岩を割ったら

 ぐぐぐっとウナギがその長い首、いや体?を持ち上げた。これは……


「倒れ攻撃が来る! みんな、準備!」


「オッケー!」

「はい! どでかいの、討ちます!」

「防御デバフかけるね。『防御弱体』!」


「みんな、すっごい機敏に動けるようになったなあ」


 俺達はしゅぱぱぱっと反撃体制を整える。倒れ込んできたタイミングで、大技を叩きこむ。これさえ守れば簡単に倒す事が出来るぞ! ……もはや、今から倒れ込んでくるウナギに同情したいくらいだ。


 ドゴーン!


「体を地面にぶつけてフラフラなウナギに追い打ちだよー! 『頭蓋骨粉砕』!」

「な、なんか七瀬ちゃんが怖いこと言ってます! 『アイスギロチン』!」


「これがラストアタックかな。無属性の刃で切り裂く、『スラッシュ』!」



 ボフーン! というちょっと派手なエフェクトと共に、ウナギがドロップアイテムに変った。何が落ちた、何だ!


「よし、岩! あわわ、他の岩と混ざって分からなくなる前に印を……」


「『よし!』なの? どう考えても、売れないと思うけど……」

「そもそも、こんな重そうな石、持って帰れません! 赤木君が買ったマジックバッグ、減量機能無いですよね?」


 七瀬さんと宮杜さんが頭の上に?を浮かべていた。いや、これを丸ごと持って帰る訳じゃないよ?


「これ、火山岩っぽい。割ったら宝石が出るかも?」


「お、神名部さんいいこと言った! そう、この石って稀に宝石が出るんだよ!」


「そうなの?! それはいいわね!」

「宝石、ですか!」


「神名部さんが言ってくれたように、この岩は火成岩に近い構造をしてるんだ。火成岩、つまりマグマが固まって出来た岩だな。マグマが冷える時に、ちょうどいい感じに特定の物質が結晶化したら、宝石になるって訳だ」


「でもこれ、ドロップアイテムだよね? いや、迷宮のドロップアイテムは時々謎だから気にしちゃ負けかもしれないけど……」


 七瀬さんが頭を押さえていた。しかたないじゃん、この世界はゲーム世界なんだから。細かいことを気にしてたらダメだぞ~。


「で、でも。宝石くらい混じっててもおかしくないのではって思います。あ、チャクラムホッパー。今たてこみ中なんです。邪魔は去りました」


「ああ、話の途中に割り込むチャクラムホッパーほど嫌な奴っていないよな」


「ですね! 話を戻して。例えば化石が入ってたらちょっとツッコミどころ満載ですけど、宝石ならまだ分かるかな~なんて」


「確かに、化石がドロップしたらびっくりしちゃうね!」

「化石が出たら大変だ。ダーウィンさんの進化論が危ぶまれる」


 この世界にもダーウィンっているんだ。ってそんなことはどうでもよくって。


「うん。まあ、石ウナギからドロップするのは火成岩だから、化石は混じってないぞ」


「「「そっか~」」」


「けど、別階層のドロップアイテムに、化石が混じってたって話を聞いたことがある気がする」


「え?!」

「そうなんですか!」

「そりゃたいへんだ。種の起源が分からなくなってしまう」


「その辺りは考えない方が良いと思うよ……」


 こ、この世界ってゲームの世界だからなあ。世界や生命の起源を追求する事は、第四の壁(現実とフィクションの間の壁)を知る事に等しい。

 あれ、そう考えると、俺が前にいた地球だってもしかしたら……。いやいや、前世には主人公的な人はいなかったし……。いやでも、前の世界で大成功を収めていた人々が実は『プレイヤー』で、俺みたいな人間は全員『NPC』だったとしたら……。


「赤木くーん! 大丈夫~?」

「凄く悩んでる。悩める思春期男子だね」

「それは意味が変わっちゃいますよ、神名部さん」



「と、ともかく。この石を割ってみようぜ!」


「どうやって?」


「殴って」


「「「殴る……」」」


 自然と視線が七瀬さんに集まった。この中で、殴る専門の子と言えばやっぱり七瀬さんだな!


「私? 無理無理、こんな硬い石を殴ったら、手折れちゃうよ! 瓦割りならまだしも、これって完全に『岩』じゃん!」


 七瀬さんが、ドロップした岩を指さしながら抗議する。うん、分かる。確かに突然『この岩、殴って割って』って言われたらびっくりすると思う。


「けど、さっきまでも殴ってただろ。石ウナギの頭部」

「「コクコク」」


「え? ああ、確かに。そう考えると怖くないかも?」


「それに、この石って割れやすいらしいから!」


「なるほど。あれ、でもさ。それなら赤木君の魔法でずばって切っても良いのでは?」


「それだと中身が壊れるかも」


「なるほどね。じゃあ、いくよ! せい!」



 バキ!

 岩に亀裂が走り、パカリと割れた。



「わ! 本当に割れた!」

「綺麗に割れましたね!」

「中身は……」


「「「!」」」


「お、当たった? マジか、一発目から落ちるか! ビギナーズラックってやつか?」


 中にはキラキラと輝く緑色の宝石が入っていた。これはエメラルドかな? うは~、これいくらで売れるんだろ?


「綺麗~!」

「綺麗」


 七瀬さんと神名部さんが目を輝かせていた。……というか、エメラルドがその眼に映っていて、文字通り目が輝いているように見える。


「ちょ、ちょっと待って下さい! なんで誰もツッコまないんですか、この明らかにおかしな状況に!」


「「?」」


「なんで石を割った中から、ピカピカに磨かれた宝石が出てくるんですか?!」


「そんなに驚く事?」

「確かにきれいだけど……」


「いやいやいや、二人は宝石の原石を見た事が無いんですか?! 岩の中に埋まって宝石って、もっとくすんでるんです、普通は! こんなピカピカで透明じゃないんです!」


「「そうなの?」」


「え、私の違和感、二人に伝わってないんですか? 赤木君はどうです? おかしいと思わないんですか?!」


「おかしいとは思う。けど、諦めて。これは迷宮のドロップアイテムだから」


「そ、そんな理不尽な~!」





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