とある日の授業中、その2
岡部さんとヒソヒソ話している間に、特殊型に分類される魔物の巣の紹介が終わってしまった。けれど、そこで紹介されていたのは俺達が日々潜っている「無限迷宮」についてだった。つまりは、俺の知っている事しか話されていなかった。
『このように、魔物の巣は様々な形態の物が存在します。そしてそのすべてに共通する性質、それが「魔物がどこからともなく湧いてくる」という事です』
魔物は繁殖活動を行わない。代わりに、どこからともなく魔物が補充される。
その証拠として、子供や幼体が居ない事が挙げられる。「あ、チャクラムホッパーの子供だ」なんてことはあり得ない。魔物は生まれたその瞬間から成熟した魔物なのだ。
『「魔物の巣からは、魔物がどこからともなく出現する」、そんな当たり前の事実は、実は魔物の巣の正体を暴く手がかりであると考えている人がいます』
VTRが始まる。えっと、これはフォルテメイアの門の映像だよな?
『その人に会いに取材班がやってきたのは、魔物の巣に関する研究の最先端、フォルテメイアです。……中略……魔法エネルギー研究所の叢雨紗月教授です』
『
叢雨紗月教授:よろしくお願いします
ナレーション:早速ですが、「魔物がどこからともなく出現する事」と「魔物の巣の正体」の関係性について伺いたいのですが。
叢雨紗月教授:はい。魔物の巣、特にフィールド型や陥没型の魔物の巣からは毎年多数の魔物が外の世界に放出されていますよね? もっとも、その多くは野生生物に襲われて死んでしまいますが。
ナレーション:そうですね。
叢雨紗月教授:また、スタンピードの時は、野生生物よりもはるかに強い魔物がうじゃうじゃと迷宮からあふれ出てきます。そして、それらが死ぬと、この世界にドロップアイテムを残します。
では問題です。仮に魔物が無から生成されるとすると、地球の重さはどうなるでしょうか?
ナレーション:ドロップアイテムの分、重くなっていくような気がしますね。
叢雨紗月教授:では逆に、魔物が土や水と言った物から未知の方法で合成されているとすると、どうなるでしょうか?
ナレーション:逆に、軽くなりそうですね。なるほど、地球の重さを調べる事で、魔物の起源が分かるという事ですね!
叢雨紗月教授:はい。正確には宇宙から降り注ぐ塵の重さや、地球から宇宙へと出ていく水素やヘリウムの重さも研鑽に入れないといけませんが。
ナレーション:それで、結論はどうだったのですか?
叢雨紗月教授:実は、地球の重さは迷宮のドロップアイテムの影響を受けないという事が分かったのです。
ナレーション:え? それでは先ほどの仮説は……。
叢雨紗月教授:どちらも誤りという事になりますね。
ナレーション:ええ~!
叢雨紗月教授:そこで、私達は重さの、ひいてはエネルギーのやり取りにもっと複雑なプロセスがあると考えました。
……長いので割愛……
ナレーション:つまり、人間には認識できない場所に「エネルギータンク」のようなものが存在しており、ドロップアイテムや魔物の生成に関わっているという事ですか。
叢雨紗月教授:その通りです。この仮説を「エネルギーレザバー仮説」と言います。
』
「ねえ、赤木君。これ、何言ってるか分かる? なんとなくは分かったんだけど、ちょっとピンと来てないって言うか……」
岡部さんが俺の肩をちょんちょんと突き、そう尋ねてきた。
「うーむ。難しい部分は端折って骨子だけを説明すると、『質量(エネルギー)保存則を成り立たすためには、魔力を介した循環が必要』ということかな」
「それはなんとなく分かったんだけど……」
「そっか。じゃあ、こんな風に言えばどうだろう? 例えば、毎年凄い量の水が川から海に流れ込むけど、地球の総質量が増えていく事は無い。なんでだろう?」
「そりゃあ、川の水は元々海に合った水だからだよね? なるほど、迷宮から出てくる魔物やドロップアイテムが地球の重さを増やさないのも同じってこと?」
「そうそう。じゃあ、海の水を川に戻す役割を担っている物ってなんだろう?」
「雲よね?」
「正解。じゃあ、魔物やドロップアイテムについては?」
「あ、それがVTRの中で『エネルギータンク』って呼ばれていた物なのね?」
「たぶんな。正直、俺も自信がない」
◆
「いやあ、今日のビデオ、すっごく面白かった! 赤木君の解説のおかげだよ~! ありがとう!」
「いえいえ、俺も岡部さんと議論出来て楽しかったぞ」
ビデオを見終わった。確かに面白かったけれど、それは新たな疑問を生んだ。
――この世界は一体何なのだろう?
俺としては「魔物の巣は全くもって謎な空間」という結論だと思っていたのだ。だってこの世界はゲームの世界。ご都合主義が蔓延し、科学が通用しない世界。
けど違った。多くの先人が魔物の巣の謎を研究し、その結果一定の結論が出ている。この世界において、魔物の巣はご都合主義でもなんでもない。自然の一部だ。科学の一部だ。
だから考えを変えた。この世界はゲームの世界ではない。この世界は一つの確固とした世界だ。俺の生きた世界とは独立した、一つの世界だ。
◆
あとがき
今話を以て100話に到達しました。わーパチパチ。
改めて、ここまで読んで下さった皆様に心からの感謝を。本当にありがとうございます。
あれ、なんだか最終話みたいな雰囲気になってしまいましたね(汗)。ですが、このストーリーはまだまだ続きます。タイトル回収もまだですからね。
ではまたどこかの「あとがき」で会いましょう。
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