2組の復活劇? そして1組ピンチ!
試合開始から15分ほどが経過し、今の得点状況はこんな感じだ。
1組:545点
2組:225点
3組:1080点
4組:685点
3組はやっぱり優秀だな! 他のクラスとかなり点数差をつけている。それと4組がかなり追いついてきたな。ちらっと見えた感じだと、1組や3組に意識が持っていかれている2組に奇襲を仕掛け、一気に点数を稼いでいた。
一方で、2組は非常に不味い状況に置かれているな。何せ戦場が2組に固定化されてしまっているせいで、2組には点数が全然入ってこない状況なんだ。さて、ここからどうなる事か。
◆ Side 2組 ◆
「おいおい、どうする?!」
「負けだ……。確実に負けだ……」
「ごめん、俺のせいだ……」
2組では敗戦ムードが漂っていた。それもそのはず、他のクラストの点数差がとんでもないことになっているからだ。
「どうするの? 私達、もう負け確?」
「いっそ、どっかの拠点を落として逆転を測る、とか……?」
15分前、ブザーと同時に勇み足で拠点を飛び出した時とはまるで違う、とぼとぼとした様子で拠点を出ていこうとする女子二人。彼女らを後ろで見ていた内気な少女、神名部しずくは思う。
(どうすればいいだろう……? こんな時、彼なら……)
部活で魔法杯の練習をした後。赤木君は魔法杯の戦略について彼女らに語ってくれた。
“魔法杯、終盤で勝つコツは意表を突く事。今回、俺達が山本チームを落とした時みたいにな。けど、中盤戦では?”
赤木君はそう問いかけると、三人の顔を一瞥し、ちょっと間をおいてから力説し始めた。
“模擬戦では20分しかなかったから「初動→終盤」で終わりだったけど、本番は60分ある訳で。一番長いのは中盤なんだ。だから、中盤の戦略は重要になる。そして、俺が思うに、中盤のコツは「戦場をコントロールする事」なんだ”
戦場をコントロールする。それはどういうことなのかと言うと……。
“例えば「自分の領地内で4チームが争っている」なんて状況になれば、どんどん点数が開いてしまう。だから、自分の領地から敵チームを追い出す必要がある。どうやって? それは……”
(でも、私がそれを伝えても。みんな、聞いてくれない)
彼女は慣れてしまっていた。シカトされることに。クラスで「その場に居ない人間」として扱われることに。それが能力の所為だったと知った後も、人に声を駆けるのが苦手なのだ。
赤木風兎に懐いているのも、自分に気が付いてくれた人間だったからなのだ。
「「はあ……」」
暗い表情で拠点を出ようとするクラスメイト。そんな彼女らを見て神名部しずくは……。
(このままだとあの二人は魔法杯が嫌いになっちゃう。赤木君が熱弁してくれた、この競技の事を。私は……私はそんなの嫌)
それは心からの想いか、あるいは声を挙げるにあたっての言い訳に過ぎないか。それは本人にも分からない事だったが、彼女は二人に声をかけた。
「あ、あの!」
「「??」」
「少し、いい……?」
◆
「「「「敢えて攻撃を辞める?」」」」
「う、うん。このまま外に出ても、点差が開く。だから、みんながここにいるメリットを減らして、戦場を移してもらう」
そう。この状態で2組が取れる方法は二つある。
一つ目は全員で態勢を整えて、一気に他クラスを倒しきる事。実現性は低い。
二つ目は敢えて休憩する事。どうせ60分間走り続けるのは不可能なのだから、どこかで休憩は必要。ならば、このタイミングで休憩を取ってしまおうという事だ。
ちなみに、風兎達三組ならばギリギリ一つ目の選択肢を強行できる。が、それでもかなりギリギリ。安定を取るなら、二つ目の選択肢を選ぶだろう
この提案に2組は暫し考えを巡らせる。
「なるほどなあ」
「悔しいが……それ以上の作戦を思いつかないな」
「今外に出ても点差が開くだけ。確かにそうよね……」
「ありがとう、えっと、
「あ、はい。反対されなくて、よかった」
名前が間違って覚えられていることを突っ込む余裕がないくらい、彼女は内心びくびくしていたのだった。
余談だが、最初に赤木に声をかけた時は「高校生では友達を作りたい」と思っていたそうな。彼女なりの高校生デビューに向けた第一歩だったのだ。だから、内心ブルブル震えていたとか無いとか。結果、そんなに会話を出来ずに途中で逃げ出したのだ。
◆ Side 風兎 ◆
「2組が拠点内に留まっているわ、何をするつもりかな?」
「一気に攻めてくる、とか?」
そんなクラスメイトの会話が聞こえたので、2組の方を見ると拠点内に大勢集まっているのが見えた。中には寝転んでいる人もいる。
「なるほど。戦場を移してもらおうっていう
もしかしたら神名部さんの提案かな? 俺が教えたやり方だし。
「なるほどね。それで、リーダー的にはどうするの? 思惑通りに動くの?」
クラスメイトが攻撃や防御をしつつも、俺の方に意識を向ける。急いで決断を下さないとだな。
「そうだなあ。ふふふ、それなら思惑以上の動きをしてやろうじゃないか」
「「「?」」」
「伊藤、矢野。4組に墨攻撃を。だが、倒さない。視界を奪ってすぐ撤収だから、オバケダコは投げないで」
「え? お、おう」「分かったわ」
オバケダコには『闇の中への誘い』の他に、普通に『墨弾幕』という墨をぺっぺと発射するだけの攻撃もある。今回はそっちを使ってもらう。
「な、近づいてきたぞ!」
「ぎゃあー! 目が~!」
ふふふ。4組は慌ててる慌ててる。いい流れだ。
そうやって無防備になった4組を攻撃……はせずに放置する。そして俺達は1組に集中攻撃を仕掛けた。
「な?! 俺達?」
「4組狙いじゃねーのかよ!」
ちょっと俺も本気モードで1組を攻撃する。すると、1組は徐々に徐々に後退していき、戦場が2組の領地内からではなく1組の領地内へと移動した。
視界を奪われていた4組が復帰すると、「あっちへ行ったぞ! 待て~」と言わんばかりに追いかけてきた。こうして戦いの場は完全に1組の領地内へと移動した。
「なるほど、こうする為に4組を倒さずに放置したのか」
「ああ。もしあそこで4組を倒していたら、次の4組の行動は『くっそ、3組に復讐だ!』ってなりかねないだろ?」
「でも、今の状況なら、『じゃあ、次のターゲットは1組か!』って思う訳か」
「そういう事。『次は1組内で戦おうぜ』って向こうに伝えるための行動だった訳だ。ちなみに、菊地ら情報部隊が働きかけてるから、ついさっき死に戻った3組メンバーも次の戦いの場が1組内って伝わっているはず」
「お前、凄いな」
「流石赤木だな!」
「賢いね!」
「そんな褒めるなよ。それに、こんな風に上手く行ってるのは、みんなが強いからだし」
しばらくして休憩を終えた2組も参戦し、1組がピンチに陥った。さあ、1組。今度は君たちがピンチだ。どうする?
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