とある日の授業中

 学園の雰囲気が祭りを前にしているかのような期待感と、受験を前にしているかのような緊張感に包まれている。言うまでもなく、魔法杯への期待と不安によるものだろう。

 聞くところによると、当日は出店やらなんやらがあって、本当に祭りのような空気になるそうだ。これを聞いたときはびっくりしたよ。ゲーム版ではそんな設定、無かったからな。

 いや、ゲーム版は「ちょっとダークな世界観」を崩さない為に、その設定を敢えてカットしたのかも。


 そんな訳で、学園内の雰囲気は明らかに浮かれている。授業中も心ここにあらずの生徒がちらほらいるとぼやいている先生もいた。そんな状況を叱る先生もいるが、逆に魔物学の先生は諦めるという選択肢を取った。


「という訳で、今日はビデオを見てもらいます。研究者志望の生徒なら真面目に見てもらう必要があるけど、ぶっちゃけ実戦に出る君たちにはあまり必要のない知識だ。だからまあ、魔物学に興味がある生徒だけ真面目に聞いてくれたまえ」



『MHKスペシャル ~世界の神秘、魔物の巣に迫る~』


 ちなみに、MHKとは魔法放送という魔物や魔法に関する情報を発信する放送局だ。ひと昔前はスタンピードが起こった利した時に真っ先にこの放送局が情報発信をしていたそうで、重宝されていたらしいのだが……。今ではSNSなどがその役割を担っており、MHKの立場が失われつつあるとかなんとか。

 それはともかく。


『魔物の巣。それは、「魔物」と呼ばれるモンスターが次々とあふれ出てくる場所です。その探索が進む中で魔物に関する科学はどんどん進歩し、今や一般社会にも魔物製の製品が普及しつつあります。しかし、肝心の「魔物の巣とは何なのか」についての研究はほとんど進んでいません。今日のMHKスペシャルでは魔物の巣の謎を追う研究の最先端を紹介します』


 なるほど。魔物の討伐方法や弱点の研究は、言ってしまえば人類の存続に必要な知識。真っ先に研究が進められた。ただ、魔物の巣そのものに関する研究は進んでいないようだ。

 これは興味があるな。ゲームでは「だってゲームだし」で済まされていたけど、そこに裏があるのだとしたら……。気になる、非常に気になる! 正直このテーマを聞くまでは内職しようと思っていたけど、今日は真剣に視聴しよう。


 魔物の巣は「フィールド型」「陥没型」「特殊型」の三つに分けられます。


 フィールド型とは巨大な島や、山岳地帯のような形態です。例えばここ、太平洋上に浮かぶ「ハワワキキ諸島」にある魔物の巣はフィールド型に分類されます。ここは、かつて地球上で生きていたとされている巨大爬虫類の姿をした魔物が生息しています。


 VTRが流れる。うわすっご! まさにジュラシックな公園! すっごー! いつか行ってみたいなあ~。


 陥没型は深い大穴の底から魔物が湧き出てくる形態です。大規模の物だとベネズエラにある「バリバリニャーマの大穴」がその代表です。


 バリバリニャーマの大穴は、鬱蒼としたジャングルの中に空いた巨大な大穴だった。直径500メートル、深さは不明らしい。高度計を付けたパラシュートを投下する実験で、最低でも深さ1キロはあると分かっているが、それより先は不明だそうだ。


「やっぱり大きいなあ~。いつか行ってみたい~」


 そう口に出したのは、隣の席に座る女の子。名前は岡部さん、ここは視聴覚教室だから、隣にいるのは普段喋った事の無い人なんだ。


「岡部さん、知ってるの?」


「あ、うん。そうなの。ここに生息する魔物ってね、すっごく変な姿形をしているの。普通、魔物ってその地域に根付いた文化なんかから派生した存在が生まれるでしょ?」


「無限迷宮のボスで言うと、ベントーは日本が誇る食分化『弁当』が由来。白雪稲荷も日本の神様が由来だもんな」


「正確にはお稲荷さんは神様とは違うのだけど……。まあそれはともかく。でね、バリバリニャーマの大穴に出現する魔物は、そういった由来が分かってないの。だから、『異世界に繋がっている』みたいな噂があるの」


「へえ~! 異世界ねえ……」


「その顔は信じてない顔だね?」


「あ、いや、その」


「うん、普通はそうだと思う。けど、私、こういった話が大好きなの。いわゆる『オカルト好き』って感じかな? 自分の理解が及ばない存在っていうのに、すっごい憧れがあるの」


「なるほどなあ。まあ、その気持ちは分かる。俺も無限迷宮の底がどうなっているのか知りたいし」


 ゲームでは迷宮の底には……


「『無限迷宮に底があった!』なんてなったら大騒ぎだろうね。でも、いいね! 私も興味ある!」


「あはは、確かに無限迷宮じゃなくなってしまうな」


 迷宮の底にはスタッフロールが眠っているんだ。ゲームでは。

 じゃあ、この世界では何が眠っているんだろう?


「じゃあ、赤木君は無限迷宮の底、私は異世界が目標だね! 先に辿り着けた方が勝ちだね!」


「お、おう。でも、俺の目標は二年後には叶えるけどな」


「お、大胆な発言! 頑張ってね!」


「ありがと。そっちこそ、手掛かりが見つかるといいな」


「うん!」



 異世界への憧憬かあ。いいじゃん、その夢。応援するぞ。

 けどな岡部さん。実はね、君のすぐ目の前に異世界の記憶を持つ人間がいるんだ。まあ、言っても信じてもらえないだろうし、言わないけど。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る