良きリーダー

「いやあ、なんとか勝てたな!」


「見事に作戦が成功しましたね!」「いえい」


 いつもちょっと卑屈で謝ってばかりの宮杜さんだが、今は満面の笑みで喜びを表現している。これを機に、自分に自信を持ってくれるといいな。

 また、表情が出にくい神名部さんすら、今は笑顔を浮かべている。作戦のかなめとも言える任務を見事遂行したからな、彼女も嬉しいのだろう。


「まあ、このルールだと半分以上が運みたいな物だからなあ。勝っても負けてもいいとは思っていたけど。けどやっぱり勝てると嬉しいな!」


「「「いえーい!」」」


 三人でハイタッチした。



「お疲れ様! まさかあそこから逆転されるとは思ってなかったよ……」


 山本先輩が頭を掻きながら俺達の前に現れた。


「お疲れ様です、山本先輩。まさか自分の拠点で敵が休んでいるとは思わなかったでしょう?」


「だな。隠密系の能力を持った人と戦った事はあるし、今回も対処できると思ったんだがなあ。いやあ、一杯食わされたよ。だが、次は負けない」


 悔しさよりも、感心の方が上回っているようで、純粋に俺達を祝福してくれた。いい先輩だな。こういう人は強くなると思う。


「まさか逆転されるとは思ってなかったよ~! 何があったの?」

「最後に山本チームを落としたんだよね? どうやったの?」

「凄かったな!」

「めっちゃワクワクする試合だった!」


 他チームや観戦していた先輩方に説明を求められた俺達は、今回どういった作戦を立てたのかについて話す事になった。


 最初に僕が山本チームの罠に引っかかって、他チームが山本チームに攻め入る気を亡くさせました。ただ、山本(弟)には、僕が第六感で罠を見破れると知られているので『わあ、引っかかった~』なんてすれば、山本チームに『あいつ、絶対わざとだろ』と警戒されます。ですので、二人を庇ったように見せかけました。

 この時点で、『僕たちのチームは山本チームに攻め入れない、あるいは攻め入ろうと思うとゆっくり歩く必要がある』と強く印象付ける事が出来ます。


 ここまでで、山本チームが確実に1位になるように仕向ける事ができました。後は、最後に山本チームを落とせば勝てます。実はこの他にも、山本チームが抜きん出た点数になるように小細工をしていたのですが……。気が付きました?


「いや、正直全く気が付かなかったな。そんなことしていたのか?」


「はい。桃花先輩チームや桜葉先輩チームに点数が入りにくいように、色々と邪魔させて頂きました。例えば宮杜さんの遠距離攻撃、杯玉に命中してませんでしたよね? 代わりに、周囲にいる人に当たっていました」


「そういえば……ってまさか?」


「はい、あれはわざとですね。宮杜さんには、山本先輩以外の人を狙うようにお願いしました」


「「「うわああ……」」」


 ただこれだけでは、まだ負ける可能性が残っています。つまり、僕たちが山本チームを落とした後に、僕たちの拠点が落とされたら、負けてしまいますよね。

 だから、理想は制限時間ギリギリに山本チームを落とす事となります。


 しかし、山本兄弟がいると、悠長に落とす時間のコントロールはできません。そこで、山本兄弟を無力化する必要がありました。


 無力化する、最も簡単な手段は倒す事ですよね? そうしたら、30秒間はリスポーンしないので。しかし、これは山本兄弟が拠点内にいると不可能です。拠点内では戦闘不能にならないので。

 では、二人が拠点内にいても無力化できる方法を考える必要があります。それが睡眠ですね。


 こうして問題は『どうやったら、神名部さんが二人を眠らせる事が出来るか』となりました。そこで……


 こうして、「神名部さんに山本兄弟の拠点内で潜伏してもらう」という作戦を思いついたという訳だ。



「最初から最後まで赤木君の掌の上で躍らせれてたのね……」


「そこまででは無いですよ。正直、この作戦は結構リスキーな作戦でした。ここまで上手くいったのは、完全に運が味方してくれたからです」



「素晴らしかった。本当に素晴らしかったよ」


 今度は部長が手を叩きながら、賞賛してくれる。


「ありがとうございます。あ、それは試合前に書いた作戦ですか。もしかして、外野は俺の作戦を知ってました?」


「ああ。とはいっても、君がどう考えてこの作戦を実行するに至ったかを聞いて、改めて思考力に感銘を受けた。特に俺が良いと思ったのは、宮杜と神名部の二人が大きく活躍できるような作戦を思いついた点だな」


「そりゃあ、俺一人が頑張って勝っても、二人は笑顔になってくれないでしょう?」


 ちらっと二人に視線を向ける。視線の先には、七瀬さんに「凄いね!」と言われて照れながら笑っている二人の姿が。


「だな。君のような人を、良きリーダーと言うのだろうな。で、そんな君の姿を見て、二人が感動しているぞ」


「凄い、凄いよ、赤木君は!」

「モテる男になるにあたっての心構えを知る事が出来た」


 えっと、この二人は、確か二年生の先輩。名前は……忘れた(ごめんなさい)


「も、モテる……? 心構え?」


「ああ。君に抱っこされている時の二人の顔、完全に君に惚れた顔をしていた」

「この試合だけで、一つの拠点と二人の女の子を落とすなんて。流石だ」


「何上手い事言ってるんですか……。それに、別にあの二人と俺の間に恋愛感情はないですよ……」


「いやいや。おそらく今君が告ったら90%くらいの確率でOKされると思うぞ?」

「だな。俺もそう思う」


「そんな高校生のノリみたいな感じで付き合ったりするのって、不誠実じゃないです?」


「いや、お前も高校生だろ?」

「ノリで付き合ったりできるのなんて、今だけだぞ!」


「いやいや、そんなノリで付き合って、後から別れる事になったら、パーティー解散間違いなしですよ……」


「む、それは確かに……」

「それに、誰かと恋愛しようものなら、他のメンバーとの関係がギクシャクしそうだな……」


 って、俺達はなんでこんな話をしてるんだよ!

 二年生二人組から目をそらすと、隣でニヤニヤしている川崎先輩が目に入り、余計恥ずかしくなった。



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