神名部さん乱入!

 テストが無事終わった。そもそもフォルテメイアは将来フォルテとして働くことを見越している為、テスト内容も基礎中の基礎ばかり。正直余裕だった。


 とここで、「そもそも、テストなんていらないのでは? 能力の訓練だけでいいじゃないか」という疑問を抱く人も居るだろうが、これには理由があって、万が一フォルテメイアに馴染めなかった場合の救済策らしい。

 つまり、何らかの理由で能力が成長しなかったり、あるいは迷宮でトラウマを負って戦えなくなった場合に、普通の進路に切り替える事が出来るのだ。で、その道を閉ざさない為に、一般高校と同等の勉強をしているみたいだな。


 と言うのは学園側の建前。本音は真面目度合いを測っているのではないかと俺は予想している。例えば今回の数学の試験で出題された問題は、授業中に解説していた問題そのままである。国語もそう、社会もそう、理科もそうだ。

 これは「簡単だった」と捉える事も出来るが、見方を変えると「思考力を試す問題ではなかった」とも言える。授業中にやった内容をどれだけちゃんと聞いているかのテスト。真面目度合いを測るのにぴったりだと思わないだろうか?


 ちなみに、英語に関してはある程度応用問題も出題された。これはおそらく、将来海外で働く、あるいは外国人と一緒に働く事を見越しての物だと思われる。



「って俺は考えてるんですけど、どう思います?」


「ちょっと待って、もしそうなら私不味いんじゃあ……」


 暁先輩があわあわしてる。


「十分あり得るだろうな。実際、就職先と成績に相関がある事を示すデータもあるし。とは言え、やっぱり一番みられるのは能力についてだ。物凄く腕がいいなら、それなりの場所に就職できるだろう」


 桜葉先輩は冷静に判断してる。


「じゃあ、私は大丈夫って事ね!!」


「うむ、大丈夫だとは思うが、これ以上私や後輩に迷惑をかけないようにな」


「いやあ。あはは~。赤木君、本当に助かりました~。逆に、赤木君に困ったことがあれば、いつでも私を頼ってね」


「気にしないでください。けど、もし何かあれば頼らせてもらおうと思います。あ、そうだ。早速ですが、お願いして良いですか?」


「何々?」


「実はこの部活に興味があるって言ってる子が居て。一応僕達で『こういう部活だよ~』って説明はしたんですが、如何せん俺たちも一年生。説明できてない所もあるかもしれなくって」


「なるほど、それで私が説明すれば良いって事ね! 今日来るの?」


「えっと。今日と言いますか……」


「?」


「今俺の隣にいますね」


「え?」


「こんにちは。赤木君、七瀬さん、宮杜さんと同じパーティーで活動してる神名部です。見学に来ました」


「びっくりしたあ! え、え、ええ? いつからいたの、さっきまでいなかったよね?」


「いえ、俺と一緒のタイミングで入ってきましたよ」


 ???

?   ?

   ?

  ?

  ?


  ?


「ここまで困惑した顔、初めて見ました。けど、気持ちは分かります」



「なるほどね! 隠密系の能力者なんだ~!」


「はい」


「不思議だね~! 今はこうして普通に見えてるのに、さっきまでは見えなかっただなんて」


「えへへ」


「見えなかったというよりも、『無視してた』が正しいと思いますけどね。無意識の内に、そこを重要視しないようになっていたと言いますか……」


「うん、その違いがよく分かんない!」


「……さいですか」


「でも、ホント凄いね! 私、一応第六感があるけど、それでも気づけなかったもん。これ、魔法杯で物凄い活躍を出来るんじゃない?」


「そうですか? 私、赤木君には見つかってしまうので、第六感を持ってる人には見えているのかと」


「そうなの? 加奈ちゃん、気付いてた?」


「いいや、無理だった。だから、第六感の持ち主でも見破るのは難しいと思うぞ。じゃあ何故赤木君に認識できるのかと言う問題が出てくる。これに関しては完全に憶測だが……」


 あ、あれ? まさか俺の「自称第六感」が実は魔力感知という物だってバレてしまう……? いやまあ、このくらいならばれても問題ない……と思いたいけど。

 焦る俺。しかし、桜葉先輩は見当違いな結論を出した。


「赤木君が深層心理で常に神名部さんの事を考えている事が原因ではないかな?」


「へ?」


 全然違う~! というか、なんてこと言ってくれちゃってるんですか!!


「「「え?!」」」

「……ぽ///」


 周りにいた人、具体的には暁先輩と七瀬さんと宮杜さんが一斉にこっちを向いた。


「あ、あ。赤木君……そうだったの?」

「そ、そういう事だったのね! なるほど。う、うん。応援するよ」

「愛は全てを超越するって言いますものね」


「い、いや。違う……」


「愛? ああいや。私が言いたいのはそういう意味ではなく。常に神名部さんの事を警戒しているという意味だ。いつ背後を取られるか分からない。そう思って常に警戒心を緩めていないから、隠密を看破できるのだと思う」


「そうです! いや、深層心理の事なんで、自分では分からないですけど」


「な、なーんだ」

「そ、そっか。そっか、そっか」

「なるほど、そう言う意味ですか……」


「私……警戒されてる? 嫌い?」


「いや、そんな事はない。断言する」


「じゃあ、好き?」


 おい、なんて答えるのが正解なんだよ、これ。なんでこんな事になったんだ?

 ちらっと七瀬さんと宮杜さんの方を見る。そっか、そうだよ。こう答えたらいいんだ。


「パーティーメンバーだからな、信頼してるよ。好きかって聞かれると、そうだな。七瀬さんや宮杜さんも合わせて、このパーティーが好きかな」


「ん、なるほど」


 俺はピンチを乗り切った。はあ~。テストが終わって、やっと今日から休憩できるって思ってたんだけど、なんかすっげー疲れたなあ……。


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