魔法杯の模擬戦、決着
◆ Side 山本(兄)
模擬戦残り2分となった。現在の得点状況はこんな感じだ。
赤木チーム:229点(2回陥落済み)
桜葉チーム:988点(1回陥落済み)
桃花チーム:526点(2回陥落済み)
山本チーム:1512点
一回も陥落させられていないのは、最初に赤木が一発退場したからだろう。赤木をはじめ、他のチームも一回も俺のチームを落としに来なかった。
赤木チームの得点獲得状況が伸び悩んでいる原因は、最初赤木が倒された時に動揺してしまった事もあるが、それ以上に彼らが遠距離攻撃をメインで戦っているからと言えよう。赤木は宮杜のバフに徹しており、二人で遠くから攻撃を行っている。安全ではあるが、杯玉に入るダメージは少なく、点数をあまり稼げていない。
そして、俺のチームについては、落とされないという強みと運が重なって、他チームを大きく突き放していた。これはやはり、最初に赤木君が倒されたおかげと言えよう。あの一件で「攻め入ったら、即死トラップだらけだ」と思わせる事が出来たようだ。
「この後の展開は、桃花チームが桜葉チームを落として2位の座を奪うか、桜葉チームが今の順位を死守するか……って言う感じかな? あるいは、赤木チームが桃花チームを落とすかもしれない」
なんて考察している時だった。突然、赤木が俺を攻撃した。正直、ここで赤木が俺を狙う理由が無いから、攻撃されないだろうと思っていたのだが……。あまりに突然の事だったので、対応しきれず、また彼自身がとても強い事もあって、俺は倒されてしまった。
30秒間後、俺は自分の拠点にリスポーンした。
「あ、兄貴」
「赤木と戦って負けたよ~。いやあ、やっぱり彼は強いな。それよりも、状況は? 赤木は攻めてきたか?」
「いいや、来てないぞ? どうしてだ?」
「そうか。いやな、さっき赤木の攻撃を受けた時、彼の狙いは俺達の拠点を倒す事だろうって思ったからさ」
「なるほど、兄貴が居ない30秒の隙を狙うつもりかもしれないと」
「ああ。だが、それは杞憂だったみたいだな。ただ、この後、一発逆転を狙って攻めてくる可能性もある。神名部さんだっけ?は隠密と睡眠を持っているからな、十分注意して行動しないと」
「隠密って、攻めてくるかもしれないって警戒してると、気付けるんだよな?」
「ああ、そのはずだ。神名部さんの能力はあくまで『無視させる』能力で、こちらが注意を払っていたら気付く事が出来る」
「だな。ちょっと怖いのが、睡眠だよな」
拠点内にいる限り、ダメージは杯玉に吸収される。しかし、睡眠のような異常状態は喰らってしまう恐れがある。とは言え。
「ただ、睡眠の成功率は距離に依存する。つまり、接近されない限り、睡眠を受ける可能性は低いだろうな」
睡眠の魔法は接近しないと成功率がグンと下がるはずだ。
「それと、万が一どちらかが眠らされたら、相手が起こせばいいからな」
「だな。二人同時に眠らされない限りは何とかなる。ってことは、俺達は離れているべきかも?」
「そうするべきだろう。ともかく、外に集中しないと。いつ攻めてくるか分からないからな……」
俺達は拠点の外をじっと見つめ、どこかに潜んでいないかをしっかりと観察していた。
しかし、次の瞬間、俺達の真後ろから声がした。
『眠れ』
「「へ?」」
◆ Side 神名部
(まさか、こんなにも上手くいくとは……。流石、赤木君の立てた作戦ね)
私は自分の目の前ですやすやと眠っている山本兄弟を見ながら、数分前の事を思い出していた。
それは赤木君がリスポーンし、最初に私達の拠点が落とされた直後の事だった。
「それじゃあ、作戦を実行だ!」
「ん! 『隠密』」
「それじゃあ、くすぐったかったら言ってくれ」
赤木君はひょいと私をお姫様抱っこした。そのまま、ダッシュで山本チームの拠点に走って行く。まだこの時点では山本兄弟のどちらも外で戦っていた。
「それじゃあ、見つかりにくいように、そこらへんで待機してくれ。残り3分以降、兄弟が揃ったタイミングで眠らせるんだ」
「かしこまり」
「じゃあ、俺はお膳立てしてくる」
赤木君の作戦は大胆な物だった。なんと、私を山本チームの拠点内に放置するという。隠密の性質上、意外性のある場所に隠れている時が最も効果を発揮するが、果たして。
それから数分後、山本(弟)がリスポーンしてきた。
「いやあ、やられちまった~。残り4分か。待機するか」
山本(弟)は、まさか自分の拠点内で敵が休んでいるとは思っていないのだろう。私は見つからなかった。
そして、残り1分くらいのタイミングで、山本(兄)が戻ってきた。
「あ、兄貴」
「赤木と戦って負けたよ~。いやあ、やっぱり彼は強いな。それよりも、状況は? 赤木は攻めてきたか?」
…
……
………
試合も残り30秒。その時、宮杜さんをお姫様抱っこした赤木君が走って現われた。
「ナイス、神名部さん! 二人とも、睡眠に出来たんだな」
「うん、頑張った。後で褒めて」
「おう、後でたっぷり褒めようじゃないか。でもその前に、宮杜さん?」
「はい、いきます! んんんんん……!」
宮杜さんが巨大な氷の剣を杯玉の上空に生成し始めた。赤木君もバフに全力で集中しており、まるで二人が一人のフォルテになったかのように錯覚する。
『割れて!』『ぶっ壊れろ!』
――ガキン!
杯玉に、渾身の一撃が決まり、山本チームの拠点が落ちた。
こうして、私達赤木チームは見事、一発逆転に成功したのだった。
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