待つくらいなら、来るなっての

「悪い、宮杜さん。ずっと放置してしまって」


 死に戻った俺は、拠点内で俺を待っていた宮杜さんに謝罪する。

 試合開始直後、具体的には15組に一斉攻撃する直前までは一緒に行動していたのだが、途中で宮杜さんが死に戻ってしまったんだよな。別々になってしまっては、彼女は魔法を使えない訳で、こうして俺が死に戻るまで待機してもらっていたのだ。


「いえ、そんな! 私こそ、気を使わせてしまってすみません……」


「ところで、6組がリードしてるけど、何か情報ある?」


「えっと、それについては伊藤君から報告が」



「お、伊藤。対11組部隊はどうなったんだ?」


「ああ、最初はお互い牽制してたんだけど、突然11組が撤退していったんだ。何事かと思ってみてみたら、6組のリーダーがなんかヤバい魔物を連れて11組に襲い掛かったんだ!!」


「ヤバい魔物?」


「第一回の魔物学の講座で見た、でっかくて燃えているカバみたいな魔物! どんな攻撃も無効化するんだ!」


 ふーむ。何のことを言ってるんだろう……。えーと。ああ、もしかして。


「101〜120、火山エリアに生息する『オオクチ』の事か?」


「そうそれ! 未だに倒された事が無い、無敵の魔物って噂されてたんだが、どうしよう……!」


 あー。なるほどな。オオクチはちょっと特殊な魔物だ。魔法攻撃、物理攻撃、状態異常に対して高い耐性を持っており、普通に攻撃してもほぼダメージを与えられない。それこそ、無敵という表現に相応しい魔物と言えよう。

 ただし、実はそこまで危険ではない。というのも、野生のオオクチは温厚な性格で、基本的にその場から移動しないのだ。奴の縄張りに入らない限り、向こうから襲ってくる事は無い。


「今の状況は?」


「6組の狙いは11組みたいで、今はその戦闘中。こっちには来てないみたい」


「なるほど。とは言え、いつこっちに来るか分からないな」


「そっちの話は聞いたよ。紅葉が猛威を振るってるんだろ? お前が死に戻ってきたって事は……」


「ああ。かなりの時間足止めしたんだけど、最終的には負けたよ」


「そっか……」


「けど、足止めした甲斐あって、15組とはそこそこいい勝負になってるな。ちなみに、他のメンバーは今どうしてるんだ?」


「ああ、15組を倒しに向かってるはず」


「ん、それが良いと思う。じゃあ、15組にリベンジするか」


「だな」


 そして、俺達は拠点の外へ飛び出した。





「3組に負けている……?」


 風兎をやっとのことで倒した紅葉は、得点状況を見る。6組がリードしており、3組が2位。15組は3位だ。


「ああ、なるほど」


 一瞬何事かと思ったが、その原因を知る事になる。自身から離れた場所で3組と15組が戦っていたのだ。そして、その戦いは3組の方が優勢に見える。


「私達も十分強いと思っていたけど……。3組の方が一人一人が強いのね」


 すぐさま紅葉は行動に出た。目についた3組メンバーと焼き倒す。焼き倒す。焼き倒す。それはまるで害虫を殺す農家のようだった。

 それと同時に、彼女は別部隊からの情報を聞いていた。6組を倒しに向かった部隊の情報だ。


「なるほど6組がそんな魔物を……」


 オオクチ。その魔物について彼女は知っていた。体がマグマのように熱く、火属性攻撃を仕掛けてくる厄介な魔物。敵対すれば死あるのみと言われており、「絶対に近付くな」と言われている。

 ましてや彼女が使う魔法は火属性。体表が高温の皮膚で包まれたオオクチに火の攻撃が通るはずもなく……むしろ逆効果でしかない。


「分かったわ。じゃあ、狙いは3組にしましょう。今なら勝てると思うから」


 風兎がリスポーンしていない隙に、紅葉はクラスメイトと共に3組の領地内に踏み込んだ。





 クラスメイトを連れて拠点を飛び出し、少し移動したところで。俺の魔力感知が大量の魔力を検知した。これは不味い!


「宮杜さん、防御!」


「!!!」


 咄嗟の事だったが、氷の壁を生成した宮杜さん。俺と宮杜さんの後ろにいる人はきょとんとしている。


「避け……!」


 宮杜さんを抱きかかえて俺はその場を飛びのいた。その直後、宮杜さんの張った厚い氷の壁が一瞬で砕かれ、奥にいたクラスメイト三人が一撃で戦闘不能になった。


「気付くとは流石ね。待っていたわ」


「そりゃどーも。待つくらいなら、来るなっての」


「ごめんなさいね。でも、こっちだって必死だから」


「ははは。にしても、さっきの氷壁を突き破るか。想像以上だよ」


「そりゃあ、絶対に倒すつもりだったからね。その程度の壁、私にとっては無いような物だわ」


「何そのセリフ、ちょーカッコイイ」


「まあ、その分溜の時間が必要だけどね。っと無駄話はここまで。覚悟なさい!」


 紅葉さんのその声を境に、15組が俺達3組に攻撃を始めた。当然俺達も反撃するが、ここは3組の拠点内だ。戦えば戦うほど向こうが有利になる。



「けど、やっぱり個人の力では俺達3組の方が上みたいだな。もう15組の大半が死に戻ったぞ」


「ええ、そうね。このままだと、また3組に逆転されそうね。という訳で、私はいったん退却しようかしら」


「させると思うか?」


「出来るわよ」


 この光景を少し離れた所で見ていた宮杜さんは後程、「火花が散ってました……!」と語ったとか。


 その後、俺を放置して紅葉さんは味方の援護に向かった。当然俺は後を追った。





 こうして、東半分では「6組 vs 11組」、西半分では「3組 vs 15組」という構図の戦いになった。この構図がしばらく続くも、11組が拠点内に引きこもった事で状況が動いた。6組が西に向かって来たのだ。


 このまま6組が優勝するのか、あるいは3組・15組が何か秘策を編み出すのか。




 残り時間は30分を切った。


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