尊敬のまなざし?

 30層を突破した俺と伊藤たちは、35層にいる「オバケダコ」のテイムに成功した。オバケダコと言うと、クラーケンのようなサイズの物を想像するかもしれないが、実際にはそんなに大きくない。普通のタコサイズだ。


「テイム成功、おめでとう」

「おめでとう!」「戦力強化だな!」


「あ、ああ。ありがとう。赤木があれだけお膳立てしてくれたんだから、祝われるような事ではないけど……」


「そういうなって。早速、使ってみようぜ!」


「だな。でも、どんなふうに使えばいいんだろ? 『出てこい』!」


 ぽわわわ~ん


 謎空間に収納されていたオバケダコが伊藤の目の前に姿を現した。

 見た目は直径30センチメートルほどの球体に、にょろにょろと足が生えているような感じ。デフォルメされたタコって感じだ。


「こいつってそんなに早く動けないよな? ってなると、やっぱり俺が持って運ばないとだよな?」


 伊東は、よいしょっとタコを持ち上げて抱きかかえた。「意外とスベスベ」「え、ぬめぬめしてないんだ」などと騒ぐ三人をいったん落ち着かせて。


「そうやって抱えていると両手が使えないだろ? それよりかは、頭とか肩に乗せるのがいいかと」


「え? でも、落っことさないか心配だな」


「タコなんだし、吸盤でつっくつんじゃないか?」


「そうかな?」


 伊藤はタコを自分の頭にかぶせた。丁度いい感じにすぽっと嵌る。


「……なあ、なんかめっちゃ滑稽な姿になってないか?」


「「「……」」」


 この後、俺達は笑いをこらえながら墨攻撃の実戦をしてみた。伊藤が『発射』というと、目の前に墨がババババ!と撃ちだされる。いやあ、想像以上に強力だな。その力は、きっと魔法杯で役に立つだろう。

 で、そんな事ばかりしていた者だから、帰りは寮の門限ぎりぎりにはなってしまったのだった。



 次の日、いつも通り部活のメンバーとランニングをしてから、教室に向かった。


 ガラガラ!


 ドアを開けると、皆が一斉に俺の方を見た。……え、何? まさかパジャマのまま登校しちゃってる? 慌てて自分の容姿を確認するが、異常はなかった。


「え、えっと?」


「おっはよ! 赤木君!」


「おはよう、鈴原さん。なあ、なんか俺、注目されてない?」


「そりゃあねえー! まさか昨日一日で11層から30層まで行くとは思ってなかったのに、それを何という事もないかのように成し遂げたんでしょ?」


「え、いや。まあ。そんな噂になってるのか?」


「うん。あの三人が、赤木君の武勇伝を熱く語ってるから」


「あの三人……? あ」



伊藤「俺達と雑談してたと思ったら、突然後ろ向きに魔法を発動。襲ってくるチャクラムホッパーを弾き飛ばしたんだよ! ヤバくね?」

柏木「ボス戦とか、俺達何も出来ないまま戦闘が終わってたんだよ!」

佐藤「あれが能力を極めた男なのか、って思った」


「「「すっげえー!」」」


「って具合に」


「いや、小学生みたいな盛り上がり方だな! ちょっと三人とも、そんなに持ち上げるなよ……。恥ずかしい」


「いや、あれはマジで凄かった」

「俺達三人を守りながら、ボス戦で圧倒する姿、マジで尊敬しかない」

「なんか今までは『やった、フォルテだ。将来安泰~』程度にしか考えてなかったけど、昨日それが変わった。俺、もっと強くなる」


「「「おお~!」」」


 三人、そしてクラスメイトから尊敬のまなざしが刺さる。恥ずかしいじゃないか、辞めてくれよ。けど、こうやって褒められるのはちょっと嬉しい。


「ねえねえ、私達もちょっとキャリーしてくれない~★」

「え、じゃあ俺達も!」

「わ、私達も……」


「いや、すまん。それはちょっと……。実際、そこの三人にも『自分達の力で20層、30層をクリアするように』って言ってあるしな」


「「「コクコク」」」


「魔法実習とかの機会に、バフを掛けつつ色々と教えるからさ」


「そうだよね~、でも教えてもらうの、楽しみにしてる~★」

「ふふふ。最強の師匠の下で鍛えて、俺も最強に至るぜ」

「わ、私達にも教えてくださいね……」


「もちろん」


……

………


 その日の放課後、部活へと向かっている時に、七瀬さんと宮杜さんが遠慮がちに話しかけてきた。


「あ、あの。赤木君……」

「その……」


「ん? どうした? あ、昨日言ってたお詫びのデザートの件? うん、今週末に何か作ろうと思うんだけど、それでどうかな?」


「いやいやいや、催促しに来たんじゃなくって。その、今後も私達とパーティーを組んでくれるのかなって……。というか、私達にそんな権利があるのかなって……」


 しょぼんとしながらそんな事を言う七瀬さん。なんだか、捨てられそうになっている子犬みたいだと俺は思った。


「え、急にどうしたの、七瀬さん? いつも元気いっぱいの七瀬さんがそんな顔するのって珍しい……」


「あの……ですね。私も七瀬さんも、昨日の赤木君の事を聞いて、改めて思い知ったんです。赤木君って私たちに合わせてゆっくり攻略していますよね? ソロだったら、実際は100層でも200層でも行ける実力があるのに、私に付き合わせてるんだなって思って」


 宮杜さんがそんな事を言う。確かに彼女は何故か俺のサポートが無いと魔法を使えない子だ。だから前からこういう心配をしていたのは知っている。それと同じような感情を七瀬さんも覚えたのだろう。


「そんな事……」


「無くはないよね? その、赤木君と一緒にいるのは楽しいし、私達の成長の為に場所を整えてくれるのは凄く嬉しいの。けど、私達はそれに何も返せないから」


「七瀬さん……」


 ……なるほど。確かに不安になるよな。人間関係において借りだけ出来て、それが日に日に大きくなっていくのは嫌だよな。

 何とかして彼女たちの不安を取り除きたい、けどどうやって?


 そうか。俺が彼女たちをサポートする明確な理由を作ればいいのでは? 「○○という理由があるんだ」と言えばいい。えっと、じゃあ肝心の理由は?


「前にも言ったかもだけど、俺はバフをかける時に相手の実力がおおよそ分かるんだ。その上で、俺は宮杜さんと七瀬さんと組みたいと思ったんだ。二人が強いと分かったから」


「そんなこと……」

「私も今になっても一人では魔法を使えないですし……」


「最初はそんな理由だったけど、それよりなにより。俺、二人と……神名部さんも合わせて三人と一緒にいるのが心地いいからさ。そんな理由じゃダメか?」


「「ふえ?」」


 二人の頬がほんのりと赤く染まったように見える。というか、自分でも「なに歯が浮くような言ってんだか」と思う。うわあ、後になって恥ずかしくなってきた……。



「赤木君が二人を口説いてる」


「うわあ! かかか、神名部さん?」


「はじめて驚いてくれたね。ブイ」


「い、いつからそこに?」


「『俺、二人と……神名部さんも合わせて三人と一緒にいるのが心地いいからさ』って所。急に口説かれて、私もびっくりした」


「最後だけしか聞いてなーい!」






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