伊藤達をキャリー

 放課後、俺は伊藤・柏木・佐藤の三人組と共に迷宮の入り口へとやってきた。


「それじゃあ、途中戦闘はなるべく避けるけど、どうしても戦わざるを得ない時は防御に徹してくれ。それとこれ、防御用のマジックアイテムだ」


 七瀬さんたちに貸していた指輪を、今日はこの三人に使ってもらう。借りる時に「私達より先に、30層のボス戦をするんだ……」と悲しそうな声で言われてしまったけど、後で何か美味しいスイーツを作ると言って機嫌を直してもらった。

 そういえば、この指輪って七瀬さん女の子サイズで作ってあるからかなり小さめ。男子でも着けれるかな? ……小指になら嵌められるかな?


「すごー! マジックアイテムって初めて見たかも」

「防御力を上げる感じか?」


「いや、魔力を流すとシールドを張ってくれる」


「え、それって物凄い高額なんじゃあ……」


 借りるのを躊躇する三人を説得するのに5分ほど有した。



 懐かしの10層! 久々に雷稲荷とじゃれ合い戦いたいが、それはまた今度。今は最速で20層、30層を目指す。


「出来る限り体力は温存したいけど、急ぎたい。早歩きで向かうぞ」


「オッケーだ。普段からサッカー部で鍛えられている実力を見せてやる」

「分かった」

「オッケー。そういえば、赤木の右手首についてるウィストバンド、カッコイイな」


「ああ、これか? これは攻撃に氷結効果を載せるアイテムなんだ。あまりにも強力だから、普段の攻略では使ってないんだけど、今日は使うぞ」


「なんかまた高級そうなものを……」

「あ、赤木! 前……」


「『カッター』」


 前方にモモンタイガーが飛んでいたので、叩き落とした。無属性魔法『シールド』を駆使して、地面に落ちたドロップアイテムをひょいと宙に浮かせて回収する。前に暁先輩と降宝之巣を探索した時に身に着けた、地味な小技だ。


「あ、すまん。佐藤、俺に何か言ったか?」


「ああいや。モモンタイガーの事を言おうとしたんだけど、言い終わる前にドロップアイテムになってた」


「ああ、なるほど。警告ありがと、だけど無理に気を張らなくてもいいぞ。このくらいの層にいる敵なら、第六感で感知できるからな」


「お、おう」

「これがクラストップの実力か……」

「おそらく、赤木のパーティーメンバーが全員女子って事も関係してるかもな」


 佐藤がよく分からない事を言った。パーティーメンバーが女子であることと、俺の強さに何か関係があるのだろうか?


「? どういうことだ?」


「ほら、能力って『誰かの為に』って思っている時ほど成長しやすいって迷信があるじゃん? 迷信だし、根拠はない。けど、自分の為ではなく誰かの為にと思って練習すれば、成長率が早いと俺は思うんだ」


「なるほど?」


「赤木は普段『三人を守りたい』って強く思ってるから、能力が成長しやすいのかも」


 そうなのかなあ? どちらかと言うと、True Endを迎えたいって思いの方が強いけど……。まあそれはともかく。


「『シールド』」


 ――ガキ!


「ビッグりってマジで邪魔だよな」


「……!!」「びびった……」

「すっご。俺がビッグりに気付いたときには、もうシールドが張られてたぞ」


 伊藤と柏木はびっくりしていたけど、佐藤は事前に気が付いていたようだ。もしかして?


「慣れたら出来るようになるぞ。宮杜さんも最近できるようになってきてるし」


 もちろん、俺の魔力感知とは違って、なんとなくそっちに敵がいる気がする……程度の物だが。それでも、実戦では非常に役立つ。


「マジで?」「すっご……」「もしかして、スパルタな教育をしてたりする?」


「してないつもりだけど」



 無事ボス戦も終えて、20層に突入。ここからはチャクラムホッパーが現れるため、今まで以上に注意が必要だ。

 ちなみに、七瀬さん達はほとんど自分で防御できるようになっている。ここで重要なのが警戒の仕方。おおよそ5メートル進むごとにさっと周囲を確認する、というのを意識せずとも繰り返せるようになればベストだ。

 ただ、この三人はまだ出来ないだろう。俺が警戒と防御を担う必要がある。


「っと危ない! 『ショック』!」


 8時の方向からチャクラムホッパーが襲い掛かってきた。後ろ向きに衝撃波を放って、チャクラムホッパーを吹き飛ばす。


(なあ、第六感を使えば後ろにいる敵を吹き飛ばしたりできるのか?)

(無理無理、普通は無理!)

(いや、学年の首席レベルになると出来るらしいぜ)


 何やら後ろ三人が俺の能力にビックリしているみたいだが、謙遜したりするのは面倒だし、聞こえなかったことにする。今は難聴系主人公なのだ。


「あ、向こうにいるのがパニックゴートな。ミルクがドロップするけど、正直あんまりおいしくなかった。市販の牛乳の方が美味しい」


「「「へえ~」」」


「で、右斜め前にチャクラムホッパーがいるから、シールドを張りながら歩いてくれ」


「「「え?! 『シールド』ー!」」」


……

………


 砂ウナギや石ウナギが居そうなところを避けながら進むことで、なんとか30層に到達する事が出来た。本当はこういう攻略法は良くないんだけどな。ちゃんと魔物と対峙して、倒す練習をしながら進まないと……テストの時に困る。


「だから、後日自分たちでもう一度、21層から30層を攻略するようにしてくれ」


「ああ、それはもちろん」

「流石に、『やったー30層までスキップできるぜ』なんて考えるような脳内お花畑ではないからな」

「正直、来る前は『ラッキー、攻略階層が進むぜ!』って思ってたけど……。ここまで赤木を見てきて分かった。俺達ってまだまだ弱いって」


「そんな卑屈な良い方するなって。特に佐藤は索敵も上手かったし。第六感に目覚めるのももうすぐじゃないか?」


「あ、やっぱりそうかな? なんか最近、妙に感があたるって思ってたんだけど」


「え、ちょ! お前、そんな事が出来たのかよ」

「言われてみれば、確かに佐藤って敵を見つけるのが早い!」



 まあ、そんな事を離しながら。俺達は30層のボスの所にやってきた。ここのボスは岩ウナギだ。砂→石と来れば次は岩だよな(?)


「岩ウナギって言うと、石ウナギの強化版みたいなやつだよな?」

「地中からの噛みつき攻撃の頻度が上がるんだっけ?」


「そうそう。付け加えるなら、地面がボコボコってなってから飛び出てくるまでの時間が短いのも厄介なんだ」


「どう対処するんだ?」

「やっぱり、反応速度を上げるしかない?」

「流石の赤木でも、地中の敵は見つけられない……よな?」


「あーすまん。俺の第六感は、おそらく地中も見れる」


「マジか……」

「もはや、赤木を倒す方法が分からない」

「お前ひとりで魔法杯勝てそうだな」


 三人にジト目を向けられる。だが、流石の俺でも1対30では勝てないぞ?


「流石に30人が一斉に俺を攻撃してきたら、負けるぞ? 前に先輩と戦った時は、4人が限界だった」





「なあ、人間にあんな動きって出来るのか?」


 柏木の疑問に、伊藤と佐藤は答えなかった。というか、あっけに取られていて声を出せなかったと言っても良いだろう。


 風兎は魔力感知と思考の並列化を使いこなして、人間離れした動きをしていた。空中にシールドを張って足場にした三次元的な動きは圧巻としか言いようが無かった。

 なお、この動きを普通の人がすると全身傷だらけになって戦闘どころではなくなるのだが、風兎は身体強化&自己回復によってどうにか戦えているのだ。


「赤木は一人でも圧倒してるけど、俺達じゃあ三人合わせてもあのウナギに負けるだろうな」


 伊藤がそうコメントする。


「でも、一年後にはこの階層を突破してないといけないんだろ? 俺達に出来るのか?」


 柏木は不安そうにそう言った。二年生進級時点の目標到達は30層の攻略。つまり、こいつ岩ウナギを倒す事だ。



「潜った! そっちに向かってるぞ!!」


「「「!!! 『シールド』!」」」


 風兎の警告に三人は顔を引き締め、地面に向かってシールドを張った。これで丸呑みは回避されるはずだ。

 そんな三人に風兎は近づき、より強固なシールドを重ね掛けする。


「3、2、1、来るぞ!」


「「「!!!」」」


 ガン!


 シールドに阻まれてウナギの攻撃は失敗に終わる。が、もしも風兎がいなかったら、風兎が三人に貸したマジックアイテムが無ければ、三人は大けがを負っていただろう。


「よし、あとちょっとで倒せるはずだ! もう少しの辛抱だ!」


 そう言って去って行った風兎が、ドロップアイテムの魔石を持って三人の下に帰ってくるまで、30秒もかからなかった。






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