石像?いえ、ウナギです

 第一回目の作戦会議があった日の放課後。俺達のパーティーは迷宮に行く事になった。正確には、一人で迷宮に行こうと思ってたら、三人に見つかってしまったのだ。

 本当は裏ボスでも倒しに行こうと思って迷宮に向かったのだけど……。


「あれ? 赤木君、どこ行くの?」

「もしかして迷宮に行くんですか? 一人じゃ危ないですよ!」


 七瀬さんと宮杜さんが俺に手を振って近づいてきたのだ。

 やっべー見つかった……、と思っているとそこに神名部さんも現れて。


「あれ、今日って部活あったっけ?」

「うんん、今日は無いよ。それよりあのね、聞いてよ! 赤木君が一人で迷宮に行こうとしてたの!」

「それは危ない。一緒に行く」


「いや、でも、三人にも用事があるんじゃあ……」


「今日は特にないよ!」

「私も大丈夫です!」

「私はいつでも大丈夫。なんなら、授業中でも私を引っ張り出しても、誰も文句言わないよ」


 うーむ、三人がそう言うなら、無理に断らなくてもいいだろう。パーティーの攻略も大事だからな。



「じゃあ、今日は25層へ突入しようと思います!」


「「「おお~!」」」


「25層は24層までよりも危険な魔物が多い。その代わり、この辺りから『稼げる』魔物が出始める」


「稼げる魔物……?」

「そんなのいましたっけ?」

「クロスゴートの革が靴や鞄の材料になる、よね? でも、そんなに高くないはずだよ?」


「違う違う。石ウナギだよ」


「「「え?」」」


 砂ウナギの上位互換とも言える石ウナギ。ドロップアイテムは石、岩、魔石だ。魔石以外使い道が無さそうだろ? でも違うんだよなあ。


「取りあえず、20層に転移だ! いくぞー!」



「で、ここが25層なんだね! なんだか、さっき24層までよりもおどろおどろしいね……」

「家の近くにあった採石場を思い出します……。小さい頃、『あっちは危ないから行っちゃ駄目』って言われました~」

「急斜面がいっぱい。まさか、登らないと駄目?」


 三人がコメントしてくれたように、24層までと25層以降は両方「荒野」だけど、その見た目は大きく異なっている。24層までは「実際にある荒野」と言われても納得できるレベルなのだが、25層以降は「明らかに自然には出来なさそうな地形」なのだ。

 地面はこれでもかってくらいに凸凹している。どでかい岩がそこら中に転がっている。そして極めつけが、明らかに不自然な急斜面。45度くらいの勾配がありそう。


「流石に、向こうに見える急斜面は登らなくても大丈夫。だけど、そこら中にある坂道は登らないとだな」


「そっか、よかった」

「流石に、あそこを登れって言われたら、転げ落ちて死んじゃうよ~」


「けど、あの崖って確か……。岩が転がってくるんですよね?」


「お、宮杜さん、詳しいね。そう、向こうの急斜面は登るためにあるんじゃない。上から石を転がすためにあるんだよ。近くを通ると、岩がゴロゴロ落ちてくるから気をつけないとだな」


「ひええええ」

「怖い」


「だから不用意に近づかないのが一番だな。それはともかく、岩ウナギを探そうか。あ、さっき24層までもいたチャクラムホッパーは、この階層にもいるから要注意だぞ」


……

………


 チャクラムホッパーの奇襲やアングリーゴートの突進をかいくぐりながら、歩く事数分。ようやくそれが現れた。


「いるぞ、この近くに」


「どこどこ? ってあそこ! なんか地面がボコボコなってる!」


 七瀬さんが驚きの声を上げる。俺達の前の岩が、地面がガタガタと揺れ始めたのだ。


「みんな下がって!」


「「「!」」」


 俺の言葉に、全員がズザ!っと一歩後ろに下がった。見事な反射神経だ。



 ドガーン!


 ガラガラ!


  ガラガラ


 ガラガラ……



 俺達四人が見守る中、地面から何かが勢いよく飛び出してきた。

 それは一見すると、ただの石だ。でも、よく見ると、自然に出来た石とは違って、表面がツルツルであると分かる。

 その高さは2メートルほど、太さは60センチメートルくらいだろうか? そのくらいの大きさの岩が地面から飛び出してきたのだ。


「せ、石像が飛び出してきた!?」

「なにこれ?」

「これ、ウナギ……?」


「石像じゃないぞ?! 間違いなく、ウナギだ。ウナギの頭だな」


「頭でこれって……」


「全身はもっとデカいぞ! さあ、戦闘開始だ!」



 石ウナギとの戦闘開始だ!



 石ウナギの攻撃ターンは主に四つ。


・体当たり

 その如何にも重そうな巨体で突進してくる。恐ろしいことこの上ない。

 ただ、「溜め」に時間がかかるから、意外と避けるのは簡単。


・つぶて

 空き缶サイズの石を投げてくる。高く投げ上げる感じだから、正面よりも頭上に注意したい。


・倒れる

 ぐぐぐっと首を持ち上げてから、そのまま倒れ込んでくる。下敷きになると大変!


・地面から噛みついてくる

 丁度今さっき見た奴だ。出てくる前に、地面がボコボコなるから、避けるのは比較的簡単。


 そして、攻撃チャンスは「体当たり攻撃の溜め中」「倒れてきてから10秒」「地面から噛みついてくる時」だ。避ける事に専念しつつ、隙を見計らって攻撃する。これの繰り返しだ。


 特に「倒れてきてから10秒」が一番のチャンス。下敷きにならないように避けて、すぐに反撃の準備を整える。慣れたら作業ゲーだが、慣れるまでは非常に怖い。

 まず最初に七瀬さんが上手くなった。スレスレでかわしてボカッと殴る。宮杜さんと神名部さんも驚いていた。




 後から詳しく聞くと、「なんか集中すると時間がゆっくり流れる」と言ってた。それって、思考の並列化パラレルパラドックスだよな……。七瀬さん、もう使えるようになったのか?! すごいな、将来有望じゃん!


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