魔法杯に向けて

作戦会議

「という訳で、第一回、魔法杯作戦会議をします!」


 教壇に立った委員長(鈴原さん)がそう宣言した。そういえば、今週の魔法実習は魔法杯についてって先生が言ってたっけ?


「まず、ルールについては全員知ってると思うし、省略するね。それで、えっと、地形オブジェクトの設置方法とか、戦略についてとかについて、事前知識がある人っています? あと、我こそはリーダーをしたいって人は?」


 シーン……


「あれ、委員長がリーダーをするんじゃあ?」


 教卓前に座る人がボソッとつぶやいた。確かに、俺もそう思ってた。


「私? 全員が嫌がるなら私が引き受けるけど……。けど、私、全く魔法杯に詳しくないよ? だから、出来れば詳しい人に引き受けて貰いたいんだけど。ほら、魔法杯研究会ってのに参加してる人とかいない?」


 シーン……


「あれま、いないか。じゃあ……一番迷宮攻略が進んでる赤木パーティーとか? リーダーやってみない?」


「俺? うーん、他に誰もやりたい人がいないなら引き受けるよ。みんなにバフをかける過程で、おおよそみんなの強さも把握してるし」


「なるほど、魔法杯についての知識だけじゃなくって、クラスの事をどれだけ知っているかも重要になるのね……」


「それに、赤木君。前に能力研究部で魔法杯っぽい事をしたとき、見事な戦略で先輩たちを圧倒してたよ!」


 七瀬さんが俺を推薦するような事を言う。見事な戦略って……。あれは大したことないからなあ。


「そんなことがあったの?」


「いや、あれは特定の条件でしか使えないような物だから……。そもそも、俺は魔法杯についてはそんなに知識がある方じゃないんだよ。魔法杯オタクみたいな人には到底かなわない」


「魔法杯オタク?」


「ほら、『どういう戦略を取ると勝率が何%くらいになる』とか『相手チームの構成に応じた柔軟な戦略を立てるコツ』とかを日夜研究してる人っているだろ?」


「そんな人、いるの?」


「あれ、いない?」


 前世ではいたよ。魔法杯オタク。オンライン魔法杯マッチばっかりしている人とか。俺はそんなにやってなかったけど。


「……いたら既に立候補してると思う」


「それもそっか。じゃあ、いったん引き受けてみる。後から『やっぱ俺がやりたい』って人が出てきたら、交代するよ」



 教壇に立った俺は、まずはクラスの仲間たちに基本的な戦術を伝授する事にした。


「んじゃ、少し耳を拝借。まず基本事項を再確認していこうと思う。大前提として、魔法杯では『早く拠点が落とされる事』が有利だ。何故なら、拠点が落とされるたびに杯玉の生命力は上昇する仕様になっている。序盤に拠点が落とされたという事は、終盤に狙われにくくなるって訳だ」


 クラスをみやる。みんな頷いているので、話を進める事にする。


「そして、その為に序盤の点数稼ぎは必須だ。序盤に点数を突き放す事ができれば、その分、最初に狙われやすくなる」


 前の魔法杯模擬戦のような、人数が極端に少なかったり各班に大きなパワーバランスの差があれば話は別だけどな。


「じゃあ、いつまで経っても『お前ら、俺の拠点を落とせよ』『いやいや、俺の拠点を狙えって』っていう風になるんじゃないのか?」


「そうなる時もある。けど、あまりに長時間けん制し合うのは良くないんだ。というのも、魔法杯は守るのに有利なルールをしているだろ? 『守る側は拠点内ならダメージを負わない。攻める側はやられたら1分間戦闘に復帰できない』っていうルールのおかげで、守る側はかなり有利なんだ。クラスの半数が守りに徹したら、三クラスからの侵攻も食い止められるとさえ言われている。つまり……」


「つまり?」


「どこかのタイミングで、拠点に攻め入るのが不可能になるんだ。『これ以上、他のクラスに点数を渡すわけにはいかない。守りに徹するぞ』って全チームが思う瞬間がいつかやって来る。こうなるのは、おおよそゲーム終了の5~10分前だな。一試合は60分だから、終盤も終盤だな」


「なるほど……」


「要は『自分の拠点を落としてほしい』と思うタイミングと『俺の拠点は落とされないぞ』って思うタイミングの境目が曖昧なんだ。これを見誤ったら、確実に負ける。リーダーの采配が試されるな。だから、リーダーは責任重大なんだ。あれ、こんなこと言ったら、ますます立候補が減るな」


 引き締まっていた教室の空気が少し緩んだ。それを見て、俺は次の話題を話し始める事にする。


「ここまでが、魔法杯の基本的な概念だな。で、ここからはもう少し具体的な話をしていこうと思う」


(((基本的……?)))



「次は、地形オブジェクトの基本戦略についてだ。地形オブジェクトを適切に配置せず、無造作に配置してしまうと、敵の邪魔よりも味方の邪魔になってしまう事もある。それを踏まえて、有名な配置をしていこう」


【島中の拠点】

拠点①

拠点②

①②③


※数字が地形オブジェクトを配置する場所


「拠点の周りをぐるっと覆ってしまう配置だな。これの良い所は勿論『攻め入るのが難しくなる』点だな。欠点は言うまでもなく『味方が攻め出るのが難しい』点。これを採用する場合、欠点を補うために地形オブジェクトを無効化する能力者を拠点に常在させる必要が出てくるな。俺の『無属性障壁』の他、『泥に対する火属性や氷属性』『マグマに対する水』は地形オブジェクトを無効化できる」


「そう考えると、無属性障壁って強いよな……」


「いや、でも無属性障壁は数人しか運搬できない。つまり、術者の足元しか守れないからな。けど、水でマグマを無効化したら、数人一気に運ぶことができるだろ?」


「ああ、なるほど。確かにそうだな」


「じゃあ次」


【定置網漁】

□□□⑤④□

□☆□①②③

□□

⑤①

④②

□③



※□は何も配置しない場所。数字が(略)


「完全に封鎖するのではなく、敢えて道を開けておく事で敵の行動を誘導するやり方だな。☆の位置で待ち構えたり、○の位置に罠を仕掛けたりして、敵を一掃するやり方だな。ちなみに、能力研究部で魔法杯の練習をした時は、七瀬さんの班がこれと似た戦法を使っていた」


「うんうん! けど、あの時は違った配置だったような……?」


「これだな。俗に言う、矢印型の定置網漁」


【定置網漁(矢印型)】

拠□①①

□□□□

①□②□

①□□③


「定置網の間部分、この図で言うと②や③の部分に地形オブジェクトを設置するやり方。敵の侵攻を妨げつつ、誘い込むときに使うかな?」


「なるほど、なるほど」


「次はこれ! 迷路」


【迷路】

拠点①□④④

拠点①□□④

□□①□③

②②□□③

□□③③③

□③③


「島中の拠点に似ているけど、ちょっと隙間を開けているのがミソ。地形オブジェクトを無効化する能力者を拠点に常在させる必要が無いのがいい点。悪い点は言うまでもなく、道を知ってしまえば敵も簡単に侵攻してくる点だな」


「え? 完全に囲ってない?」


「いや、斜めに移動する事が出来るから」


「ああ、そっか」


「それと、【お前ら来るな】っていう作戦もあって、これは障害物の配置を偏らせる方法だな。例えば東側のチームにめっちゃ強い人がいる場合、東側からの侵攻を妨げるように地形オブジェクトを配置したりする。これはまあ、作戦って名前を付けるか微妙なラインだな……」




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