真に恐れるべきは
15分程が経過した。現状、俺達は1組の領地内から少し中央に寄ったあたりの場所で戦っている。とは言え、1組の領地内である事には変わりないので、現在一番点数が低いのは1組となった。
1組:795点
2組:945点
3組:1840点
4組:1420点
残り時間は30分。まだまだ拠点への攻撃は始まらないであろう。と言うのが定石なのだが……。
◆ Side 一組 ◆
「不味いわね、とうとう点数が追い抜かれたわ」
「さっき2組がやってたみたいに、敢えて攻撃を辞めるとか?」
「そうね、それが良いかも。みんなはどう思う?」
さっきまで4位だった2組に点数を抜かれてしまった。その原因は言うまでもなく、戦いの場が動いたことである。
去年の映像では、ここまで戦地が一か所に偏っていなかった。もっと好き勝手の場所で戦っていたはず。なのに今年はなぜこうなったのか。
なお、その答えは「3組を筆頭に集団行動を原則にしていたから」である。
今までは「死に戻った → すぐに戦闘に復帰」という方針を取っていた。そりゃあ、そうしたくなる気持ちも分かる。だって負けたらリベンジしたくなるのが人間の性だから。この方針だと、どうしても一人一人バラバラに行動する事になる。
しかし、3組、そして4組は違った。大人数の部隊が整ってから出陣するように指導されていたのだ。その結果がこの状況を生んだ。
「じゃあ、そう言う方針で……。え?」
その時、点数ボードに変化があった。
◆
一方その頃。1組の男女からなる5人組が競技場の端の方に集まっていた。
「ドベになってるじゃねーか。しかも、点差が広がっていってる」
「あいつら、何してるのよ」
「まあ、あいつがリーダーしてる時点でこうなるって思ってたけど~」
「ほんと、弱い奴らで困るよな」
彼らは1組の中では強い部類に入る。それこそリーダーとサブリーダーをしている男女よりも。ではなぜ彼らがリーダーではないのかと言うと、単純にクラスメイトから嫌われて……ではなく敬遠されているからだ。その結果、リーダーを決める多数決で彼らは負けた。それにイラついていた彼ら彼女らは、リーダーの言う事は聴かず、別行動をとっていたのだ。
「ここで俺達の力を見せつけようぜ」
「ええ、そうね! 賛成よ」
そして彼らはとんでもない行動に出た。現在1位に輝くクラス、3組の拠点に攻撃を始めたのだ。
「バッカだね~。私達が攻撃してるって気が付いてないよ!」
「ほんと馬鹿だよな!」
ちなみにだが、彼らの存在は情報班を介して3組のリーダーこと風兎には伝わっており「いや、まさか……。まあ、万が一攻撃されても放置だ。あ、守素振りを見せて『な、なんて強いんだ!』とでも言おうぜ」とコメントしたという。
その結果がこれだ。
「な、お前ら誰だ……! ぎゃあー! なんて強いんだ!」
「1組か、1組ってめっちゃ強い奴がいるって噂だったよな!」
偶然死に戻った3組メンバーがこんな風におだてまくった。で、その結果。
1組:795→2635点(+1840)
2組:945点
3組:1840点
4組:1420点
こうなった。
◆
< 1組 >
「なんで、何が起こったのよ!」
「もしかしなくても、井口達の仕業じゃないか?」
「最悪! まだ落とすのは早いでしょうに!!」
< 2組 >
「お、おい! 点数が……!」
「はあ? いったい何が……」
「3組の拠点が落とされたか……」
< 4組 >
「ええ……。やってしまったわね……」
「ここからどうなるかな……」
「ええ。今の状況を一言で言うなら、3組が圧倒的に有利になったわね」
「1組ではなく? 一組が防衛に専念すれば、どうにか持ちこたえるかもですよね?」
「いいえ、無理ね。だって彼らの状況を見て。さっきまでの戦いで疲労困憊よ。防衛に専念? 無理無理」
「では、次の行動は……」
「ええ、取り敢えず1組を落としましょう。その後の方針は後で考えるわ」
3組以外のクラスは混乱に陥った。「え、もう拠点に攻め入るべきなの?」なんて考えてしまうほどに。
一方、3組は事前に情報を入手していたので「やったぜ、俺達が有利になった」と呑気に考えている。もっと言うと、次の方針まで決まっていた。
◆ 3組(風兎) ◆
「1組を落とせ~! 敵討ちだ!」
俺は叫んだ。それに反応し、3組のメンバーはそれぞれ2組に遠距離攻撃を開始した。
「俺達も落とせ!」「3組だけに取られたら終わりよ!!」
ふふふ、釣られたな。これで2組、4組が
2組、4組の視線が1組に行ったのを確認した俺は、3組を三班に分けた。A斑は2組の拠点に向かい、リスポーンした2組の無力化を行っている。B班は中央付近に向かい、こっちに向かってくる4組メンバーを拘束する斑。C班には4組の拠点を攻めてもらうつもりだ。
では1組への攻撃は? 当然そんなものは行わない。実際、最初の遠距離攻撃も見掛け倒しの威力0の攻撃だったのだ。だっておそらく、ここで4組を落とすメリットは少ないから。
あとは、この場を上手くコントロールして、1組が落とされないようにするだけ。どさくさに紛れて2組を倒したり、4組のヤバそうな攻撃を無効化したりする。
【現状】
1組:必死に防衛
2組:必死に1組を攻撃・その過程で死に戻ったメンバーはA班に無力化されている
4組:必死に1組を攻撃・その過程で死に戻ったメンバーはB班に拘束されている
俺達の暗躍により、1組の拠点は2分間落とされなかった。そして、徐々に2組、4組の人数が減っていることにどのチームも気が付いていない。
「そろそろだな」
「ですね」
俺達は残っている2組と4組を倒した。1組防衛斑との攻防に必死だった彼らは、突然背後から襲われた事に驚いた顔をしながら退場していった。
そしてその直後。それは起こった。
1組:2795点
2組:1285点
3組:2070→3920点(+1850)
4組:1850点
C斑が4組を落としたのだ。3組の点数が一気に上昇する。そして、次の瞬間。
1組:2795→6615点(+3920)
2組:1285点
3組:3820点
4組:1850点
いいね。流石は1組の誰かさん。やっぱり君ならそうするよね。
◆
井口達(1組でリーダーの指揮を無視していた人たち)は、3組が1組を落とし返すだろうと予想していた。だから……。
「いいか。3組の点数が急に上がったら、攻撃だ!」
「ええ、そうね!」
と考えていたのだ。そして彼らの性格上、それを信じて疑わなかった。
「来たわ! 1組の点数が一気に上がった!!」
「やっとか! 取り返したと思ったら、すぐさま逆転される気持ちを味わえ!」
こうして、1組は6615点を獲得したのだった。
◆
一方その頃、1組防衛斑は疲労困憊だった。しかし、突然3組が2組と4組を攻撃したおかげで、つかの間の休息が生まれて……いなかった。
「おいおいおいおい。あれなんだよ! なんか如何にもヤバい攻撃が準備されてるぞ!」
「防御、防御!」
例の溜め攻撃を準備する3組と慌てる1組。そんな彼らに迫る二人と一匹の姿が。
「あ、ごめんねー!」
1組の周りをぐるっと囲っている沼地帯。その上空を無音でスイーッと渡る矢野さんにお姫様抱っこされているのは鈴原さん。光学迷彩の使い手だ。
そして、鈴原さんのお腹の上にはオバケダコが。本日三回目のオバケダコの攻撃。とくとご覧あれ!
「きゃああー! なにこれ!」
「ネバネバしてる!」
「真っ黒!」
使ったのはネバネバ墨攻撃。前を見えなくすると同時に行動も阻害してしまう、非常に厄介な攻撃だ。これを喰らった1組は大慌て。その隙に……。
「一斉発射だ!」
風兎の合図で、10人分の魔法が杯玉に吸い込まれていった。ガキン!という鈍い音と共に、1組の杯玉は壊れる。
1組:6615点
2組:1285点
3組:3820→10435点
4組:1850点
後は3組は防衛に専念しても勝てるな。ふはははは。
まあ、油断せずに、最後まで本気でかかるけどな。
◆
井口達は驚いていた。何故か一気に3組がとんでもない点数になった事に。ほけーとしている所に、B斑がやってきた。
「ありがとよ、俺達の思い通りに動いてくれて」
「んな?!」
「どういう事よ!」
「何かずるしたな?!」
「ズルなんてできるはずないだろう。さて、君達は邪魔だから死に戻って貰おう」
「ふふふ。なんだかよく分からないけど、あんた達、むかつくわね。いいわ、全員倒してやる!」
さっきまで無双(笑)していた彼らは知らない。「ぎゃあー! なんて強いんだ!」「1組ってめっちゃ強い奴がいるって噂だったよな」がおだてるために吐いていた嘘だという事を。
結局井口は死に戻る事になった。
◆
現在残り15分。少し早いが終盤戦の開始だな。
ふと後ろを見ると、茫然自失の1組が。そんな彼らを見ながら俺は独り言ちる。
「真に恐れるべきは何とやらだな」
「そうですね。無能な味方ほど迷惑な存在はいないです」
隣にいた宮杜さんには聞こえていたみたいだな。
改めて思う、3組は一致団結できてよかったなあと。
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