするのって最高に楽しいです」
『おま……!』
実は、教師に「NGMIで販売している品」として紹介した物は全て彼が過去に作った事があるアイテムだ。彼の能力は通称『魔術技師』と言われており、マジックアイテムの製作に特化した能力なのだ。
「もちろん、あなた達の事は話していませんから」
『それでも……。はあ、まあいい。そろそろお願いできるか?』
「かしこまりました」
指示を受け、魔術技師の男はとある魔法を使用した。
◆
「15組、というか紅葉って奴が本当に厄介だな……」
「だなあ……。他に彼女を足止めできる人が居たらいいんだけど……」
「うぐ! それは……申し訳ない」
「ああ、いや。そんなつもりでは」
15組と一進一退の攻防を繰り広げる俺達3組。今は中央付近でにらみ合っている状態だ。一触即発という言葉が適切だろう。
――グオオオオ!
しかしその時、東側から咆哮が聞こえてきた。この声は……。
「なあ、俺の見間違いじゃあなかったら、6組がこっちに来ているような……」
「俺にもそう見える。なあ、紅葉さん! もし良かったら、一時休戦にしないか?」
俺は紅葉さんに向かって休戦の意思を伝える。
「……。ええ、分かったわ。その方が良いと思う。時間制限でも決めておく? 今から10分間は休戦、とか」
「賛成だ。という訳だ、15組と休戦するって周知してくれ」
「という訳よ! 3組とは一時休戦する! 6組に集中するわ!」
敵の敵は味方ってやつだな。
◆
オオクチを先頭に6組が乗り込んできた。リーダーと思われる男が他メンバーを制止し、何故か一人でこっちに近付いてきた。
「6組のリーダー、福田だ! 良き試合をしようではないか!」
そして大声で名乗りを上げた。
「え、こういうのって普通『ヒャッハー! 貴様ら全員俺の糧となれ~!』って言うんじゃあ……」
俺は思わずツッコんでしまう。それを隣で聴いていた紅葉さんが「いや、彼を悪役にしないであげて。気持ちは分かるけど」とコメントした。
「これってこっちも名乗らないといけないのか?」
「私は嫌よ。はしたないわ」
「えっと、じゃあ。『3組のリーダー、赤木という。こっちにいるのは15組リーダー、紅葉さんだ! えっと、よろしく?』」
「なるほど、同盟を組むか! いいだろう、2クラス纏めて俺の糧にしてやる!」
「やっぱり悪役だった?!」
「さあ、オオクチよ! あいつらを食い殺せ!! ふはははは!」
「……悪役ロールをしているのか?」
「中二病ってやつ? 高校生にもなって、恥ずかしくないのかしら」
「男は常に中二心を持っている物だから」
なんて軽口を叩きつつも、俺達はオオクチから目を離さない。さあ、どんな攻撃が来る……?
「あれ、おい! オオクチ?! 攻撃しろ! 攻撃だ!」
しかし、何故かオオクチは
「は?」
「ぎゃあああああ!」
福田の前腕は噛み砕かれ、大量に血が噴き出る。
グアアアアアア!
大声で咆哮するオオクチは、四方八方に灼熱の炎を飛ばす攻撃を放った。咄嗟にシールドを張るも、全員を守り切ることは出来ない。
「アッツー!」
「……ぎゃああああ! 痛い!!」
「燃えてる~!!!」
フィールドは阿鼻叫喚に包まれた。
◆
さて、今の状況を整理しよう。
再三述べているが、アリーナ内では人が人に攻撃しても全て無効化される。魔物が人に攻撃した場合も「テイムモンスターの攻撃はその主人の攻撃、つまり人が人に攻撃した」と判断されるので、無効化の対象だ。
しかし、今のオオクチの攻撃は無効化されなかった。火傷を負った生徒はヒーラーのお世話になっているし、福田は失血死しそうだ。
何故か。考えられる原因は一つ「オオクチのテイムが外れた」のだ。逃げられた、と言ってもいいかもしれない。テイムが外れている以上、そこにいるオオクチは普通のモンスターと変わりない。その攻撃は無効化の対象外だ。
普通こんなことは起こらない。例えば伊藤が2匹以上の魔物を同時に使うと、時として命令が通らなくなると言っていたが、あくまで「命令が伝わらない」だけ。「テイムが外れる」なんて事態にはならない。つまり今の状況は異常という事だ。
この現象を俺は知っている。ゲーム『フォルテの学園』において、二年生の時に主人公が遭遇するイベントだ。
簡単に言えば黒幕が学園を混乱に陥れるために起こしたテロである。黒幕は、「テイムを補助するアイテム」と嘘を吐いて生徒に指輪を渡す。それを生徒は信じてしまうが、指輪の本当の効果は「魔物を支配する」だ。無理矢理テイム状態にする、とも言い換えられる。
この場合、指輪が破壊されると同時にテイムが外れる。つまり、敵は指輪を破壊したのだ。
どうやって? 答えは簡単で、最初から指輪に自壊機能を搭載しておくのだ。こうすれば、アイテムの作成者は任意のタイミングで指輪を無効化する事が出来る。
このままではオオクチが学生全員を殺害しかねない。けれど、アリーナ外にいる教師には生徒を助ける術がない。どうにかして混乱を納めようと教師が奔走している隙に、黒幕は機密情報を盗むのだ。
しかし、今は1年だぞ? どうして今起こるんだ?! このイベントは2年の時に起こる物のはずだろ?!
……ふと岡部さんと話した内容が脳裏をよぎる。その時俺は思ったよな。
『この世界はゲームの世界ではない。この世界は一つの確固とした世界だ。俺の生きた世界とは独立した、一つの世界だ。』
と。
そうだよ。全てゲーム通りに進むはずがないじゃないか。むしろ、誤差はたった1年だったと言えよう。今の状況はまだ良い方なんだ。
いずれにせよ、今の状況をみんなに伝えないと!
ここまで0.1秒。
◆
「逃げろ! 下手したら死ぬぞ!! 全員、オオクチから離れろ!」
俺は身体強化を併用し、可能な限り大声で注意を呼び掛けた。
「「「「……きゃああああ!」」」」
一瞬の静寂の後、その場は阿鼻叫喚の嵐に飲み込まれた。
いったん態勢を整えて、どうにか対処を。そう思った俺も、その場から逃げ去ろうとするが、地面に伏している福田の姿が目に入った。
彼はこの騒動の原因だ。だが、だからと言って彼を悪役扱いできるだろうか? 否だ。彼はきっと、何も知らなかったに違いない。『テイムを助けるアイテム』と言われて受け取り、それを疑わなかったのだろう。
それに、ここで彼を見捨ててしまうと、犯人の情報が手に入らなくなるかもしれない。それは困る。
それ以前に。助けられるかもしれない命を見捨てる? そんな事出来ないよな。俺の愛したこの世界を血で汚すなっつーの!!
無属性魔法をオオクチ目がけて放つ。おそらくほとんどダメージを負っていないだろう。しかし、注意をこっちに向けることには成功した。そのおかげで、間一髪福田は丸呑みされなかった。
俺を敵と見なしたのか、オオクチが俺に向けて火を放つ。が、思考の並列化を使いこなせる俺からすれば、弾幕なんて幼稚園児が投げたボールみたいなものだ。しかも俺はゲームを通じてオオクチの行動パターンを熟知しているからな。余裕で避けられる。
「福田の回収成功。だけど、ここからどうしよう……」
福田は意識を失っている。到底一人で歩いていける状態ではない。
じゃあ、俺が背負ってヒーラーの下まで持っていく? 駄目だ、今オオクチのヘイトは俺に向いている。俺がこいつを引き付けておかないと、他の人に危険が及ぶ。
あれ、詰んでない?
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