魔法杯の練習

 今日の魔法実習では、クラスを半々に分けて魔法杯の練習を行う事になった。対人戦の練習と、杯玉を落とす/守る練習に分かれている。


「人間に対して魔法を放つのに抵抗を覚えるかもしれないが、知っての通りこのフィールド内では一切の怪我を負わないからな。お互い遠慮せずに全力の魔法をぶつけたまえ」


 確かに、対人戦なんてこの時しかしないからなあ。人間を倒すことに抵抗を覚える人も居るかもしれない。ちなみに、無限迷宮にいる魔物で人型の姿をしている物はほぼいない。


「なんか、友達目がけて魔法を撃つのは嫌だなあ」


 そうぼやくのは伊藤。運動部でワイワイしてそうな彼ですら、抵抗を感じるみたいだ。


「でも、魔法実習の授業中に友達に魔法を放つことはあるだろ? タンクの練習に付き合う時とか」


「それはまあ。でもあれはさ、なんていうか、キャッチボールみたいな感じじゃん? 『じゃあ投げてくれ』『オッケー』っていう風に、お互いの同意があるって言うか。そうじゃなく、嫌がっている相手にボールを投げつけるのは嫌だろ?」


「でもドッジボールとかは、当てられたくないって逃げ惑う敵チームを執拗に追い詰めるじゃん」


「あー、確かに。なるほど、魔法杯もドッジボールって思えば、ちょっとは気が楽かな?」


「ちなみに、能力研究部は毎日のように対人戦をしてるからな。俺は容赦しないぞ~」


「流石だな」



 二班に分かれた俺達は、フィールドの対角線上に配置された。ちなみに、ゼッケンの色でチームを把握できるから、誰が味方で誰が敵か一目でわかるようになっている。

 さてと。今はただの練習だから、勝ち負けなんて気にしないけど、せっかくなら高得点を狙いたいよな。という訳で。


「試合開始までの一分で作戦会議だ! この中で50メートル先に魔法を撃てるのは? 鈴原さんと松田君か。鈴原さんの光魔法は確かに50メートル届くなあ。松田君の闇魔法は……ドレインは届かないよな? ってことはダークスフィアか?」


「ああ、ドレインは最低でも5メートル以内だな。ダークスフィアなら50メートル届く」


 ドレインは敵の生命力を奪って自分を回復する魔法。ダークスフィアは闇のボールを投げつける魔法で、範囲攻撃魔法だ。


「じゃあ進軍時はその二人を前にしよう。次、10メートル以上先に範囲攻撃魔法を当てる事が出来るのは? その人も前に配置する。遠距離から個人を狙い撃ちできる人はちょっと回り込んで、横から攻めて貰いたい。最後に近距離専門はメイン部隊の最後列に配置する感じかな。そして、ヒーラーは敵に狙われないようにちょっと離れた位置で、防御魔法を使える人と一緒に行動するべきかな」


 宮杜さん(+俺)は『10メートル以上先に範囲攻撃魔法を当てる事が出来る』として活動するつもりだ。



 ブーー!!



 ブザーが鳴って試合が始まる。

 まずは互いの遠距離魔法の撃ち合いが始まった。牽制し合っている間に、回り込み組がスススっと横にズレてゆく。

 少し距離が縮まって、宮杜さんも攻撃を始めた。ちなみに俺は、今はバフに専念して、もっと接近戦になってから攻撃も担うつもり。

 そしてさらに距離が縮まった頃を見計らって、回り込み組が横から攻撃を入れ始まる。


 よし、結構倒せたな。なお、魔法杯同様、倒された人は一分間退場だ。


 そして乱戦。もう最初の陣形が跡形もなくなった。これは仕方がない、というのも接近戦が得意なメンバーが敵陣に突入していくからだ。例えば七瀬さん(敵チーム)がこっちに向かって走ってくる。当然、来るなと言わんばかりに攻撃するが、ひょいひょいと避けられて、最終的にこっち陣地にまで入ってきた。そしてボコボコと倒していく。ヒーラー狙いか? それとも?


「やっぱり俺のことは避けてるな」


「ですね。赤木君には勝ち目がないですから」


「あはは。それにしても七瀬さん、やっぱり能力の使い方とか身のこなしが上手いな。さて、俺達も負けてられない。宮杜さん、どんどん撃つぞ!」


「はい!」


 宮杜さんにバフを掛けながら、近づいてきた敵に無属性の刃を投げつける。そんな風に戦った。

 能力研究会では基本的に一対一、多くて四対四の模擬戦をしているから、こういう感じの戦いの経験が実は少ない。新しい形態の戦いを存分に楽しんだ。



「案外楽しかったな」


 試合終了後、伊藤が親指を立てて、そう言ってきた。


「だろ?」


「まあ、毎日したいかと聞かれると悩ましいけど。もうヘトヘトだあ」


 試合後、30分の休憩が与えられた。体力の回復……もだが、それ以上に魔力の回復をしないといけないからな。特に魔力を多く消費した人は、今頃体も動かせないくらいヘトヘトだと思う。

 ちなみに、俺も宮杜さんも魔力をかなり使ったけど、それほど疲れていない。まだまだ魔力が残っているからな。


「お疲れ~! すっごく疲れたー!」


 向こうから手を振りながら七瀬さんがやってきた。汗を拭いながらこっちにやって来る美少女。なんだか心が浄化された気がする。

 七瀬さんは魔力量が普通くらい。さっきの戦いで相当消費したはずだから、かなりの疲労を感じていると思う。それでもなおこうして笑顔でいられるのは、自己回復で肉体の疲労を最小限に抑えているからではなかろうかと分析している。


「お疲れ、七瀬さん。すっごい活躍だったな! めっちゃカッコ良かった!」


「そ、そう? ありがとう! 赤木君も相変わらず凄かったよ! どんな攻撃も全部防くのとか」


「そりゃあ、毎日先輩方と鍛えてるからな。守るのは得意だぜ? けど、キルを取るのは苦手なんだよな」


「で、でもそれって私を庇いながら戦っているからですよね? すみません……」


 隣で聴いていた宮杜さんが割って入ってくる。あーうん、確かに俺のリソースの多くを宮杜さんのサポートに使っていたからな。ただ、その甲斐あって宮杜さんは多くのキル数を稼いだし、俺としては文句はない。むしろ、良いコンビネーションだったと思う。という事を伝えて宮杜さんを安心させた。



「取りあえず、30分後には杯玉の攻め方・守り方の練習だな。こっちも楽しみだな!」


「だね! 杯玉に一発叩き込んじゃうよ!」


「一発じゃなくて、何発も叩き込んでくれ」


「うん、確かにそうね!」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る